どんな意味がある? 何の役に立つ?――医師に聞く、遺伝子検査の本当の活用法とは
遺伝子検査を受けると一体どんなことが分かり、どのようなメリットがあるのか。また、それを活用する方法はあるのか。遺伝子検査にまつわる疑問を、ジェネシスメディカルクリニック六本木の院長、東田俊彦氏に聞いた。
「遺伝子検査」と聞いて、どんなことを思い浮かべるだろうか。
なんだかとても大げさな検査をするようなイメージがあるかもしれないが、近年取り扱う企業が増え、インターネットなどでも比較的安価に入手できる検査キットが登場しており、身近になりつつある。検査自体も、頬の内側をこすったり、唾液を採取して検査機関に送るだけと、とても簡単だ。もしかしたら、周りに検査を受けたことがある人もいるかもしれない。
独自の遺伝子研究所を持ち、国内で唯一遺伝子解析を専門に行っている検査会社のジェネシスヘルスケアでは、38万人以上の遺伝子解析を行った実績を元に、遺伝情報に合った健康的な生活スタイルを提案している。具体的には、「GeneLife® NEO 330」という検査キットであれば、330項目の検査結果から、生活習慣病の発症リスクや自分の体質・特徴、美容や寿命の傾向までを知ることができる。
そのほかにも、性格や体質・特徴などが検査できる「GeneLife® Myself」、男性型脱毛症(AGA)のリスク検査ができる「AGA遺伝子検査キット」、アルコールが飲める体質か調べられる「アルコール代謝関連遺伝子検査キット」、自分に合ったダイエット方法が分かる「肥満遺伝子検査キット」など、目的を絞った検査キットも用意している。
こうした遺伝子の検査をするとどんなことが分かり、どんなメリットがあるのか。今回は遺伝子検査の結果を医療に活用しているジェネシスメディカルクリニック六本木の東田俊彦院長に、遺伝子検査のポイントとその活用方法を聞いた。
遺伝子検査で分かること
――(聞き手:編集部) 遺伝子検査を受けることで、その人が生まれながらに持っている体質や特徴、生活習慣病の発症リスクなどが分かるそうですが、遺伝子検査ではどんなことを調べているのでしょうか。
東田俊彦氏 遺伝子は、生命の設計図、といわれています。生物の体をつくり、生命を維持するために働いているタンパク質をつくるための情報が「遺伝子」です。人間には約2万6000個の遺伝子があると考えられていて、遺伝子は、親から子へと受け継がれます。遺伝子の実体はDNA(デオキシリボ核酸) という物質で、アデニン、チミン、グアニン、シトシンと呼ばれる4種類の塩基配列があります。
この4つの塩基を、アルファベットだと考えてみて下さい。アルファベットは26文字あって、それを組み合わせると単語になりますね。例えば「b」「o」「o」「k」という4文字で「book」になります。これが遺伝子だと思って下さい。文を作るときには、「I have a book」のように、それぞれの単語が連なって意味を成します。同じように、複数の遺伝子が働くことで、1つの意味を持ちます。そして文が重なって1つの文章ができるように、体の部位になったり、考えるとか食事をすると動くとかいった1つの機能になったりします。
人によって、目の色が違うとか、差異がありますよね。それは、体質や特徴などを構成している遺伝子の記号がちょっと違うのです。アルファベットの並びの違い、例えば「Blue」と「Black」の違いで、単語の意味が違ってくるように、遺伝子の違いで目の色が青くなったり黒くなったりするわけです。つまり、塩基配列の違いを調べて、それがいままでの知識と照らし合わせてどう違うのかを判定するのが遺伝子検査です。
一般的な遺伝子と比べて、ある人の遺伝子に1%以上違うところがあれば、その人はある病気になりやすい、あるいは病気になりにくいといった傾向が分かるわけです。それを調べることで、その人の状態と、これからどうなっていくかということが推測できるのです。
―― その人が生まれながらに持っている、ほかの人と比べて強い部分や弱い部分が分かる、ということですね。
病気は遺伝因子と環境因子から生じる
―― では、遺伝子検査の結果というのは、どのように生かすべきなのでしょう。
東田氏 病気には、遺伝因子と環境因子があります。遺伝子検査の結果、ある病気にかかりやすいことが分かったとしても、必ずその病気にかかるというわけではありません。病気が発症するまでには、必ず環境因子が関わっています。
例えばお酒に弱いという遺伝因子があったとしても、お酒を飲まなければ一切悪影響はありません。同じように、遺伝因子によってある病気にかかりやすかったとしても、環境因子を改善できれば、影響を少なくして発病に至らないということも考えられます。
遺伝因子そのものは、両親から受け継いで生まれながらに持っているものですし、改善したり治したりするのは難しいものです。ですが、環境因子は変えたり、回避したりすることが可能です。つまり、遺伝因子でリスクなどを把握した上で、環境因子をよりよい方向に変えていくことが、これからの医療にとっても重要だと考えています。
現在の医療は、基本的には発病したものに対して対処をしていますが、遺伝子検査をうまく利用していくことができれば、環境因子を改善することで、病気そのものを避けることも可能になってくると思います。
―― なるほど、対策がしやすくなるということですか。
東田氏 そうです。そういう意味では、ただ遺伝子検査を受けるだけでは、占いとそれほど変わらないのです。その検査結果を基にして、環境因子をどう捉えていくかが重要で、できれば専門医のアドバイスなどを受けていただくのが理想です。
