「皇国の守護者」コミック版がマンガ図書館Zで突然の無料公開の後、削除 海賊版対策の抜け穴が問題に
現在は「権利者からの依頼により削除」され、見ることができません。
先日、原作:佐藤大輔、漫画:伊藤悠のコミカライズ版「皇国の守護者」全巻が、「マンガ図書館Z」で無料配信され、Twitterなどで大変話題になりました。
突然公開された「皇国の守護者」騒動
「皇国の守護者」はウルトラジャンプで2004年から2007年に連載された作品。2005年度と2006年度には、文化庁メディア芸術祭マンガ部門審査委員会推奨作品になっており、2008年にはマンガ大賞にノミネートされました。
主人公の新城が民衆に「敗残兵」と罵られながら皇国に帰還したところで、「諸事情」で連載終了。原作はその後もさらに続いているため、もしかしたら続編があるのでは、と待っているファンの多い作品です。
そのため今回「マンガ図書館Z」にアップロードされたことで「ついに絶版判定されてしまったのか」「続きは絶望的なのか」という悲しみの声や、「この名作が無料で読めるなんて素晴らしい」という喜びが各所からあがりました。
しかし唐突なアップロードに、疑問視する人も多数。公開状態も、1巻が単ページなのにもかかわらず、2巻は見開き。4巻と5巻に至っては表紙がない。
結局、1月13日、権利者からの依頼で削除されました。
マンガ図書館Zがはじめた、海賊版対抗策
「マンガ図書館Z」は、「『もう絶版になってしまった懐かしいマンガ』や『惜しくも単行本化されなかったマンガ』を、作者さんの許諾の元で【全巻、いつでも、どこでも無料で読める】画期的な電子マンガサイトです」と掲げています。
2015年12月28日に「新型アップロード&許諾公開システム」を発表しました。
これは、第三者による漫画スキャンデータのアップロードを受け入れ、権利者が「公開OK」を押すことで公開、全巻無料公開後は広告収益が100%作者に還元される、というシステム。
広告収入のやりとりをしていない場合は「現在こちらの作品の収益はプールされています。権利者様は収益お受け取りの手続きをお取りください」という表示が出ます。今回の「皇国の守護者」は、この表示が出た状態になっていました。
作家と「マンガ図書館Z」の間でやりとりが継続できれば、正式なスキャンによるPDF販売やKindle化もできます。
絶版になった本の救済であると同時に、あちこちにアップロードされるネット海賊版に対する対抗策として作られました。
この手段に対して、許諾したマンガ家のさんたちの間からも「近年の違法なアップロードを止めることは無理であること、できればいろんな人に読んでもらいたいとは思うこと、もっとできるならば対価が入るならばなおよいこと。これを常々思っているので参加したい」「ネットの普及している今なら単行本が絶版になってなお、作者に収益が還元されるというのは現状のネット違法アップロードに対して為す術の無い漫画家にとって見事なカウンターとなる」など、支持する声があがっています。
誰が「皇国の守護者」をアップロードしたのか?
1月13日、「皇国の守護者」が削除された同日、「マンガ図書館Z」を運営している赤松健さんは、ブログ記事「(株)Jコミックテラスの中の人 赤松健、これが究極の一手。・・・なぜ我々は『電子書籍版YouTube』を目指すか」でこのように書いています。
「YouTubeやニコ動と変わらないくらい、とても簡単に権利者が公開許諾ができるがゆえに生じている、要改善なポイントです。その要改善ポイントとは、”権利者が「公開OK」ボタンを押す”の部分。(中略)想定外に、第三者が公開許諾してしまう事案があったのです。」
本来であれば、権利者が「公開OK」を押さなければ、「表紙1枚のみ公開」の状態になり、本文を読むことはできません。ところが第三者が「公開OK」を押すと、権利者の知らないところで全文公開されてしまいます。これに対して赤松健さんも「早急に何とかしなくてはいけません」と、今後対処する旨を述べています。
以前、マンガ家小池田マヤさんが、自身の作品を許可していないのに、第三者が許可してしまって公開され、取り下げた事例があります。
ねとらぼ編集部が「皇国の守護者」を連載していたウルトラジャンプ編集部に問い合わせたところ、「皇国の守護者」担当者がつかまらず、今回の事案が関係していたのかどうかの詳細は、現時点では不明なままです。しかし迅速に削除されたということは、推測ですが公式に公開許諾されたものではなさそうです。
今後「マンガ図書館Z」が「公開OK」ボタン部分を改善した場合、赤松健さんの考える「海賊版データを回収し、第三者にアップロードしてもらうことによって、作者の収益に繋げる実験」が行われることになります。
現時点ですでに、赤松健さんは自身の漫画「A・Iが止まらない!」をネット海賊版サイトからダウンロードし、「マンガ図書館Z」のアップローダーで公開、広告収入を得ています。
「サイバーロッカーから自分の作品をダウンロードしてきて、それをそのままマンガ図書館Zにアップロードし、広告を付けて無料公開してしまうという『乗っ取り』型の新手法です。」((株)Jコミックテラスの中の人 求む傭兵! 海賊と闘う「ホワイト・リスト&インセンティブ作戦」とは? より)
出回っている海賊版を白日の下にさらして、作家の利益に変えていこうとするこの方式、今回の「皇国の守護者」騒動で、どのように改善されていくのか、動向に注目したいところです。
(たまごまご)
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