カメラの使い方に慣れ、撮影の楽しさを知るのに最適な入門ソフト:「AFRIKA」レビュー(2/2 ページ)
アフリカの大地で写真を撮影する。それに徹底してこだわり抜いた作品が「AFRIKA(アフリカ)」だ。ここでプレイヤーが求められるのは、いかに人の心を動かす写真を撮るかというフォトグラファー魂。時が経つことをしばし忘れ、ただただ被写体を追い求めるべし。
依頼を受け、条件を満たす写真を撮影
では、ここでゲームの流れを説明しておこう。
スタート時に男女ふたりのキャラクターから主人公を選択する。男性のエリックはジャーナリスト、女性のアンナは動物学者である。まあ、職業は副次的な要素なので、あまり気にすることはない。単純に好みで選べばいいだろう。
彼らの活動拠点となるのが自然保護区の外れに設けられたベースキャンプである。ここには地図、撮影機材、その他道具類、睡眠を取るためのベッド、そして非常に重要な役割を担うパソコンが置かれている。
ゲームはパソコンに届くメールで依頼を確認することから始まる。依頼にはメインとサブがあり、メインとなる依頼は同時に2つ受けることができない。サブはいくらでも受けられるので、メインの依頼を果たす過程でまとめてクリアすることも可能だ。
依頼は基本的に動物の写真を撮ることで果たされる。とはいっても動物が写っていればそれでいいというわけではない。対象となる動物の種類が決まっているのは当たり前としても、動作や状況などが規定されることも多い。序盤の依頼を例に取れば、“シマウマの顔を正面から撮影する”“カバがあくびをした瞬間を撮影する”といった具合だ。前者であれば、シマウマを撮影してもそれが横からだったらクリアにはならない。後者もカバがただ口を開けているだけではダメで、ちゃんとあくびとして口を開けていることが条件となる。
依頼を受けたら、車でベースキャンプを離れ、動物が出現しそうなポイントへと移動する。ここでシャッターチャンスを待つわけだ。動物たちは人間の姿を見れば警戒して逃げていったり、襲いかかってきたりする。そのため、彼らを脅かさないようにしながらベストポイント探さなければならない。このあたりの駆け引きは、プロのカメラマンさながらの難しさがある。
撮影に成功したら、ベースキャンプに戻り、写真をパソコンに取り込む。そして依頼主へメールで転送すればOKだ。ただし、条件を満たしている写真でも、アングル、距離、テクニックなどにより、評価が異なってくる。いい写真ほど高額で買い取ってくれるので、その分速く道具類を買い揃えることができる。なお、撮影した写真の評価判定は何回でもやってくれるが、同一の依頼からは報酬は1回しかもらえない。つまり、条件を満たした写真を撮ったとしても、これでは評価が低そうだと思ったら送らずに再チャレンジし、納得のいくクオリティに到達してから送ることもできるわけだ。
報酬をもらえない写真にこだわるのも楽しい
ところで報酬という概念が入ってくると、どうしても金がもらえない写真は意味がない、という考えに陥りやすい。このゲームでは、これは危険な発想だ。
そもそも金で購入できる道具類は全部買わないとゲームができない、あるいは展開が不利になるといったことのない、どちらかというと趣味的な品が多い。だから金がないよりもあったほうがいいに決まっているとしても、遮二無二ため込むほどの重要性はないのだ。
売れる写真よりも大切なのは、自分がいいと思える写真を撮ること。自然保護区内を散策し、動物や自然が見せる“最高の瞬間”を探すことこそ、最大の目的なのである。自信作が撮れたら、オンラインで投稿してみるのもいいだろう。オンラインメニューには、世界中のプレイヤーが撮影した写真を閲覧できる機能がある。またアイテムのひとつである“Photo Flame”を買ってベースキャンプの壁にかけてもいい。機能重視で飾りのないベースキャンプが自分の撮った写真で埋められていく。それはそのままプレイヤー自身への勲章ともなる。
