第19回:仲間といっしょに遊べば楽しさ倍増! 同時プレイはなぜ面白いのか?:なぜ、人はゲームにハマルのか?(3/3 ページ)
「なぜ、人はゲームにハマルのか?」をまじめに考察する不定期企画の19回目は、誰かと一緒にゲームをする楽しさを解明してみます。
ケンカ上等!? プレイヤーが勝手にルールを変えて遊べるのも大きな魅力
仲間とのあうんの呼吸でコンビネーションプレイを繰り出し、敵を倒したりハイスコアを更新したときは実に快感です。しかし、ときには発想の転換でゲーム本来の目的やルールを度外視し、パートナーと敵対しながら遊ぶことでゲームが面白くなることもあります。
あえて協力することを一切拒否して、仲間同士で戦っても面白いゲームの典型例は冒頭でもご紹介した「マリオブラザーズ」です。わざと味方プレイヤーの体を押して近付いてきた敵にぶつけたり、あるいは味方が敵をキックして倒そうとした瞬間、POWブロックをたたいて敵を復活させてミスを誘うなど、工夫次第でイジワルしつつも楽しく遊べるのです。実際、筆者も当時は友人同士でのバトルを楽しんだ思い出があります。
同じく、「バルーンファイト」でもプレイヤー同士が戦う遊び方ができます。本作では主人公が身に着けた風船が全部割れると落下してミスになりますから、2人でバトルをすればサシで戦う風船割りゲームへと変ぼうします。また「アストロロボSASA」では、味方のショットが命中すると一定時間シビレてしまい、なおかつエネルギーが減ってしまうペナルティが存在するのでこれを逆用した「ケンカプレイ」を楽しむことも可能です。さらに、「デビルワールド」のボーナスステージでも踏むと画面スクロールの方向が変わる矢印を利用すれば、わざと相手をカベに挟んでミスを誘うというテクニック(?)にも応用できます。
(C)1983 Nintendo
(C)1984 Nintendo
こうした遊び方は古いゲームに限らず、前述の「Newスーパーマリオブラザーズ」でも同時プレイを利用すればもちろん可能です。また、本作では最初からプレイヤー同士で戦って遊ぶコインバトルモードも搭載するなど、そのDNAは現代にも脈々と受け継がれています。ただし、度が過ぎるあまりリアルファイトなどに発展して、逆に友人を失ってしまっては本末転倒です。このような遊び方をする際はまさに取扱注意、後になって取り返しのつかないことにならないようくれぐれも気を付けましょう(笑)。
同時プレイが可能だからといって、すべてのゲームでプレイヤー同士が攻撃し合えるかというとけっしてそうではありません。むしろその逆で、いざ調べてみるとあらかじめプレイヤー同士でのケンカを防止するための対策を施してある例がたくさんあることが分かります。先ほどもご紹介した「デビルワールド」をはじめ、タイトーが1986年に発売した「バブルボブル」などの作品では、主人公のキャラクター同士がピッタリ同じ位置に重なった状態で待機したり、同じ通路や床の上をすれ違うことができるようになっています。これによって、「マリオブラザーズ」のように仲間同士での押し合いが発生することを未然に防いでいます。
また「デビルワールド」や「エグゼドエグゼス」、KONAMIの「ツインビー」などのゲームでは主人公同士が重なることはできないものの、味方の発射したショットに触れてもミスにはならないように配慮されています(※)。もしパートナーを倒せるようになっていたとしたら、敵の激しい攻撃を止めようとついついショットを連射してしまい、仲間の動きに気が付かずに誤射あるいは誤爆をするプレイヤーが頻発することになり、およそゲームとしては成立しないほどのメチャクチャ状態になってしまうことでしょう。
なお「ファイナルファイト」では、味方のパンチなどが当たった場合は敵を攻撃した時よりもダメージを大幅に抑えるよう配慮しています。もし敵と味方とが関係なく、ガチンコの殴り合いが常時できるようになっていたとしたらもはやケンカのレベルを超えた暴動にしか見えません(想像するだけで恐ろしいですね……)。
