インタビュー

「戦争をしている国の子どもにも届けてほしい」 ちばてつやが「風のように」に込めた日本人らしさアニメ化記念インタビュー

インタビュアーはアニメ「風のように」のプロデューサーを務めるエクラアニマルの豊永ひとみ。

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漫画家・ちばてつや先生

 「あしたのジョー」「あした天気になあれ」などで知られる漫画家・ちばてつや先生による短編漫画「風のように」(1969年発表)の劇場用アニメーション化が進んでいる。

 主人公・三平の声を担当するのはベテラン声優の野沢雅子さん。企画・演出は、「巨人の星」でアニメの世界に入り「ルパン三世」「おれは鉄兵」「ドラえもん のび太の恐竜」など数々のヒットアニメの作画・作画監督を務めた本多敏行さん。作画監督はアニメ「暗殺教室」の作画監督で「あしたのジョー」の大ファンでもある野口征恒さんが務める。

 本多さんは子どものころからちば先生の作品が好きだったことから、2003年にちば先生に直談判して「風のように」アニメ化の許諾を得たものの、資金面などで難航し長い間実現に至らなかった。今回「風のように」が、文化庁による映画製作への支援として助成金の対象になったことをきっかけに企画が大きく前進。現在、アニメーション制作費の一部をクラウドファンディングサービス「FUNDIY!」で募っている

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 本記事では、「風のように」執筆当時の思いやアニメ化のことなどをちば先生に伺った。インタビュアーはアニメ「風のように」のプロデューサーを務めるアニメ製作会社・エクラアニマルの豊永ひとみさんだ。


「風のように」(1969年、週刊少女フレンド25号) (C)ちばてつや

原作あらすじ

日本中、花を求めて旅をする養蜂家一家のトラックが谷底に転落し、少年・三平だけが生き残った。三平は蜂に刺されて倒れていた少女・チヨと出会い、彼女の住む里で暮らすことになる。やがて三平は、村人も諦めて手をつけずにいた荒地を一人で開墾し、突如姿を消す。花園となったその場所へ、三平は必ず帰ってくると信じ、チヨは今日も待っている。

日本中を旅する養蜂家に憧れて

―― 初めに、漫画「風のように」を描いたきっかけをお聞かせください。

ちば 「風のように」はもう50年近く昔に描いた作品なのですが、当時はちょうど日本が高度成長に差し掛かって、自然が壊されたり、河が汚れたり、山が崩れたり、工場もどんどん建つ、そういう時代だったと思います。日本の美しい自然がどんどん壊れてしまうことに危機感を感じたのがこれを描いたきっかけですね。

 花とかミツバチとか自然のなかに生きる養蜂家たちが、四季それぞれに日本中を旅するわけですね。どちらかというと家の中に閉じこもって屋根裏でずーっと仕事をするのが私の、漫画家の仕事ですから、養蜂家にとても憧れていました。ああやって、花を訪ねて日本中を旅するというのが、なんて素晴らしい仕事なんだろうと思ったし、彼らは自然を守っていますよね。自然を管理しながら自然を守っている、そういう仕事がとてもいいなぁと。「日本の自然が壊れないように」といつも考えていたので。

チヨは理想の妹をイメージ


(C)ちばてつや

―― 「風のように」のなかに三平という男の子とチヨという女の子が出てきます。ネタばれになってしまうので深くは説明しませんが、両親を失った三平を見てチヨが彼の心の支えになるというストーリー展開です。先生の三平に対する思いをお聞かせください。

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ちば 私は男ばかりの4人兄弟で妹がいたらいいなーといつも思って暮らしていたんですけど、チヨはこんな妹がいたらいいなーと思って描きましたね。三平については、私の3人の弟がモデルになっているかな。

 三平はきかんぼうですごく優しいところもあるけれど強いところもある。あと、日本人というのはどんな山奥の農村に行っても一人一人どこかに凛としたものを持っているんですね。サムライの心っていうのかな。

 三平も事故で両親を亡くした後、本当はワンワン泣きたいんですよ。つらいっていうのを皆に訴えて「助けてほしい」って言いたいけれど言わない。最初は表情がないですよね。ただただ我慢して何かに耐えて、最初は村の人たちとうまくいかないんだけれど、だんだん本質が分かってきたらこの子はとても良い子だなって気が付いて皆が応援してくれる。そういった人間の本質、日本人の良さ、自然の良さ、そんないろんなことをちりばめて描きたいと思いました。

