映画「リアル・スティール」もリアルだったが、日本のリアル「リアル・スティール」はもっとリアルだった!!:戦うロボット(3/4 ページ)
2020年のアメリカでは、もはやボクサーとして闘うのは人間ではなく、高性能のロボットだった……という世界が描かれたのが映画「リアル・スティール」。2012年の日本には、そんな「リアル・スティール」の世界を体現するかのようなロボットが存在するんです。
キングカイザー制作者、丸氏にインタビューを敢行!!
さて「このキングカイザーを作った丸さんっていったいどんな人なんだろう?」っと思うのは、読者諸兄姉だけではありません。興味津々となった筆者も、キングカイザーも出場経験のあるロボットプロレス「できんのか!」の影の支配者(プロデューサー?)、ミステル・タマオ総統を介してインタビューを申し込みました。「リアル・スティール」と丸さんとご家族、そしてキングカイザー制作秘話をうかがいましたので、ぜひご覧ください。
―― 映画「リアル・スティール」を観て感動されたとのことですが、どのあたりに共感されたのでしょうか?
丸氏 皆さん普通に観て楽しい映画だと思うのですが、それに加えて、我々家族には非常に重なる部分が多くて感情移入できたんです。例えば、父親と息子がロボットバトルの試合をするために全国を転戦するところ、ロボットが人間の動きをトレースする機能で闘っているところ、ファイトマネーを次の新型ロボットの資金にしているところ、地方試合や小さな大会で腕を磨いて大きな闘いに挑んでいくところ、父親がロボットを作り上げ息子がプログラミングをするところ、息子のアイディアで新攻撃技を生み出すところ、ロボットを通して親子のコミュニケーションをしているところなどなどです。
私は離婚もしていませんし、家族との関係は比較的良好だと思っていますが、それ以外の主人公が息子との会話の中でモチベーションを高めて闘いに挑んでいくところなど、実体験を思い出してジーンときてしまいました。キングカイザーが初めて競技会で負けたとき、息子たちは泣きました。私は「いつかは負けることもあるだろう」と思って受け入れていたのですが、息子たちの号泣する姿はショックでした。それを見て、「もっと強い負けないロボットを作ろう! 二度と息子たちにこういう気分を味あわせたくない!!」と志を新たにしたのを覚えています。
―― 学校で選考されていた学科や、ご職業がロボット制作のきっかになったのでしょうか?
丸氏 高校は理数科、大学は工学系と学生時代は理系一筋でしたがロボットに関する学科を専攻していたわけではありません。運動がなんでも好きで、特に格闘技は小学校のときから空手と柔道をやっていました。専攻してきた学科の影響というよりも、ロボットが登場するアニメやゲーム、格闘技が好きだったことが、ロボットを制作し格闘競技会に参加するきっかけとなりました。現在の仕事は技術職ですが、直接ロボットに関係があったり、IT系だったりはしません。ロボットは完全に趣味で家族ぐるみで楽しんでいます。
―― ロボット制作の予算はどれぐらいなのでしょうか?
丸氏 ロボットを制作するときは、それぞれ目的が違って実現したい能力も変わってきますから一概には言えませんが、10万円から30万円ぐらいでしょうか。ローカルな競技会だと優勝賞金が10万円から30万円、大きい大会だと100万円のものもありますから、勝ったら元が取れるというか、結局、また新しいロボットの制作費に消えてしまうのですが。
―― ご家族で楽しんでらっしゃるということですが、奥様の反対はありませんでしたか? 制作費が制作費ですし……。
丸氏 実はロボットを作る前はゴルフに夢中になっていたことがあるのですが、ゴルフだと休日まるまる留守にしてしまって家族と過ごせません。私が凝り性なので、ゴルフクラブなどもついつい買ってしまって道具にお金がかかってしまうということもありました。それにゴルフを楽しめるのは私一人でしたが、ロボットなら息子たちも一緒に楽しめます。休日ににずっと息子たちと一緒にロボットのセッティングをしているのを見て、妻も喜んでいるみたいです。
ですから、特に妻に反対されたりとかそういったことはないです。ただ、最初にロボット競技会で優勝して賞金をいただいたとき、「あら、10万円のロボットで賞金10万円もらえちゃうならお金がかからなくていいわね!」ということになってしまって、次の大会に出場したとき変なプレッシャーがかかってしまったということはありました(笑)。
結婚式の余興にロボットでパフォーマンスしてほしいと頼まれたことがあるのですが、そのとき妻が衣装を縫ってくれました。ロボットに話しかけながら楽しそうに作業していましたので、人形やペット感覚なのかもしれません。妻は格闘技は嫌いなので、ロボット同士の闘いはあまり見たくないそうです。野球は好きなのでスポーツがすべて嫌いというわけではないのですが、このあたりは男性と女性の感覚の違いかもしれませんね。
―― アニメやゲームに登場するロボットと違う、実際のロボットだけの魅力はなんでしょうか?
