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「組体操」で大怪我をした僕が、「組体操」問題を語ってみようネットは1日25時間

答えは学習指導要領にあるのかもしれない。

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 星井七億です。歳を重ねるとともに僕の身体は、元々の虚弱体質と運動嫌いがたたってしまい、あらゆる場面でガタが来るようになりました。

 人間、常に身体のメンテナンスを怠らぬように定期的な運動をして健康を維持しなければなりません。成長期の若い子たちなどは特に、動かす意欲と動ける身体のあるうちは運動を通じて健康な肉体と精神を作り上げてほしいものです。

 子どもの運動と言えば学校で教わる体育教育になりますが、昨今では「運動会の組体操」に関する諸問題が大きな波紋を呼びました。

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 運動会の花形とも言われている組体操の危険性、怪我のリスクなどはかねてより指摘され続けてきた問題だったのですが、今年の9月に大阪の八尾市の中学校で行われた体育大会の組体操で中学1年生の男子が腕を骨折した事件に端を発し、問題は一気に広がりを見せました。その体育大会で行われたピラミッドは10段という盛大な規模で、練習では一度も成功していなかったとのこと。また八尾市は組体操によって10年間に139人の骨折者を出しており、問題の根深さを露呈しました。

 この報道を目にしたときに思い出したのは僕が小学生のときのこと。運動会に向けた組体操の練習の最中、虚弱体質の僕はピラミッドの最後の大雪崩で足の骨にヒビを入れてしまい、運動会当日の参加を断念せざるをえなくなりました。ひとり松葉杖をついて全校生徒が懸命に楽しくはしゃいでいる様をじっと眺めなければならないのは、子どもの身にはなかなか寂しいものがあります。

 学校からのフォローなどは特になく、僕が痛み以外にもらったのはクラスメートからの同情の視線と、担任の教師からの「残念だったな」の言葉だけでした。この「残念だったな」が足の怪我に向けて言われたものだったのか、組体操を完遂できなかったことに向けて言われたものだったのか今でも分かりません。

組体操が支持される理由をひも解いてみる

 組体操の危険性の根幹になっているのは、学校側による安全管理意識の欠如と、歯止めがかからない組体操の巨大化です。

 識者の間から組体操の危険性を証明するためのデータが次々と提示される中で、批判の声が高まっているにも関わらず組体操が支持され行われ続ける理由には、「組体操のメリット」とされているさまざまな言い分があります。

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 ひとつは「団結力が身に付く」というもの。チームプレイが必要とされる組体操においては、確かに重要な要素なのかもしれません。

 しかし残念ながら、実際に組体操程度で学ぶことができる団結力は、仮に身についたとしてもそれは組体操をともに行ったクラスメートとの間で一時的に共有されるものであり、今後の役には立ちません。団結力というものは、チームによってその都度求められる形が変わるからです。刹那的な団結力は一生引きずる可能性すらある怪我のリスクとはとても天秤にかけられません。

 また身体運動という個人の資質に大きく左右される場面での団結の強要は、ひとりのダメージや環境の不備が連鎖的に多くの他者への被害へと波及する可能性が極めて高くあります。組体操ほどチームプレイに依存したプログラムならば尚更でしょう。

 続いて「達成感を得られる」という理由もよく挙げられます。達成感の存在が必要なのは子どもの自信に結びつきやすいからだというのは当然のことなのですが、それが組体操となるとどうなのでしょうか。

 高ければ高い壁のほうが登ったときなんとやらというように、組体操の巨大化は得られる自信をより大きくするためなのかもしれません。しかし高すぎる危険性に裏付けられた自信というものは、自分の運転技術を過信して違法なスピードで車を運転するように、単なる「無謀」に結びつきやすくもあります。

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 しかし子どもはその無謀と自信の境目を、達成感という名の「感動」であやふやにされてしまうのです。

 感動といえば「保護者受けの良さ」という理由も看過できません。派手に分かりやすい形で、他人とうまく連携が取れている姿を目にして成長を感じ取るというのは、確かに一部の保護者にとっては気持ちがいいものなのかもしれませんね。

 とはいえ、僕には子どもがいませんが、仮にいたとすれば目の前で自分の子どもが巨大な組体操を完成させたとき、成長の実感や完成した形の美しさよりも、頼むから怪我することなく早々に終わらせてくれと不安な心持ちで胸がいっぱいになると思うのです。同じように考える人はそう少なくないでしょう。

 しかし、組体操がそこまで「保護者受けがいい」コンテンツだというのならば保護者からのそれなりの反応が無視できないレベルで存在していて、僕のように子どもがいない者には分からない感動もあるのかもしれません。それはもう、子どもに及ぶ高いリスクをないがしろにできるほどのものが。親の喜ぶ反応を見たさに頑張る子どももいるのでしょう。そこで無理をして怪我でもすれば本末転倒なのですが……。

 また子どもにとって「親の受けが良かった」という事実は、先に記した「達成感を得られる」と同様に子どもの自信につながる部分があるのかもしれません。もちろん先述の通り、無謀との境目がない自信です。

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そもそも体育教育の目的とは

 根本的な話をしますが「団結力」「達成感」「保護者受けの良さ」というのは、体育教育においてそれほど重要なものなのでしょうか。

 体育教育の目標は政府の発行した小学校の現行学習指導要領によると、「適切な運動の経験と健康・安全のついての理解を通して、生涯に渡って運動を親しむ資質や能力の基礎を育てるとともに、健康の保持増進と体力の向上を図り、明るく楽しい生活を営む態度を育てる」と記されています(参照)。

 「団結力」や「達成感」は運動を親しむ資質に結びつくこともあるのかもしれませんが、「保護者受けの良さ」に関しては体育教育の理念に求められているものではありません。ましてや見た目の派手さを求めて危険性を増やしながら組体操を巨大化させていくことなどは、「安全についての理解を通す」とは真逆の方向を歩んでいるとすら言えます。学習指導要領全体を読めばそもそも組体操は特筆した記述すらありません。体育教育に求められているのは派手で危険でも強い影響力のあるプログラムではなく、地味でもいいから安全で効果のある「適切なプログラム」なのです。

 あらゆるメディアで組体操の危険性を発信し続けている名古屋大学准教授の内田良氏は、署名サイト「Change.org」において、文部科学大臣・馳浩氏への陳情のため「安全な組体操の実現に向けて」と銘打った署名活動を行っています(関連記事)。この活動のポイントは組体操の全廃や中止ではなく、「安全」であることを目的に据えている点です。

 ずいぶんとこきおろしておいてなんですが、「団結力」も「達成感」も「保護者受け」も、一概には絶対に悪いと言えるものではありません。ですが、リスクを背負ってまで何よりも重要視しなければならないものでも当然ありません。だからこそ、体育教育の本来の理念に立ち戻り、安全で適切なプログラムの中で育んだり示してみせたりすることが必要なのではないでしょうか。

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 ところで僕のように怪我によって組体操を完成させることなくドロップアウトした子どもは組体操の熱烈な支持者から見ると、他者との連携ができず成功体験による自信が欠如した親不孝者ということになるのでしょうか……。

プロフィール

 85年生まれのブロガー。2012年にブログ「ナナオクプリーズ」を開設。おとぎ話などをパロディ化した芸能系のネタや風刺色の強いネタがさまざまなメディアで紹介されて話題となる。

 2015年に初の著書「もしも矢沢永吉が『桃太郎』を朗読したら」を刊行。ライターとしても活動中。

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