群馬の沼田市に不思議な縁

―― エクラアニマルが「風のように」にひかれた理由の一つに、この作品には群馬の沼田という町が出てきますが、エクラアニマルの演出家・本多さんは沼田市出身というのがあります。

ちば 本多さんはそうだったんですか。

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―― はい、小さいときは煙草の葉っぱを育てたり、そういう素朴な土地柄で育った人間で、今回三平の役を引き受けて下さった野沢さんも小さいときに疎開で沼田で過ごされていたという……。

ちば いろいろな縁がありますね。私は両国にある学校に通っていたんですけれども、友達が2人くらい沼田から来ていたかと。あと名前が非常に日本的じゃないですか。田んぼ、沼、稲を育てるにはとても大事なものでそういう言葉からも引っ掛かって染みこんでいたんだろうと思います。

―― 「風のように」を作るきっかけですが、漫画家の上田トシコ先生が「フイチンさん」という作品を描かれて、2003年に自主制作でアニメ「フイチンさん」をエクラアニマルが作らせていただきました。

ちば 良い作品でしたね、あれは。

―― その折に渋谷でお披露目のパーティーをしたときに、本多さんがずうずうしくもちば先生に「今度は『風のように』を作らせてください」と言ったんですね。

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ちば え、そのときなんですか。

―― はい、かれこれ10年越しの恋がかなったという感じですが、何回か先生に「そのうち、そのうち」と言っていたのが今年ようやく完成に向かいます。

ちば もうそんなにたちますか。

アニメ化を楽しみにしすぎて「早くしないと死んじゃうぞ」

―― 最後に、アニメ「風のように」に応援メッセージをお願いします。

ちば 私は日本という国がとても大好きです。なぜかというと四季がある、あざやかな季節がある、その時その時に本当にきれいな姿を見せる、そこに住んでいる人間たちもいろんな文化を育てて日本独特の文化と精神的な強さと凛々しさ、といろいろなものを守ってきたと思う。

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 そういった日本の美しさ、日本の良さ、日本の凛々しさ、風格、品格というものを「風のように」を通じて世界中の人たちに見てもらえたらうれしいなと思うんですよね。日本人ってこういう生活をしているんだ、子どもたちはこういう気持ちで毎日毎日勉強したり遊んだりケンカしたりしているんだ、っていうのをアニメーションを通じて世界中に発信していけたらうれしいなと思います。

 アニメーションはまた漫画とはちょっと違う形になってると思う。動くし、声も出るし、音も出るし、私、シナリオを読みましたけれど本当に子どもたちがイキイキしてる。村の人たちや駐在さんも本当に元気で日本人らしさがとても出ていると思うし。

 この作品ができるのをすごーく、誰よりも一番楽しみにしているのは私だと思うので。ぜひ良い作品を作ってください。私は本当に心から応援しております。

 もう戦争をしている国の子どもたちも届けてほしいの。ああいう子たちにもこういう子どもがいるんだよ、勤勉に頑張っている人たちがいるんだよ、っていうのを「風のように」を通じて伝えてほしいです。本当に私、楽しみにしてるんですよ。応援のメッセージのなかに「早くしないと死んじゃうぞ」って書いたんですけどね。


ちば先生のメッセージ

―― ありがとうございます。これからたくさんの人に見ていただく際には、じかにファンの方と触れ合う時間も作りたいと思っておりますので、その際にはよろしくお願いします。

ちば よろしくお願いします。野沢さんが声を引き受けてくれたり、沼田市のご縁があったり、良い縁があるものはうまくいきますよ。


ちばてつや先生と、エクラアニマル・豊永ひとみさん

 アニメ化に寄せて、「はじめの一歩」の漫画家の森川ジョージ先生も応援のメッセージを送っている。

森川ジョージ先生のコメント

3歳のころちばてつやさんの漫画に出会い僕の人生は決定づけられた。以来何度も読み返し、漫画家となった今も勉強のためページをめくる。

大人になって読むと、子どものころの感動は色あせずさらなる感情が上乗せされる。

「子どもに読ませたい」

「子どもと一緒に読みたい」

ぜひ家族で楽しんでいただきたい。全ての年代に刺さる何かがあるはず。

そういえば「風のように」も僕が3歳の頃の作品だ。今何を感じるのか胸が高鳴る。

 「風のように」クラウドファンディングは「FUNDIY!」にて、4月22日まで支援を受け付けている。ちば先生とエクラアニマルの野心作の実現に期待したい。

(C)ちばてつや/エクラアニマル

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