シナリオと謎解きで魅せる“良質な文学”:「アナザーコード:R 記憶の扉」レビュー(2/2 ページ)
ニンテンドーDSの初期に発売され、ハードの機能を駆使した謎解きが好評を博した「アナザーコード 2つの記憶」。その続編がWiiで登場。成長したヒロイン・アシュレイの笑顔に会える。果たして母の死の真相は?
夏に生まれる新たな出会い
ジュリエット・レイクでは、住人や父の仕事仲間、旅行者たちとの出会いが待ち受ける。特に、何らかの事情を抱えていそうな大人たちは、脇役も含め、いい味を出している。彼らとのやりとりも魅力のひとつだ。簡単に登場人物を紹介していこう。
●アシュレイ・ミズキ・ロビンズ
日本人の母サヨコから受け継いだ黒い瞳が印象的な16歳の少女。前作ではやや陰のあるナイーブな感じの女の子だったが、今回はギターにハマってプロのミュージシャンを目指し、炭酸飲料「クールポップ」の新製品にはしゃぐなどアクティブな面も見せる。
●リチャード・ロビンズ
アシュレイの父親で、人の記憶を書き換えるアナザーを開発した科学者。アシュレイとは11年間会えず、ようやく再会したはずが、またもや娘を置いてバスで4時間という遠距離の企業に就職し、研究三昧の日々を送っている様子……。ある意味ダメなお父さん。難しい年頃の娘をほったらかして、帰ってこない理由とは?
●マシュー・クルーソー
行方不明の父を探してジュリエット・レイクにやってきた13歳の家出少年。最初はアシュレイから逃げ回っているが、徐々に仲良くなり、1日だけという約束で一緒に父の失踪の手がかりを探す。マシューの父はクルーソー・リゾートという会社を経営し、湖畔を観光地として開発していた。
●ライアン・グレイ
リチャードが勤めるJCヴァレーの同僚で10代から研究に携わっている天才科学者。リチャードの代わりにアシュレイとのバーベキューに付き合ってくれる。どうやら母のサヨコと知り合いだったようだが……。
●エリザベス・アルフレッド
リチャードの上司、レックス・アルフレッド所長の娘。わがままで気分屋の性格で、初対面時からアシュレイを馬鹿にしている様子。自分の気持ちに素直になれないトラブルメーカー。母と離婚した父とは仲が悪く、ほとんど口もきかない。
本作はトゥーンレンダリングを採用し、キャラクターは手書きの味を生かした3Dモデルになっている。物を渡したり、電話を取ったり、アクションも細かく、会話を交わすうちに本当に生きている人物に思えてくる。
また、3Dと2Dを融合させたような背景のグラフィックも、アメリカの空気感が出ていていい。特に、マップとマップのつなぎ目を移動する際は、倒れていた木が立ち上がり、建物がポンポンとセットされる、疾走感あふれる演出が効いている。その様子は一度見てみてほしい。
美しい湖に眠る謎
本作は全9章立て。といっても、各章ごとに舞台が変わるわけではなく、1日の流れを丁寧に追っている。ゲームシステムはWiiリモコンを生かしたもの。画面左右の矢印をポイントするか、十字ボタンを押して、さまざまな場所へ移動する。室内など、周囲をじっくり調べられる場所では「見回し場面」となり、ポインタでタンスや机の上を詳細に調べることもできる。電池やロープなど、使えそうなアイテムを見つけて入手しよう。このあたりは懐かしいアドベンチャーの雰囲気に近い。
謎解きはいくつかのパターンに分けられる。まずは、Wiiリモコンを何かに見立てて特殊な動作をするパターン。これは、Wiiリモコンを試験管に見立てて振ったり、段ボールの切れ端に見立てて火を扇いだり、とさまざまなバリエーションが存在する。前作にあった謎のように気がつかなくて苦しむという感じではないが、リモコンを使った楽しい操作感覚が味わえる。
また、入手したアイテムは組み合わせることも可能。穴の開いたホースは、何と組み合わせれば使えるようになるか? など、ケースに合わせて試行錯誤しよう。アイテムの数が多いので、正解を見つけるのはちょっと苦労するかも?
もうひとつはパズルや暗号など、ひらめきや思考力が問われるパターン。折り紙を正しく折ってパスワードを入手したり、天秤のバランスを取れるだけ分銅を乗せたりと、こちらもパターンはいろいろだ。特に、母サヨコが開発した謎の機械RAS(外見上はWiiリモコン)でのパスコード解読が後半に頻出する。
湖畔の施設には、特殊な非接触型のロックが掛けられているものがあり、RASならこれらを外せる。RASをロックに向けると「AB↑1+」といった具合に数列が表示される。これに応じてボタンを押すと扉が開く。
しかし、簡単にはいかない。例えば「12AB3」なんて表示された場合はどうするか? Wiiリモコンに「3ボタン」はない。どうにかして「3」を入力しなければならないが……。このロック解除は意外な解答もあり、もっとたくさんの問題を解いてみたかった。最後のほうは似たパターンが多く、少々残念だ。
記憶を巡る思い出深い物語が待っている
プレイ時間は20時間弱。前作よりもボリュームアップが図られており、セリフの量も多い。演出過剰にせず、余韻を持たせる感じで仕上げられているのが特色だろう。もっとミステリー寄りにも、バンドを絡めた青春小説寄りにもできたろうが、あえてそうした濃い味をやめて、大切な記憶を軸に、切なくもさりげなくまとめている。だから、プレイが終わった当初は少し物足りない気もするが、ジワジワと後を引く。これは書き手の鈴木理香氏の持ち味だろう。
細かいことを言えば、Wiiなのにボイスがないというのはやはり寂しく感じる。ただ、これは小説をイメージしたゲームととらえるなら仕方がないか。ゲーム側であえて色をつけることを避けた感じと受け取れる。
親子とは何か? 思い出の意味とは? ひとりの少女の1日を通して語りかけるアナザーコード:R。シナリオを楽しむアドベンチャーとしての本領を発揮している。
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