丸氏 最近は、仮装現実的なものが盛んな印象がありますが、実物を直接制御するロボットの世界は面白く奥深いものがあります。私はアニメもゲームも好きですが、現実のバトルでは金属と金属が当たる音など、現場にいて生で感じないと分からないリアリティがあるんです。そういうものも「リアル・スティール」はうまく表現できていると思いましたね。
―― 「強いロボット」を作る秘訣や、競技会出場の際に心がけていることはありますか?
丸氏 ロボットを作るとき、高性能なものを目指してしまいがちです。でも、キングカイザーはそうはしていません。100のパワーを出せるモーターがあったとしても、70から80でやめておくんです。家電など市販されている製品もそうなっていると思うのですが、そうすることで信頼性を高め故障やトラブルを減らし、パーツの寿命も延ばすことができます。
大きな競技会だと1日で5試合したりしますが、連戦していると必ずどこか故障したり、不具合が出てくるものです。私はとにかく準備が大事だと思っています。思いつく限り準備万端整えて出場する。大会出場時は予備パーツは必ず用意しますし、撮り直しができないテレビ撮影などでは同じロボットを2体制作して予備機体として持っていきます。
それから、いろいろな知識を増やすようにしています。最初に競技会で負けたときの原因は無線の故障でした。そのため、機械だけでなく無線のことも調べて研究しました。一見関係ないことでも参考になることがあります。例えば、F-1も参考にしています。フォーミュラーカーは、ノーズウイングやリアウイングなど壊れやすい部分をピットで一瞬のうちに交換できるように設計されています。キングカイザーも同じで、腕や脚など壊れやすい部分はすぐ交換できるように設計しています。
具体的には極力ナットは使わず、すべて電動ドライバーで回すことができるネジを使うようにしていますし、そもそも設計段階でネジの本数はなるべく減らします。また、ステンレスネジは力がかかる強度が必要な部分だけにして、そのほかの部分は磁力が働くクロムメッキのネジを使います。細かなことですが、ドライバーの磁石に付かないステンレスネジだと、ネジが落下してしまい交換作業に手間取る可能性があるからです。
対戦相手が決まったら事前に情報収集します。そしてムービーなどから動きが分かったら、スパーリング用に同じ動きができるロボットを制作して徹底的に練習します。キングカイザーのメインパイロットは、長男の健太ですから、スパーリングの相手は私か次男のセカンドパイロット、龍馬です。
―― キングカイザーを見て「自分も作ってみたい!」と思った読者諸兄姉にアドバイスをお願いします。
丸氏 やはり、最初は各社から販売されているロボットキットを購入することをおすすめします。近藤科学のKHR-3HVやヴイストンのRobovie-Xなど、オールインワンのキットを買って組み立ててみる。次はそれを少しだけ改造して動かしてみる。そういうことを繰り返していくうちに、オリジナルロボットを制作するスキルがついてきます。私も最初は近藤科学製キットのKHR-1を組み立てることから始めましたし、初めてオリジナルロボットを制作するまでは板金加工なんてしたことがなかったので、カッターと定規でアルミ板に何回も切り込みを入れて、折り曲げて切断し、ハンドドリルで穴を開けていました。要はやる気の問題です。私はいつも息子たちに「できるかできないかじゃない、やるかやらないかだ!」と言っています。
各地で行われているロボット関連のイベントに参加するのもオススメです。参加することで仲間、先生ができるんですね。とにかく、1人でも多く二足歩行ロボットのオーナーが増えて競技会などで切磋琢磨、交流できればそれだけ技術が向上し進歩することになりますから、新規のロボットオーナーさんは大歓迎ですよ! 私も今後は、小型で飛び跳ねたりするようなロボット制作にも挑戦したいと思っています。いま息子たちと観ているアニメ、「ダンボール戦機」のようなことができるようになったら面白いですよね。
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