自分自身の目標にこだわるようになった時、被写体は動物だけではなくなる。時間の移り変わりによってさまざまな姿を見せる自然の情景も見逃せない。最初は草原地帯にしか行けないが、依頼を果たしていくことで探索できる区画も湿原、峡谷、平原などに広がっていく。そしてそれぞれの地形には、そこに暮らす動物と自然が織りなす美しさが待っている。それらを見れば、思わずシャッターを押さずにはいられなくなるだろう。
動物や自然という被写体を通して、撮影技術を磨き、撮ることの楽しさを知ることができる「AFRIKA」。その魅力は自ら積極的に踏み込んだ者にだけ開かれる。マニュアルの最後には、ゲームを進めるためのヒントが書かれているが、それはほんの補助的な要素に過ぎない。サファリに飛び込み、世界の誰よりもいい写真を撮る。それを目指そうとする気概がゲームの面白さを深めていく。その意味では、プレイヤーが独自の目標を定めてプレイをしていく箱庭型ゲームに近いといえよう。
こうしたゲームでは待ちの姿勢では楽しめない。
例えば、ゲームの序盤はベースキャンプと撮影ポイントとの間をガイドが運転する車で移動することになる。この時はスキップできず、マップ上を実際に移動する演出が入るのだが、依頼を果たすことばかりに目がいっていると、この間が無駄にしか感じなくなり、苛立ちを覚えてしまうかもしれない。しかし、移動中にも周囲360度を見渡せるようになっているので、何か被写体はないかと気を配っていれば思いもかけない、いい写真が撮れる可能性もある。実際、ベースキャンプの近くにはサバンナモンキーがいるのだが、移動中に注意を払っていないと見落としてしまうだろう。少しゲームを進めて自分で車を運転できるようになってからはなおさらで、ただ急ぐだけで保護区内を暴走族のごとく飛ばしていてはシャッターチャンスはどんどん失われていく。
エンターテイメントの魅力は、実生活では体験できないことを疑似体験させてくれることにある。交通機関が発達した現在でも、アフリカの自然保護区に出かけ、そこで自由な撮影を許されるという経験をできる人はそう多くないだろう。ゲームの中とはいえ、せっかくの機会なのだから、もっとサファリを楽しんでみてはいかがだろうか。
最後に一言。カメラの楽しさを知り、撮影技術の修得をうながしてくれるこのゲームには、優れて文化的な側面があることを指摘したい。よくあることだが、子供時代に見たテレビドラマや映画に影響されて職業を決める人がいる。これはテレビや映画が文化としての位置づけにあることを示しているといえよう。残念ながらゲームはまだいいところサブカルチャーのレベルに留まっていて、カルチャーの領域までは達していないように思えるが、「AFRIKA」をプレイすることで写真に目覚め、プロのカメラマンになった人が出たとしたらどうだろう。そしてその人がピューリッツァー賞のように世間が認める賞を受賞した時のスピーチで、「自分は『AFRIKA』というゲームでカメラの楽しさを知り、カメラマンの道を目指したのです」と言ってくれたら。
その時はゲームもテレビや映画と並ぶ、カルチャーの地位に昇ったといえるのではないか。そうなれば、マスコミをはじめとする世間の認識も変わり、凶悪事件が起こるたびに根拠不明確なバッシングが起こるような現状から脱却することができるだろう。その意味で、プレイヤーの試行錯誤を促し、それによって何らかの教育効果を生み出すタイプのゲームは、業界全体の発展のためにも意義ある存在だといえるのだ。
「AFRIKA」(アフリカ) | |
対応機種 | プレイステーション 3 |
ジャンル | SAFARI(サファリ) |
発売日 | 2008年8月28日 |
価格(税込) | 5980円 |
CERO | A(全年齢対象) |
仕様 | モーションセンサー/DUALSHOCK3振動機能対応、必要HDD容量:2260MB以上 |
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