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シナリオと謎解きで魅せる“良質な文学”「アナザーコード:R 記憶の扉」レビュー(1/2 ページ)

ニンテンドーDSの初期に発売され、ハードの機能を駆使した謎解きが好評を博した「アナザーコード 2つの記憶」。その続編がWiiで登場。成長したヒロイン・アシュレイの笑顔に会える。果たして母の死の真相は?

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ニンテンドーDSからWiiへ、人気アドベンチャーが転身

 ニンテンドーDSが誕生したのが2004年12月。その3カ月後、今回紹介する「アナザーコード:R 記憶の扉」(以下、アナザーコード:R)の前作にあたる「アナザーコード 2つの記憶」(以下、アナザーコード)が、ニンテンドーDSで発売された。

 今となっては二画面やタッチペンを使った操作などは当たり前だが、当時はまだ珍しく、ユーザーも慣れていなかった。跳ね橋のハンドルをタッチペンで回転させる、マイクに息を吹きかけてほこりを飛ばす……などなど、ニンテンドーDSの機能を生かした謎解きは、新鮮な驚きを持って迎えられた。特に、写真立てに隠された謎には驚いたユーザーも多かっただろう。

 それともうひとつ、アナザーコードが話題となった理由が、14歳になる少女アシュレイが活躍するみずみずしいシナリオ。幽霊の少年ディーと交流しながら孤島の館に眠る謎を解いていく物語は、良質の文学を読むようで、その世界に思わず魅了された。

 今回のアナザーコード:Rは、アナザーコードの2年後の世界を描いたもの。単独でも問題なく楽しめるが、アナザーコードのストーリーが前提となっているため、ところどころに初見ではなじみにくい単語も出てくる。まずは前作のシナリオを振り返っておこう。

 ――叔母のジェシカから「両親は事故で亡くなった」と言い聞かされて育った13歳の少女アシュレイ。だが、死んだはずの父リチャードから1通の手紙が届く。それは「14歳の誕生日を一緒に過ごそう」という内容だった。

photo 2年前を回想するリチャード。前作でアシュレイは、ブラッド・エドワード島にある無人の屋敷の奥にある研究室で、死んだと思っていたリチャードを探し出す

 実は、アシュレイが3歳の時に母サヨコは殺され、父のリチャードはサヨコとの共同研究で考案した記憶制御装置「アナザー」を秘密裏に開発していたのだ。手紙に添えられた機械DASを携えて、アシュレイは西海岸沖のブラッド・エドワード島に向かう。ここで出会ったディーとともに、アシュレイは無人の屋敷を探索し、無事にリチャードと再会を果たす……。

 今回のキャッチコピーは“小説を読むように、解くように”。前作を引き継ぎ、シナリオと謎解きのふたつがメインとなっている。謎解きは、前作に比べると比較的やさしめに抑えられているが、やはりWiiリモコンの機能を生かした、ひらめきが必要な仕掛けが多い。

 一方で、シナリオ面はアメリカ的な雰囲気が強くなり、ティーンエイジャーの少女と人々の触れ合いが温かい。全体に“家族の絆”というテーマがあり、アシュレイとリチャード以外にも多彩な家族の姿が登場し、重層的に描かれている。謎に満ちていて、終盤はハラハラさせられるが、殺人もなくハートフルなシナリオが、心にジーンとくるのだ。

 制作したのはニンテンドーDSのアドベンチャー「ウィッシュルーム 天使の記憶」でスマッシュヒットを飛ばしたCING。スタッフも共通だ。シナリオはウィッシュルームや往年の名作推理アドベンチャー「J.B.ハロルド」シリーズを手がけた鈴木理香氏。キャラクターデザインも前作と同じく金崎泰輔氏が担当している。


photo 美しい湖水が名高い閑静な観光地ジュリエット・レイク。今回の舞台は非常に開放的。爽やかな風を感じる
photo Wiiとなって身振り手振りを交え、多くの表情を見せる登場人物たち。特にアシュレイは選択肢もジェスチャー。分かりやすい

母の死の真相に迫るアシュレイ

 まずは一方の柱であるシナリオから紹介しよう。

 ――ブラッド・エドワード島での事件から2年。16歳になったアシュレイは、ギターをかき鳴らしながらひとりつぶやいていた。
 「パパなんて……大嫌いだ」

 あの事件のあとで、リチャードは研究から足を洗い、アシュレイと一緒に暮らすと約束しておきながら、1年後には再び「JCヴァレー」という研究所に就職してしまった。

photo バンドのコンテストを目前に、家からバスで4時間のキャンプ場へやってきたアシュレイ。そんな彼女を意外なハプニングが待ち受ける

 そんなリチャードから唐突に、会社のファミリーキャンプへの誘いがあった。叔母ジェシカの後押しで、キャンプへ参加することにしたアシュレイ。だが、バス停には迎えにくるはずのリチャードの姿もないうえ、誰かに突き飛ばされて大切なカバンを盗まれてしまう……。

 物語は2007年8月、少し寂れた観光地ジュリエット・レイクのとある1日を描いている。シーズンにもかかわらずあまり人がいない湖畔のキャンプ場にやってきたアシュレイ。この場所には、13年前にアシュレイを守って殺された母サヨコの思い出が隠されていた。

 次々と母に関する記憶が蘇ってくるアシュレイ。母はなぜ3歳の自分を連れてこの地に来たのか? そしてなぜ、殺されなければならなかったのか?


photo キャンプ場を見て、忘れていたはずの母の記憶が蘇るアシュレイ。13年前、サヨコはリチャードに無断でアシュレイをここに連れてきたようだ……

 前作に比べて登場人物も多く、会話も丁寧に描かれているため、進行はややゆったり気味。それが雰囲気に合っているとはいえ、やはりゲーム序盤は、乗ってくるまでに時間がかかる。

 ただし、中盤に入ると加速度的にドラマに引き込まれていく。アシュレイの中でフラッシュバックする不思議な記憶。湖畔に建つ時計台の噂。家出少年の失踪した父親。汚染された湖……。さまざまな謎が同時進行で進み、終盤、それらがどう収束するのか気になって仕方なくなる。

 一方、古き良き成長小説の香りを残したテイストは相変わらず。ひとりで自立したいようで、ちょっと不安な少女の心理を細やかに描く。3歳下の少年マシューと出会って、またひとつ成長するアシュレイ。複雑な16歳の少女を、1日の事件の中でさまざまな角度から見せるのがとてもうまい。

 ミステリーというよりは、サスペンス風味のマイルドな青春物語という位置づけといえるだろう。


photo マシューの父マイケルはジュリエット・レイク周辺の観光開発を行っていたが、5年前に失踪した
photo 湖畔に住む頑固な老婆シャーロット。彼女の父親は湖畔の時計台を設計したが、今では封印されている

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