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エロスを超えたアート――オリエント工業のドール、美しさの秘密

造形に定評のあるオリエント工業のラブドール。アートとして女性にも愛好されるその美しさの秘密を探ってきました。

 男性向けの商品というイメージが強いラブドール。実は、オリエント工業のラブドールをアートとして愛好する女性が増えてきているのです。

 同社はこれまで東京・銀座でラブドールの展示を度々行っていますが、前回は来場者の3分の2を女性が占めていました。筆者も女性を伴って訪れたのですが、同性として見たドールを「かわいい、連れて帰りたい」と言わしめたほど、その造形は群を抜いています。


4月26日から5月22日まで開かれる、ラブドール展示会「人造乙女美術館」フライヤー(関連記事

 これまでさまざまな企業などから女性型ロボットが創られていますが、そのたびにネットで「オリエント工業に造形頼もうよ」と比較の対象にされてきました。その造形の秘密を探るべくオリエント工業の工房を取材しました。


工房

 工房で話を伺ったのは、造形担当者と営業担当者。造形担当者は大学で美術(彫刻)を学び、学生時代からオリエント工業で働き、現在のリアルな造形を担当しています。

 オリエント工業ではシリコン素材でドールを製作しています。工房では骨組みの組み立てを行い、シリコン用の型に骨組みを入れて首から胴体部分の成形を行い、メイクアップを施します。


まるで宇宙服のような型
工房には一部ラインアップに使用されているソフトビニール(ソフビ)の金型も置かれていました。現在では日本国内にはソフビの製造工場が数少なくなり、ソフビの製造工場のほとんどが中国に移っているため、貴重なものを見られました

 重量があるため、メイクアップ前までの製造を男性が主に受け持ち、メイクアップは主に女性が行います。

手のひらのしわや爪など繊細な造形がうかがえます

 頭部の仕上げ作業は胴体を製造しているのとは別の部屋で行っており、メイク見本を元に繊細なメイクを施していきます。


メイク前

メイク見本と作業待ちの頭部

メイク後の目元のシャドウやリップのツヤなどに注目

 筆者はこれまで見てきた女性型ロボットに少なからず違和感を覚えていたのですが、実はこの「メイクアップを女性が行っている」という部分がカギなのだと実感しました。筆者も含めて男性が20代女性のすっぴんを見ることは、家族などを除いてはまれであり、通常は化粧した顔の方が見慣れているのです。これまで見てきた女性型ロボットはまさにすっぴんに近い状態なので、普段見慣れていないために違和感を覚えていたというわけです。

 造形担当者に聞いたところ、胴体部分は女性モデルから型を取ってデフォルメを加え、頭部は3Dスキャンし、それをもとに違和感のないように造形しているとのこと。例えば頭部はそのまま造形した場合、実際よりも大きく見えて違和感を抱かせるため、若干縮小して補正した造形になっています。人間に近いものを作ったとき、本物との微妙な差異が不気味さを増す原因となるため、このような「不気味さを排除した造形」が、オリエント工業のクオリティーなのだと実感しました。

芸術家から見たラブドール

 東京藝術大学大学院でラブドールを使って、「ラブドールは胎児の夢を見るか?」という作品を制作した菅実花さんにも話を聞いてきました。

 オリエント工業のドールのおなかを加工して妊婦とした作品ですが、本来はありえないラブドールの妊娠した姿に対しては、本来のドールの持つセクシャリティが消失し、特に妊娠を経験した女性からは母性の象徴という感想が多かったそうです。

 シリコン素材は着色が難しく、他の女性型ロボットなどがすっぴんに近いのもこの着色の難しさによるもので、オリエント工業が持つ突出した着色技術がメイクアップの肝になっていると菅さん。また、同社のドールの造形は目を見張るものがあり、例えば目の横幅と間隔が1対1(美人の黄金比)になるなど造形のお手本となっていると話します。他の学生や教官たちもオリエント工業のショールームを時折訪れて鑑賞しているそうです。

 女性は雑誌などをメイクアップの参考にしますが、ヴァニラ画廊やオリエント工業のサイトを、目元に赤みを入れたドーリーメイクなどの参考にする女性もいるそうです。

 ヴァニラ画廊では女性の来場者のほうが多く、「○○ちゃん肌キレイ」のような感想が聞かれます。「モデルをしている女友達と温泉旅行に行って裸を見た」ときのような感想を持つそうです。これも造形やメイクアップの力によるもの。むしろ男性来場者は女性たちの温泉旅行に紛れ込んだ男のような雰囲気になりますのでご注意を。

 女性で同社のラブドールを購入する人は少ないそうですが、部屋のインテリアとして購入する人や頭部(10万円)を複数購入する人も。インテリアとして購入する人は、衣装もそれなりに購入し、写真集にしている人も少ないもののいるとの話でした。

 もともとは配偶者を亡くした男性などのために作られてきたラブドールですが、時代を経てエロスからアートの領域に到達したのがオリエント工業の製品であり、それをどのように見るかは見る側の視点によって全く変わってしまうのだと、菅さんの作品によって実感した取材でした。

松岡洋

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