このように、味方のキャラクターおよび武器・アイテム類に限り触れても平気にするというアイデアも、ビデオゲームならではの独創的な発明であると言えるのではないでしょうか? なお余談になりますが、SNK(※現:SNKプレイモア)が1986年に発売した2人同時プレイ可能なアーケード用アクションゲームの「怒」シリーズや、セガが1986年にセガ・マークIII用ソフトとして発売した「阿修羅」などでは、味方に武器が命中すると即死してしまいます。これらの作品については、戦場でのリアルさをより表現するためにあえて同士討ちを可能にしたものと思われます。
それにしても、このようなマニュアルにも載っていない遊び方をプレイヤーはどうして思いつくのでしょうか? これは筆者の長年の経験からの推測ですが、繰り返し遊んでいるうちにコンピュータ相手の攻略パターンをほとんど完成してしまい、飽きが出てきたところで「何かもっと面白く遊べる方法はないか?」といろいろ試しているうちに、やがて仲間内で戦っても意外に楽しめることに気づくから、というのが最大の理由ではないかと考えられます。
「マリオブラザーズ」などが発売された1980年代初頭は、まだインターネットはおろかゲーム専門雑誌すら存在しませんでした。ですから、メディアを通じてこのような変わった遊び方を広めた例は筆者の知る限り一切ありません。そんな時代のゲームでありながら、筆者と同世代の知人同士が本作の話題になると不思議なことに「昔は『ケンカプレイ』で盛り上がったよなあ!」などと、まるで事前に台本を用意していたかのようにみんなが同じ体験をしたと語るのです。別にメーカーが推奨したわけでもないのに、全国のいたるところで「ケンカプレイ」が自然発生していたというのは、今考えても実に面白い現象ですよね!
以上、同時プレイにフォーカスした今回のコラムはいかがでしたでしょうか? ファミリーコンピュータ本体が発売されたのは1983年7月ですが、先ほど紹介した「マリオブラザーズ」はそのわずか2カ月後にリリースされています。本作がこれだけ早いタイミングでアーケードから移植されたのは、多くのユーザーに2人同時プレイの楽しさを知ってもらいたいという意図が間違いなくあったと思います。
実は、ファミコン以前の時代に登場したゲーム機にもコントローラーを2個搭載した機種、すなわち2人同時プレイが楽しめるものがいくつも発売されています。1977年に任天堂が発売した「テレビゲーム15」や、1982年に任天堂がバンダイが発売した「インテレビジョン」などがその一例です。そもそも、1人でも遊べるゲーム機の本体を買うと2つのコントローラーが最初からついいるということは、2人でいっしょに遊んだほうがゲームが面白くなるよと言っているに等しいですよね!
昔は同時プレイといえばたいてい2人プレイのことを指していましたが、今ではオンライン対応のRPGやFPS、あるいはソーシャルゲームなどのように、同時に何十、何百人のプレイヤーといっしょにプレイができるタイトルはけっして珍しいものではなくなりました。特にソーシャルゲームについては、多くのプレイヤー同士が協力しながら遊ぶことでゲームの展開が有利になったり、遊べるゲームモードが増えたりするようにあらかじめ設計されています。
例え自分のすぐとなりに仲間のプレイヤーがいなかったとしても、ネットワーク回線を通じて呼吸を合わせ、コンビネーションを編み出したときの快感は昔のゲームのそれとまったく変わりません。現在大人気の「モンスターハンター」シリーズなどでは、強敵を上手な仲間に助けてもらいつつ倒せたときには、これほど同時プレイシステムのありがたさを痛感することはないでしょう。
また、同時プレイ時に「ケンカルール」などの独創的な遊び方をプレイヤーが編み出す行為は、まさに今日で言うところのいわゆるUGC(User Gnerated Contents)にあたると言っても過言ではありません。「ハーフライフ」などの海外製FPSが大ヒットとなったのは、プレイヤーが自由にステージやシナリオをデザインして遊べる機能を搭載し、ユーザー側にあえて遊び方をゆだねるアイデアを盛り込んだこととけっして無関係ではないハズです。時代やジャンルあるいは世の東西は違えども、人がゲームを面白いと思う根幹の部分には案外普遍的なところがあるのかもしれませんね……。
それでは、今回はここまで。また次回お会いしましょう!
今回登場したソフトはココで遊べます!
