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サウジアラビア人が描いた日本風マンガも! アラブのマンガ事情海外オタク見聞録

戒律が厳しいイメージのあるアラブの国々。規制もありますが、そうした中でマンガやアニメを楽しんでいるファンも。

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 今や日本のマンガはさまざまな国で読まれており、フランスではマンガ新刊発行タイトル数が年間約1600タイトル(2012年、JETRO調べ)とすでに娯楽として根付いています。フランスを始めとする欧州にも彩色されたBD(バンドデシネ)と呼ばれるコミックスがありますが、最近話題になった萌えイラスト調のアメリカ版「ふしぎの国のアリス」のように、海外にも日本の様式でマンガを描くマンガ家が生まれてきています。そこで今回はちょっと意外な国のマンガを紹介しましょう。

 このマンガはイギリスで発行されたマンガ雑誌「エイサル」に掲載されたもので、吹き出しのセリフを日本語に翻訳していただきました。アップになった女の子やデフォルメされたキャラ、コマの割り方など日本のマンガの様式をそのまま踏襲しています。さらにセリフが横書きでありながら吹き出しが日本語の縦書用のままとなっており、縦長の吹き出しもマンガの様式として認識されているようです。


翻訳前のページ

 マンガの作者はサウジアラビア人のヒンドさん、掲載誌エイサルの発行もサウジアラビア人のタミーミさんが行っています。同誌にはこのほかにもヨルダン人やシリア人、さきほどのページを翻訳してくださった漫画家の天川マナルさんの作品も掲載されています。サウジアラビアは聖地メッカの守護者として戒律に厳格な国で、書籍の発行自体が(当局の許可が必要なため)難しいとのこと。このためエイサルはイギリスの出版社から発行しており、ドバイなどの戒律の比較的緩い国で販売しています。


雑誌「エイサル」の表紙

 アラビア語は21カ国で公用語となっており、その人口は2億から3億人(統計によって幅がある)で方言はあるものの、単一言語としては大きな経済圏となっています。衛星放送では多数のアニメチャンネルがアラビア語の吹き替アニメを放送しており、これらの国々でもアニメが娯楽のひとつとなっています。しかし戒律により暴力的なシーンがすべてカットされ、「ONE PIECE」は会話シーンだけをつないで編集された謎アニメ状態になっています。

 アラビア語吹き替えの質もまだ高いとはいえず、これを不満とする人たちは日本語音声にアラビア語字幕が付いたアニメをネットで見ているそうです。以前に紹介した“コミケの石油王”(クウェートからコミケにやってきた学生さん:関連記事)もONE PIECEのファンで、ネットで見ていると語っていました。その背景にはこうした事情があったのです。

 アラブ諸国では一般家庭に住所が割り当てられていないことも多く、通信販売などの流通の整備が遅れているそうです。また高価なPCよりも安価なスマートフォンが普及しており、若い世代はスマートフォンでアニメを見ているとのこと。

 流通の問題はアラブ諸国以外でも日本のマンガの参入障壁となっています。日本で活動するロシア人声優・ジェーニャさんによれば、ロシアも国土が広くマンガが容易に入手できる状況ではないため、アンダーグラウンドな海賊版が出回っており、これらを手にする人も多いといいます。本物が入手できるのであれば、そちらを買うことで好きな作家に還元できるため、そうなることをファンは願っているとも話していました。


11月に開催された「海外マンガフェスタ2014」でロシアの状況を語るジェーニャさん

 出版関係者の話では、このような海外への輸出に見合うコストを回収することが難しく、マンガの輸出に二の足を踏んでいるようです。ただ、アラブ諸国でもスマートフォンが若い世代を中心に普及しており、電子書籍であればこれらの流通の問題も克服することができるため、今後は電子書籍での輸出に期待がかかります。

 コミックマーケットにもさまざま国からファンが同人誌を買い求めにやってきており、その中から正式に契約して翻訳した同人誌の海外版も出始めています。今回アラブのマンガ雑誌を紹介していただいた天川マナルさんも、アラブと日本の交流を促進する活動を行っています。

 2020年に東京でオリンピックが開催されますが、オリンピック憲章では文化プログラムも複数行うことが規定されています。その1つとして、世界各国からマンガやアニメを一堂に会した文化プログラムが開催されるのを心待ちにしましょう。

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