ポスターに隠された意味、いま明かされる宮崎駿・高畑勲伝説【ほぼ全文書き起こし】:映画「夢と狂気の王国」公開記念鼎談(3/5 ページ)
スタジオジブリの“今”を描いたドキュメンタリー映画「夢と狂気の王国」が公開。プロデューサーを務めたドワンゴ川上量生会長らが撮影の裏側とポストジブリのアニメ業界を語る。
川上会長が高畑監督にインタビュー 「9割お説教」
川上 「かぐや姫の物語」は、高畑さんに怒られてあまり撮れなかったんですよね。一生懸命遠くから撮影して……。高畑さんに僕が2回くらいインタビュアーで挑戦したんですけど、どちらも、3時間か4時間のうち9割くらいお説教をされました(笑)。
齋藤 それ特典につけましょうよ。
川上 僕は宮崎監督にも怒られたことがあるんですけど。宮崎さんが怒ったときって、理屈が通じないじゃないですか。何言ってももうダメって感じなんですけど。
石井 宮崎さんは怒ったあとに、パカーって笑うじゃないですか。あれでね、すべてが許されるんです。
川上 高畑さんは、それはないですよね。フォローゼロ(笑)。でも、なにか反応しても「なに言ってんだ」ってならないんですよ。怒ってる相手の言ったことも、深く聞いてくれたうえで、さらにそこを否定してくるんですよ。
石井 それが3時間かかるんですね。
川上 でも、ちゃんと聞いてくれるのはすごいと思いましたよ。
齋藤 「かぐや姫の物語」のプロデューサー西村義明は、僕らと同世代で、初プロデュースなんです。映画に関しては川上さんと同じです。
石井 8年作ったんですもんね。
齋藤 どこかでも言ってたけど、この映画を作ってる間に、子どもが小学校に上がったっていうね。
川上 「となりの山田くん」以降に、高畑さんの映画を作ろうとした人って、全部途中で挫折してるんですよね。
齋藤 討ち死にしてますね。
石井 3、4人ぐらいいましたよね。西村くんだけが最後まで。
齋藤 今一番尊敬できるプロデューサーだと思ってますよ。
「夢と狂気、両方すごい」高畑勲伝説
川上 高畑さんは、石井さんもお付き合いされたんですよね?
石井 僕は「となりの山田くん」の後半にジブリに入社したので、そのあとに、いくつか短編的な企画とかを一緒にやらせていただきましたけど。よく鈴木さんとか、宮崎さんがね、「ほんとうにすごいのは高畑勲なんだ」と言うじゃないですか。そうなんですよ。夢と狂気、両方すごくてですね。これ、言っちゃって良いのかな……。「となりの山田くん」が、アニメってオールラッシュってあるんですね。もう全部完成という。当時はフィルムですから、フィルムも焼いて、棒つなぎになって完成しました。そのあとに、僕ら製作部にいたら突然、高畑さんがすごい顔でやってきて、「作画からやり直します!」と。
川上 これから上映するというのに(笑)。
石井 まさに1カ月後公開なのに、「やり直します」って。その理由が「となりの山田くん」は、「かぐや姫」もそうですけど、上下左右に余白があるんですよ。映画館で上映するときに上下左右が少し切られちゃう。「この作品は、余白まで作品なんです」「そのことをもっと早く言ってもらえれば、僕はその余白を意識して演出したはず」「やり直します」と。
川上 「山田くん」は余白だらけのやつですよね。その余白が、ちょっと切れるのがまずいと。絵が隠れるんじゃなくて、余白が減るのが許せないと。
齋藤 レイアウト変わりますからね。
石井 僕と隣にいた先輩は、もう泣くしかないですよね。怖くて、涙をぽろぽろ流しながら嵐が過ぎ去るのを……。もう1つは、ピアノの曲が出来上がったんですよね。それで「なにか音が違う」っておっしゃるんですよ。プロの方が「いや、これであってます」と。「違うと思います。調べてください」と。そのピアノを弾いた方は、アメリカにいたんですが、国際電話で伝えたら、その方が、「あ……私その当日、薬指を突き指しておりまして、ちょっと力が弱かったかもしれません」と。
齋藤 なるほど。
石井 で「やり直しましょう」って。これが、毎日ですよね。
齋藤 高畑監督の音楽に関する知識と造詣の深さと、音楽の演出としての力って、それは劇場に限らずじゃないですか、テレビシリーズも含めて。
久石譲を見出した高畑監督
川上 「風の谷のナウシカ」で久石譲を見出したのも、高畑さんなんですよね。
石井 ほかに候補の方が、2人有名な方がいて。双方すごいけど、「風の谷のナウシカ」はナウシカという少女の話でしょう。少女の心を奏でることができるのは久石譲さんですよ、って決まったみたいです。
齋藤 よく歴史を知ってますね。
石井 高畑さんは伝説の人ですからね。一緒に出雲大社に行った時も、お寺を指差して「石井さん、あの寺の間取りは分かりますか?」って言われたんです。
川上 それは教養を試されてるのか、外見から判断しろって言ってるのか(笑)。
石井 「外見から、中を想像できますか」「できません」と応じたら、鼻で笑われました。ただ、あとで宮崎さんにその話をすると、宮崎さんは若いころから言われていて、高畑さんに聞かれて答えられるようにしたんです。だから、すらすらすらすら間取り描けるじゃないですか。
川上 僕もジブリ見習いで入って、最初驚いたのは、ジブリの中で高畑さんの名前をすごく聞くんですよ。みんな高畑さんの話をしてる。
石井 いないにも関わらずですよね。本社のほうにはいないですからね。
川上 いないんですよ。でも、みんな高畑さんの話をしてるんですよ。宮崎さんをはじめとして。
齋藤 それ「夢と狂気の王国」も、まさしくその通りじゃないですか。そこから、いつ出てくるんだろうなって、心待ちにする感じですよね。
「風立ちぬ」に突きつけられたもの
川上 「風立ちぬ」と「かぐや姫の物語」これはご覧になってどうでした?
齋藤 「風立ちぬ」は試写に限らず、2回ほど自分で見に行きました。それぐらい、いろんな意味で突きつけられました。とってもピュアで、すごく力強くて、そしてとっても清々しい。作中でも語られてますが、宮崎監督は72歳でね、ああいう映画をお作りになって。鈴木さんが65歳ですか? そういう、ある種のキャリアとか年齢になって、「こういう映画作れるんだ」と。本当に力の限りを尽くして、今自分はどう生きてるのかということを突きつけられたみたいな感じがありましたね。
川上 年齢的な安心感をすごく思いました。65歳と、72歳と、(高畑監督が)78歳ですよね。そうすると、自分から考えると、あと20年はやれるんだっていう。そういう勇気はもらえる。
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