- 「マリオブラザーズ」:Wiiバーチャルコンソール、ニンテンドーDS用ソフト(ファミコンミニ)
- 「ファイナルファイト」:PS2用ソフト「カプコン クラシックス コレクション」、Wiiバーチャルコンソール(※スーパーファミコン版)
- 「テニス」:Wiiバーチャルコンソール
- 「エグゼドエグゼス」:Wiiバーチャルコンソール、PS2用ソフト「カプコン クラシックス コレクション」
- 「クルクルランド」:Wiiバーチャルコンソール、ニンテンドーDS用ソフト(ファミコンミニ)
- 「アイスクライマー」:Wiiバーチャルコンソール、ニンテンドーDS用ソフト(ファミコンミニ)
- 「デビルワールド」:Wiiバーチャルコンソール
- 「コズモ・ギャング・ザ・ビデオ」:Wiiバーチャルコンソール
- 「バルーンファイト」:Wiiバーチャルコンソール
著者プロフィール
鴫原 盛之 Morihiro Shigihara
1993年よりゲーム雑誌および攻略本などでライター活動を開始。その後、某メーカーでのグッズ・店舗開発や携帯コンテンツの営業、ゲームセンター店長などの職を経て、2004年よりフリーに。現在は各種雑誌やwebサイトでの執筆をはじめ、某アーケードゲームの開発なども手掛ける。著書は「ファミダス ファミコン裏技編」(マイクロマガジン社)、「ゲーム職人第1集 だから日本のゲームは面白い」(同)の他、共著によるゲーム攻略本・関連書籍を多数執筆。近刊は共著「デジタルゲームの教科書 知っておくべきゲーム業界最新トレンド」(ソフトバンククリエイティブ)がある。
Twitterは「@m_shigihara」です。
著者近況
家庭用あるいはソーシャルゲームに限らず、今では町のゲームセンターでも多人数による協力あるいはチーム対戦プレイができるタイトルがもはや当たり前に存在します。ビデオゲームに限らず、メダルゲームでも協力プレイができるものもありますので、来るゴールデンウィークはぜひお近くのゲーセンで遊んでみてはいかがでしょうか?
ただし、対戦で負けたり仲間割れをしたのがきっかけでケンカなどしないよう、みんなで仲良く楽しく遊びましょうね(笑)!
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- なぜ、人はゲームにハマルのか?:第18回:「待って、もう1回!!」――いつの間にかゲームがやめられなくなるフシギな呪文PART2
リスタートの仕組みのスッゴイしかけ。「なぜ、人はゲームにハマルのか?」をまじめに考察する不定期企画の18回目は、続けたくなる“魔法の言葉”について。 - なぜ、人はゲームにハマルのか?:第17回:これ以上ないプレイヤーへのご褒美!? 極上の快感を与えてくれるエクステンドの演出
そもそもエクステンドってなんですか? 「なぜ、人はゲームにハマルのか?」をまじめに考察する不定期企画の17回目は、なんだかお得ですって話。 - なぜ、人はゲームにハマルのか?:第16回:ゲームは見た目がすべて!? ひと目でプレイヤーを虜にするデモ画面の工夫
「なぜ、人はゲームにハマルのか?」をまじめに考察する不定期企画の16回目は、演出面に注目。いわゆるコーヒーブレーク、最近見なくなりました? - なぜ、人はゲームにハマルのか?:第15回:「待って、もう1回!!」 いつの間にかゲームがやめられなくなるフシギな呪文、「コンティニュー」のスッゴイ仕掛け
「なぜ、人はゲームにハマルのか?」をまじめに考察する不定期企画の15回目は、奥が深いコンティニューの話。続きがあるから人は大胆になるのかもしれませんよ? - なぜ、人はゲームにハマルのか?:第14回:これならサルでも遊べちゃう!? いつの間にかゲームがうまくなってしまうヒミツの仕掛け
「なぜ、人はゲームにハマルのか?」をまじめに考察する不定期企画の14回目は、ゲームの腕がめきめきあがる仕組みを解明します。 - なぜ、人はゲームにハマルのか?:第13回:「隠れキャラ」に隠された、プレイヤーをゲームのとりこにするヒミツ(つづき)
「なぜ、人はゲームにハマルのか?」をまじめに考察する不定期企画の13回目は、隠れキャラの魅力についての続きです。 - なぜ、人はゲームにハマルのか?:第12回:「隠れキャラ」に隠された、プレイヤーをゲームのとりこにするヒミツ
「なぜ、人はゲームにハマルのか?」をまじめに考察する不定期企画の12回目は、隠れキャラの魅力について。