実は、私たちはこういう予防的な医療に遺伝子検査を役立てたくて、ジェネシスメディカルクリニック六本木を2014年10月に開設しました。遺伝子検査自体にも興味を持っていただきたいですが、その先のアドバイスなどもぜひ受けていただきたいと思います。ちなみにジェネシスヘルスケアの遺伝子検査キットを利用すると、検査結果のページからクリニックの予約ができるようになっています。
多くの方は、定期的に健康診断を受けていらっしゃると思います。それは、だいたい1年に1回くらいですよね。果たしてそれは最適なペースなんでしょうか。例えば胃の検査を毎年するとして、胃カメラならいいですが、バリウムを飲んで胃のエックス線検査をすると、被ばくしますよね。胃の病気の遺伝的リスクが少ない人が、毎年エックス線検査をする必要があるのかどうか。逆に、遺伝的リスクの高い人は、1年に1回よりも高頻度で検査をした方がいいかもしれません。病気の発症確率の推測ができるので、そういった判断にも遺伝子検査は役に立つのです。
遺伝子検査の活用法とは
―― なんだか遺伝子検査は受けておかないといけないような気がしてきました。ちなみに、ジェネシスメディカルクリニック六本木以外でも、遺伝子検査の結果を基にした医療というのは導入が進んでいるのでしょうか。
東田氏 残念ながら、日本ではまだそうした考え方は広く認知はされていないようです。ですが米国などでは、学会で遺伝子に関する発表も多く、専門医は皆注目しています。家庭医の中にまで勉強をして知識を持っている人が増えているような状況です。
当院では、予防医学として、以下の2つを提供しています。
- 病気を予防するための、日常生活・食事・運動・サプリメントなどの指導
- 早期診断・早期治療のために、遺伝子データ・医療データだけでなく、年齢や性別を加味した、その方オリジナルの検診プログラム
Doctor Concierge(ドクターコンシェルジュ)として、最初に、じっくりと丁寧に時間をかけ、家族歴を含む、詳細な問診・診察を行います。その後、適切な遺伝子検査に加え、さまざまな検査結果、画像データを基に、専門医がカウンセリングをし、病気や予防対策を的確にプログラムします。
せっかく人間ドックなどの検査を受けても、その結果をどう有効活用したらよいのかわからない、間違った活用をしたままで、効果が見込めない、といった方や、人間ドックは受けているが、それで十分だろうか(ほとんどの場合十分ではない)、と思っている方は、ホームドクターとして気軽にご相談ください。本人さえも知り得なかった遺伝子からの大切なメッセージをしっかりと受け取り、その方のオリジナルプログラムをお伝えします。
例えば、現在の日本では肥満や、糖尿病・高血圧などの生活習慣病の疾患が増え、重要な社会問題となっています。これは、ライフスタイルの変化と共に、外食や加工食品、偏った栄養素の食事が増えたことが一因といわれています。
β3アドレナリン受容体遺伝子(β3AR)は、エネルギー消費を促進する遺伝子ですが、この遺伝子に変異があると、エネルギー消費が節約されます。農作物を主体とした食生活を送って来た日本人の食生活は、自然に左右され、時として飢餓に悩まされるものでした。その過程で、日本人の遺伝子は少ないエネルギーを溜めこみ、時間を掛けてゆっくりと消費する「倹約型」に進化したと考えられ、現在の日本人では、この遺伝子に変異がある方が約34%もいらっしゃいます。この遺伝子に変異があると、基礎代謝が200kcal/日低下し、エネルギーを溜め込みやすくなります。
この能力は、飢餓の時代には生命の維持に非常に有利ですが、多くの糖質や脂肪を含む、エネルギー量が多い食材が主流となった現代では、内臓脂肪型を中心とした肥満をもたらすようになったのです。この遺伝子に変異がある場合は、糖質の摂取を制限することがある程度有効な対策と考えられます。さらに他の遺伝子検査の結果を含め、総合的に関連を考慮することで、その方の遺伝子に合ったオリジナルの予防策や運動療法を提案します。
2013年に、女優のアンジェリーナ・ジョリーさんが両側乳腺除去手術を受けたのをご存じの方も多いと思います。彼女は、乳がんになったから乳腺を除去したのではなく、遺伝子検査の結果、BRCA1という遺伝子に異常が見付かって、87%の確率で乳がんになる、ということが判明したから手術を受けたのです。米国ではこんな風に遺伝子検査を活用する人も出てきているのです。
ですから、繰り返しになりますが、遺伝子検査に興味を持った方は、ぜひキットを購入して検査をしていただき、その後専門医のアドバイスも受けていただくことをお勧めします。
―― 遺伝子検査キットが、より健康な生活を送るために必要なものであるといわれている理由が分かってきました。それから、ただ検査を受けるだけではまだ不十分なんだということも理解できました。自分自身を見つめ直す機会としても、とても重要なものが遺伝子検査なんですね。どうもありがとうございました。
医師プロフィール
氏名
東田俊彦
経歴
慶應義塾大学 医学部卒業、在学中に米国医師試験(ECFMG)現USMLE取得
東京女子医大で臨床研修:内科全科ローテーション、米国MAYOクリニックClevelandクリニックにて研修
内科系大学院修了:ANP研究で学位取得
筑波記念病院研修指導医、総合診療外来担当医(非常勤・金曜日)
ジェネシスメディカルクリニック六本木 院長
担当科目
総合診療科・内分泌科
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提供:ジェネシスヘルスケア株式会社
アイティメディア営業企画/制作:ITmedia ヘルスケア編集部/掲載内容有効期限:2015年2月22日