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藤原カムイ&じゃんぽ~る西が熱弁 マンガ界に影響を与えた「バンド・デシネ」の魅力とは?

日本初の電子書籍化を記念してトークイベントが開催された。

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 東京・渋谷にあるマンガサロン「トリガー」で9月4日、「ユマノイドとバンド・デシネの夜」と題したトークイベントが開催された。これは、日本で初めてバンド・デシネの電子版(日本語訳)が配信されることを記念したもの。同日には、イーブックイニシアティブジャパンの電子書店「eBookJapan」で配信がスタートした。

 トークイベントには、マンガ家の藤原カムイさん(代表作「ドラゴンクエスト列伝 ロトの紋章」など)、じゃんぽ~る西さん(代表作「パリ 愛してるぜ~」など)、海外マンガフェスタの代表も務めているユマノイド・ジャパン代表のフレデリック・トゥルモンドさんが登壇し、バンド・デシネの魅力を実際に本をめくりながら語り合った。


左から、フレデリック・トゥルモンドさん、藤原カムイさん、じゃんぽ~る西さん、トリガーを運営するサーチフィールド代表取締役社長の小林琢磨さん

バンド・デシネとは?

 そもそもこの「バンド・デシネ」という単語、耳慣れない人も多いはず。これはフランスやベルギーなどフランス語圏のマンガを表す言葉で、バンドは「帯」、デシネは「描かれた」という意味(バンド・デシネはBD「ベデ」とも呼ばれているため、以下BDとする)。日本でよく知られる海外のマンガといえば、スーパーマンやバットマンなどの「DCコミック」、スパイダーマンやX-MENなどの「マーベル・コミック」といった、いわゆるアメリカン・コミックス(通称、アメコミ)だろうが、いまこのバンド・デシネがじわじわと人気を集めているのだ。

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「ファイナル・アンカル」(著:ホドロフスキー 作画:メビウス 訳:原正人)

 フランスには文学や音楽、建築、映画など芸術のジャンルごとに番号が付けられているのだが、BDは「9番目の芸術」と呼ばれ、批評の対象にもなっている。BDの特徴にはコマが横長であること、そしてその1コマ1コマが緻密(ちみつ)に描かれているということなどがあげられる。現在BDの作家は約1500人ほどで、そのうち約10%が女性なのだという。

 ベルギーのマンガ家・エルジェの代表作「タンタンの冒険」は日本でも知られた作品だが、これも実はBDだ。BDは日本のマンガ家にも大きな影響を与えていて、中でも「アンカル」シリーズや「ブルーベリー」シリーズなどで知られるメビウスは、宮崎駿さん、大友克洋さん、谷口ジローさんといった大御所といわれるような人たちにも影響を与えていることで知られる。

藤原さんによる日本マンガの樹形図

 トークイベントではまず、トゥルモンドさんによるBDの簡単な説明が行われた。日本では、マンガ誌などで連載し、その後単行本化するというのが一般的な出版スタイルだが、フランスでは「いきなり単行本で発売するのが一般的」だという。20~30年前には、日本と同じように雑誌の掲載もあったようだが、だんだんと廃れていったのだそう。また、「昔は『タンタンの冒険』など子ども向けの作品がほとんどでしたが、1970年代半ばからは、メビウスたちの活躍のおかげで大人向けの作品が登場してきました」と、BDの変遷も語られた。

 近年では「フランガ」「マンフラ」と呼ばれるような日本のマンガに影響を受けたBDも増えている。トゥルモンドさんが代表を務めるユマノイド・ジャパンは、日本にBDを広めるべく2014年に設立された出版社。もともとは、1974年にメビウスやフィリップ・ドリュイエといった作家が中心となってフランスで設立されたユマノイド・アソシエという出版社があり、ユマノイド・ジャパンはその日本支社に当たる(本社はアメリカのロサンゼルス)。トゥルモンドさんは、BDの柱となるような有名な作品を紹介した後は、「フランガ」「マンフラ」のような新しい形式の作品をユマノイド・ジャパンから発信していきたいと考えている。

 続いて藤原さんは「かなり個人的な思い入れが中心だし、不完全で、重要な作家さんが抜けていたりするんですが」と前置きしつつ、自前の樹形図を公開。横山隆一や長谷川町子、田河水泡などから始まり、ディズニー、手塚治虫、そして「ガロ系」「劇画」などのジャンルを経て、現在の幅広いジャンルに続くマンガ家、ジャンルの派生について説明した。マンガ家が語るマンガ論に、会場の参加者は熱心に耳を傾けていた。

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藤原さん作の樹形図

 藤原さんがメビウスの作品に初めて出会ったのは「Heavy Metal」という雑誌で、これはメビウス、ベルナール・ファルカ、フィリップ・ドリュイエらが手掛けた雑誌「メタル・ユルラン」をアメリカで翻訳出版したもの。高校生のときに神保町に通っていたという藤原さんだが、当時アメコミは600円ぐらいだったのに対し、Heavy Metalは1900円と高価でなかなか手に入らなかったと、昔の思い出を振り返った。


「Heavy Metal」をめくりながら語る藤原さん

 西さんは、「子どものころはジャンプや藤子不二雄作品を読んでいて、小6で『AKIRA』(大友克洋)、中1で丸尾末広作品に触れた」と自身のマンガ遍歴を告白。初めて読んだBDはマックス・カバンヌの「目隠し鬼」で、「これは何だ!」と衝撃を受けたという。家から大量のBDを持参した西さんは作品を広げながら、「日本のマンガって輪郭を黒のペンで描いて、スクリーントーンでいろいろ表現するんですけど、この作品は主線がないというか、光で輪郭を表現しているんですよね」とマンガ家視点でBDの魅力を力説した。

登壇者が愛するBDは?

 続いておすすめの作品を聞かれると、西さんはホドロフスキー原作で、メビウスが作画を担当した「アラン・マンジェル氏のスキゾな冒険」を紹介。「これ、タイトルどうなの?」と突っ込みを入れつつも、「すごい読みやすい、手塚治虫のマンガを読んでいる感覚になる作品」とコメントした。藤原さんはジェリー・フリッセンの「ルチャドーレス・ファイブ」を紹介。「絵が親しみやすい。いつか日本でアニメ化してほしい作品です」と、猛プッシュした。


藤原さんが苦労して手に入れたという「ルチャドーレス・ファイブ」のフィギュア

 BDとマンガの違いについて藤原さんは「BDは1枚絵を主体に描く手法で、日本のマンガは映画のようにカット割りをして、スピード感を出す手法。そこが一番大きな違いなんじゃないかな。だからその文法に慣れるまでちぐはぐな感じを受けるかもしれないけど、慣れてしまえば読めるようになる」とコメント。また最近気になる作家として、「ウルトラジャンプ」(集英社)で「レビウス」を連載中の中田春彌さんの名前をあげ「『静』なんだけどすごく『動』を感じる。写真で一瞬を切り取った感じ。モーションの途中の浮遊感がかっこいい」と絶賛した。


トークイベント後の懇親会では、BDの試し読みも行われた

参加者の多くがこれまでにBDに触れたことがなく、興味深そうにページをめくっていた

 電子書店「eBookJapan」では、「ファイナル・アンカル」(著:ホドロフスキー 作画:メビウス 訳:原正人)、「テクノプリースト」(著:ホドロフスキー 作画:ゾラン・ジャニエトフ 彩色:フレッド・ベルトラン 訳:原正人)、「わが名はレギオン」(著:ファビアン・ニュリ 作画:ジョン・キャサデイ 訳:原正人)など12タイトルを配信。1話500円で提供している。

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(宮澤諒)

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