歴史を変えた1日を体感――コーエーが調理した「関ヶ原の戦い」はポップでコミカルなアドベンチャー:「采配のゆくえ」レビュー(2/2 ページ)
コーエーにしては珍しい、ポップでコミカルなアドベンチャー「采配のゆくえ」。主人公は豊臣秀吉に忠誠を誓い、関ヶ原で西軍を率いる石田三成。宇喜多秀家や小西行長、島津豊久、細川忠興ら、一癖も二癖もある武将を説得し、天下分け目の戦いに挑め!
武将の心を変える「説得」
西軍を束ねる三成だが、武将たちが言うことを聞いてくれるとは限らない。そうした場面で始まるのが「説得」パートだ。場所を移動してさまざまな人物との会話で入手した「言ノ葉(証言)」や、こちらの根拠を示す品などを相手にぶつけて、考え方を変えていく。間違った選択肢を選ぶと「聞く気」を表す扇が落ちてしまい、5回ミスするとゲームオーバーだ。
例えば作戦上、後退を命じても「まとめて、わしが叩きつぶす!」と戦闘を主張して退かない宇喜多秀家。「わしは退かぬ、退く必要もない!」と食ってかかる秀家に、まともに戦う危険性を主張する。ここでは島左近が以前に指摘した言ノ葉「挟み撃ち」を選択し「敵は一部隊ではない!」と発言するのが正解。すると秀家が「お前に、戦術の何が分かるというのだ!」とさらに反論してくるので、また適切な言ノ葉を選び論破する……。これを繰り返して、徐々に納得させれば成功だ。
この説得システムは、ゲーム性としてもオリジナリティがあるが、相手の性格や生き様がダイレクトに伝わってきてシナリオにも効いてくる。なぜ宇喜多秀家はそんなにも自信たっぷりに振る舞わなければならないのか。幼少時代のエピソードも挿入され、ただのわがままに思えた秀家の人となりもより深く理解できる。頑として言うことを聞かないただの邪魔者ではなくて、人と人との想いがぶつかる合戦という、物語全体の主題に沿ったシステムになっている。
新感覚の合戦パート
先に述べた説得パートに加え、もうひとつの目玉が、マス目上に位置する各武将の部隊に指示を与える合戦パートだろう。三成は本陣に残り、戦場に出た武将たちの「報告」を受けて「伝令」で指示を与える。伝令で下手な選択肢を選ぶと、説得パートと同じく、ライフにあたる「戦意」を表す矢がひとつ減り、5つすべてがなくなるとゲームオーバーだ。
重要なのはそれぞれの部隊が得意とする攻撃方法。横一列に並んだ敵部隊を一斉に攻撃できる「鉄砲射撃」や、縦一列の敵部隊を蹴散らす「騎馬突撃」などをうまく使えるよう部隊を動かす。敵の意図も読んで、伝令で「前進せよ!」「南に向かえ!」といった選択肢を選ぼう。
この合戦パートは自由度が高い戦略シミュレーションというわけではなく、状況を聞いて正解の選択肢を選ぶアドベンチャーの枠組を保っている。とっつきやすく、しかも三成たちが苦しい局面をどう乗り越えたか、自分の手でプレイしながら戦局を体感できる作りだ。
また、ゲームが進むとマス目上で味方のコマを動かして敵を誘導する、詰め将棋のような「天眼」というパートも登場する。こちらも、工夫すれば独立したパズルゲームとしても成り立ちそうだが、ストーリーの勢いを削がないようにあえて控えめにしている印象がある。
できれば、一度クリアしたあとにもっと手応えのある合戦や天眼のおまけがあってもよかったと思うが……。
歴史を遊ぶ新たな切り口
あえて残念な点を挙げるとすると、ラストが思いのほか、あっさり終わってしまうところ。もう少し後日談などを膨らませてほしかったというのが正直な感想だ。作り手の意図とは外れるが、歴史とは違うifの別ルートを用意して、大風呂敷を広げても面白かったように思う。
クリアしても、ギャラリーやおまけシナリオがなく、余韻にひたりたいのにぶっつり切られてしまった、そんな印象が強い。小説やアニメと違って、クリア後のおまけで余韻にたっぷり浸れるのは、ゲームの利点でもある。このあたり、次回作にぜひ期待したい。
プレイ時間は10〜15時間程度と心持ち短いが、熱っぽさを切らさないで遊ぶにはちょうどいい。関ヶ原の戦いをベースにしたまったくのフィクションではなく、演出や解釈によって、関ヶ原の戦いそのものをエンターテイメントに仕上げた采配のゆくえ。歴史上には、まだまだ語るべき豊かさを持った合戦や事件が多く存在する。今後、コーエーが歴史をどう調理していくのか、ますます楽しみになった。
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