「ひと駅前で降りて歩く」が続かない理由――予防医学研究者・石川善樹さん<前編>(2/3 ページ)
話を聞いてみたいあの人に、生活習慣や健康のコツを聞く本連載。今回ご登場いただくのは、予防医学研究者の石川善樹さんです。
あとは、咳とクシャミにも正しいやり方があるんです。よくある“手で口を覆う”のは間違いで、肘を使うべきなんです。肘で覆う理由はトイレの話と同じで、病気って圧倒的に手を介して広まるからです。肘を使うことが、周囲に迷惑を掛けないマナーになるんですね。手にバイ菌をつけないように心掛けることで、かなりの予防になります。ちなみに欧米人はこの方法を子供の頃から習います。
既存の習慣をちょっとづつ変化させる
――衛生面以外で気を付けていることは?
椅子に座ったときの姿勢ですね。肩こり、腰痛は姿勢の悪さによるものであることが多いです。ノートパソコンでの作業って、つい前かがみになってしまうので、それを防止するためにノートパソコンを机の奥に置き、外付けキーボードを膝に置いて入力します。こうすれば背筋が伸びて姿勢が良くなり、しかもディスプレイと距離が開くので目にも優しい。
この方法を発見したのは、数カ月前にノートパソコンを壊してしまったのがキッカケです。水をこぼしてキーボードが壊れてしまったので、仕方なく外付けキーボードを使うようにしたんですね。そのときに「この方法はいいぞ」と発見しまして、それ以来外付けキーボードで仕事をしています。
――姿勢が良くなると、腰痛、肩こり以外にはどんないいことが?
呼吸が深くなり、脳に酸素が届きやすくなります。集中力が高まり、いわゆる“ゾーン”にも入りやすくなります。姿勢が悪いと肺がつぶれ、呼吸が浅くなってしまうんですよ。浅い呼吸は「吸う」ほうが多くなるんですが、吸うと筋肉が緊張し、吐くと弛緩します。結果、姿勢が悪いと緊張が高まってイライラしやすくなってしまう。
――エルゴノミクスな高級椅子で姿勢を矯正する方法もありますよね。
それでもいいんですが、もっと良いのは「自然と姿勢が良くなるような座り方ができている」ことですよね。道具だけに頼っても、そもそもの姿勢が悪ければ意味が薄いし、場所を変えたら姿勢が悪くなるだけ。根本から対処したほうがいいでしょう。
――でも、習慣っていくら他人の話を聞いても実践となると難しくて……。
その通りです。いきなり新しい習慣は身につきません。これは科学で証明されています。習慣を変えるには、「既存の習慣をちょっとづつ変化させる」しか方法はないんです。具体的には、いつも行っている作業を、"わくわくする、もっと楽にする”アプローチに進化させることです。
いつもの習慣の延長戦上で小さく始めて、大きく変化させないことがコツ。そうすることで、意図的に脳をだますんです。例えば私が実践している運動習慣は「電車から降りたら、目的地から一番遠い出口を経由して遠回りする」です。こうすれば、脳は「最寄り駅まで来ているんだし、さほど運動しているわけでもない」と勘違いしてくれるので、それなりに運動している割に、苦労もせずに長続きするんです。よく聞く「目的地のひと駅前で降りて歩く」も試したのですが、脳が「遠い……面倒……」と感じてしまって、習慣化できませんでした(笑)。
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