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業界人納得の完成度 「重版出来!」はマンガとドラマで二度楽しい

「虚構新聞・社主UKのウソだと思って読んでみろ!」第69回は、ドラマも好評放送中の「重版出来!」を紹介します。

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 ねとらぼ読者のみなさん、こんにちは。虚構新聞の社主UKです。

 だいたい隔週でマンガをおすすめしている本連載、第69回の今回は「月刊!スピリッツ」(小学館)にて連載中、松田奈緒子先生の「重版出来!」(1~7巻、以下続刊)をご紹介します。

 「重版出来(じゅうはんしゅったい)」とは、出版物が初版からさらに発行部数を増やすことを意味する業界用語。この言葉を広く世に知らしめた本作、現在TBS系でドラマ放送中ということもあり、原作に興味を持たれた方も多いのではないでしょうか。逆に「原作のイメージが崩れそう」とドラマを敬遠している人もいるかもしれません。

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 けれど、両方楽しんでいる者から言わせてもらうなら、今このタイミングでどちらかしか読まない・見ないのは本当にもったいない! ということで、今回はドラマと原作の共通点や違いなどに触れつつ、本作について語っていきます。

「重版出来!」(~7巻、以下続刊)→試し読み

マンガ作りの「舞台裏」

 物語の舞台となるのは、青年マンガ誌「週刊バイブス」編集部。柔道のオリンピック代表を目指しながらもケガで断念し、大手出版社の興都館に女性編集者として入社した黒沢心を中心に、マンガ作りの舞台裏を描いた作品です。

「週刊バイブス」編集部に配属された心

 新人・心が働く姿を通じて、編集者とマンガ家のみならず、アシスタント、営業、デザイナー、校正、書店員など、マンガに関わる人たち全てが登場し、また彼らの喜怒哀楽にあふれたリアリティあるやり取りが味わえるのも大きな魅力のひとつ。一冊の雑誌、一冊の単行本が世に送り出されるまでに、これほど多くの過程を経ているのかと驚かされるとともに、一見「モノ」として本屋に整然と並んでいるマンガもまた、さまざまな人たちの情熱が凝縮した「結晶」であるのだな、と改めて考えさせられます。

 その思いは単なるマンガ好きの社主より、現場の真っただ中にいるマンガ家さんや編集者さん達の方が当然強いわけで、ドラマ「重版出来!」が放送される火曜夜になると、Twitter上には「こんな時期もあったなあ……」「出た! 頭の中のイメージをそのまま描けばいいって言っちゃうタイプ!」「週刊連載だけがマンガじゃないよ」など、業界関係者のさまざまなつぶやきが聞こえてきます。そして、そんな様子を毎週タイムラインで眺めるのが、社主の密かな楽しみになっています。

 また今回のドラマ化では、原作の登場人物がほぼイメージ通りにキャスティングされているのですが(中でもオダギリジョー演じる編集者・五百旗頭敬は、逆にドラマをマンガ化したんじゃないかと勘違いしそうなレベル)、ストーリーも省略こそあれ、改変はほぼありません。それがまた業界人納得の完成度に結びついているのでしょう。ドラマ独特のテンポの良さもあるので、出来栄えを怪しんでいる未見の原作ファンもぜひご覧ください。

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ドラマ版で心を演じるのは黒木華さん(ドラマ公式サイトより
オダギリジョー演じる編集者・五百旗頭敬はイメージぴったり(ドラマ公式サイトより

業界の光と影をまんべんなく描く

 さて、現在ドラマは主に1巻から4巻のエピソードを中心とした構成ですが、原作・ドラマ共通の見どころはこの2つじゃないかなと思っています。

 まず1つは、ドラマ中盤でスポットが当たった異彩を放つ新人マンガ家・中田伯の存在。持ち込み原稿「ピーヴ遷移」は、バイブス編集長・和田に「ひっでえな この絵!!」と言わせるほどつたない画力ながら、誰にもまねできない独特の設定、読み手を惹きつけるストーリーセンスが心の目にとまり、伯はデビューに向けてマンガ家修行を積んでいきます。

 ドラマの伯は「暗い過去を抱える青年」という控えめな描き方ですが、原作では社会と折り合えず、マンガを描くことだけが自分の存在理由になっている人間の重苦しさが、その言葉遣いや素行に出ていて、そういった性格の違いに注目して見るとさらに面白いのではないかなと思います。原作の伯は「怪物」と呼ばれるほど心の闇がずいぶん深い。

「愛とか恋とか、気持ち悪い」。伯の闇は深い

 そしてもう1つは、近頃よく目にする「消えたマンガ家」の話題。ドラマ第8話に登場したマンガ「タイムマシンにお願い」で一世を風靡した往年のギャグマンガ家・牛露田獏の父娘エピソードは、才能だけで食っていくマンガ家が世間から忘れ去られた後の姿、そして残された家族の姿を生々しく描いています。

 絶えず奇想天外な発想を求められるギャグマンガ家は、特に作家寿命が短いと言われていて、「ど根性ガエル」の作者・吉沢やすみ先生の娘・大月悠祐子先生は、マンガ「ど根性ガエルの娘」(~1巻、以下続刊/KADOKAWA)の中で、スランプや失踪など“その後”の父に訪れた苛酷な現実を娘の視点から描いています。併せて読めば、より理解が深まるのでこちらもおすすめです。

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ど根性ガエルの娘」(~1巻、以下続刊/KADOKAWA)

 ドラマ第2話では「タンポポ鉄道」というハートウォーミングなマイナー作品が、編集・営業・書店の地道な連携と努力で話題になって売れていく(作中の言葉を借りれば「売ったんだよ!!!」ですが)という良い話が綴(つづ)られましたが、このように本作は業界の光と影をまんべんなく描いているので、自分の好みや関心に合わせた様々な読み方ができます。ネガティブ思考な社主は、シビアな話の方が胸を打たれやすくて好みですが……。

ネットを活用したユニークな仕掛け

 かねてより出版不況が叫ばれる中、電子書籍リーダーやコミックアプリの普及し始めたことで、今マンガを取り巻く環境はネットを取り込みながら、大きく変化している最中です。

 ドラマの方も同じく、公式サイト内「デジタルバイブス」で「ピーヴ遷移」を始めとする作中作が読めるようになっていたり、第6話放送時には「新人つぶし」の異名を持つ編集者・安井の裏アカウント「編集者残酷物語」がドラマと全く同じタイミングで削除されたりする(※ただし公式かどうかは不明)など、こちらもネットと連動した試みが面白いと話題になっています。古いメディアと言われる出版もテレビも、ネットを活用するのがもはや当たり前になってきました。

 こんな調子でデジタル化が進めば、いずれ単行本が手に入らなくなる日が来るんじゃないかと、紙で読む派の社主としては不安で仕方ないのですが、その形態を変えたとしても、マンガが多くの人たちの手を介して作られた汗の結晶であることに変わりはありません。

 そしてそんな今だからこそ、出版業界の全員が幸せになれるこの「重版出来!」という言葉が、その読み方も含め、多くの人の記憶にとどまってほしいなと願う次第です。「じゅうはんでき」と読む人が一人でも多く滅びゆくことを祈りつつ、今日はこれにて筆を置きます。

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 今回も最後までお読みくださりありがとうございました。

(C)松田奈緒子 / 小学館

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