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誰かと話したいの!(でも1人で見たいこともあるの!)「木根さんの1人でキネマ」木根真知子(三十代)のわがまま映画人生あのキャラに花束を

映画が好きすぎて面倒くさいこと言っちゃうのは、まあ、よくあるよね。

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 皆さま、映画を見る時は「1人で行く派」でしょうか。「誰かと行く派」でしょうか。

 「1人で行く派」の方は、大抵の場合映画に集中したいからでしょう。誰かと一緒に行くと、気を使うし、あわせないといけないし。

 「誰かと行く派」の方は、映画を見終わった後すぐに感想を言い合いたいからでしょう。友達と、恋人と、家族と、和気あいあいと。

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 問題になってくるのは、映画がつまらなかった時。恋人と見に行った映画が駄作だったら、好みじゃなかったら。気まずいことったらない。「お金を払って」「わざわざ遠くに足を運んで」「2時間近く拘束される」という、映画だからこそ起きる現象です。

映画友達ほしいよぉおお!!

カウチポテト決めてるぜ

 木根さんの1人でキネマ木根真知子。三十<バキューン>歳。独身。趣味は映画鑑賞。

 と言っても「全米が泣いた!」とか「この夏の感動作」とかには一切目もくれませんというかヘイトしてます。彼女が好きなのはハードアクションやホラー系映画。具体的に言うとDVDの背表紙黒い系。映画館に通い、DVDを買いあさり、レンタル屋に入り浸る日々。

 彼女には悩みがありました。語り合う仲間がいない。少なくともリアルにはいなかった。ネットで映画好きに話しても、どうにも分かり合えない(お互いこじらせてるから)。

プラトーンみたいな感じで雨の中愛を叫ぶ(1巻19ページ) (C)アサイ/白泉社(ヤングアニマル)

 趣味の時間を分かち合いたいのは、心の底からよく分かる。でもだよ。いくらディープな方面の映画好きだとしても、そっち方面の語り合う同好の士くらい、今ならすぐ見つかるのでは?

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 そこが木根さんの面倒くさくて、マニアあるあるなところです。

私の好きなモノは最高なんですー高尚なんですー

 彼女のコンプレックスは、育ってきた環境にも原因がありました。

 1987年、幼少期。日曜洋画劇場でたまたま見た「ターミネーター」に激しい恐怖を感じました。まあ分かるよ初代おっかないしね。ところがその感覚から、どうしようもない快感を得てしまった。以降、人が死んだり爆発したり人が死んだり血が飛び散ったり人が死んだりする映画ばかり見るようになりました。

 しかし東京・埼玉連続幼女誘拐殺人事件が発生。1989年のアレ。おかげさまで木根さんは、親から残虐な映画を禁止されたり、学校で白い目で見られるようになってしまいました。この時期はアニメにも風当たりが強かったのですが、ホラー映画には逆風といわんばかりの嵐が吹き荒れており、テレビ局では放送自粛されたほどです。これは現実の話。

 その後は世間の意識も緩和していきますが、ひねくれてしまった彼女はそう簡単に戻れず、中学時代に大変厄介な方向に走りだしてしまいました。

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思春期あるある。こういうのを伊集院光は「中二病」と言った(1巻127ページ) (C)アサイ/白泉社(ヤングアニマル)

 私の趣味は、アクション・ホラー映画は、お前らみたいなチャラチャラした中身のない会話と違うのよアピール。なお彼女が読んでいる「スターログ」はアメリカのSF映画雑誌。「ファンゴリア」はこれまたアメリカのホラー映画雑誌。あー、キネ旬や映画秘宝では飽きたらなかったかー。

 「貸す友達もいないのに、オススメ映画を録画したビデオを学校に持ってくる」となるとこれは重症。あ、はい、ぼくもこれ実はやったことあります、アニメ映画で。優越感に浸りたかったんです。

 なにが彼女を苦しめ続けているのか。1つは理解してもらえないこと。特に親に反対された心の枷が大きかったのかも。半ば意地になって「私の好きなモノは最強」みたいなテンションになってます。

 もう一つ、流行に乗れない孤独が彼女を蝕んでいる。ドラマ見てない、J-POP聞いてない、お笑い興味ない。好きでもないのに押し付けられる。苦痛でしかない。

 クラスの日常会話に全く乗れない。いいんだ私には映画がある、そもそもあいつらと仲良くなりたくない、……と開き直ってはいても、どんどん気持ちは孤立していく。この寂寥(せきりょう)感が、今も、彼女を蝕み続けている。

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面倒臭さのこじらせの果てオブ・ザ・デッド

 彼女の苦痛の1つが、最初に挙げた「映画1人で行くか問題」。

 木根さんは「1人で行く派」。これ中学生にはなかなか分かってもらえない。「映画って友人や恋人や家族と行くものでしょう?」「1人ぼっちなの?」みたいな思い込みがね、あるよね。

 成長して大人になってからは、押し付けではなく、映画の魅力を伝えようと考えるようになりました。

連れてかねーのかよ!(1巻58ページ) (C)アサイ/白泉社(ヤングアニマル)

 でも連れてかないもんねー! 1人で見るもんねー!

 「いいものを伝えたい!」「映画の楽しさを知ってもらいたい!」「好きなモノを理解してほしい!」けれども「侵食しないでほしい」「よけいなことしないでほしい」。

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 映画を「コミュニケーションの手段」だと考える人は多いはず。だから「出掛ける」という行為があるわけで。けれども彼女は映画に耽溺(たんでき)したいのであって、コミュニケーションは目的ではない。会話はしたいけど。このアンビバレンツが彼女の人生を厄介なものにしています。

 実は彼女タイトルと違って、佐藤香澄という同居人が押し掛けてきているので、物理的には1人ではありません。一緒に映画を見たこともあります。しかし相手と意見があわないことが多い。寂しさはないけど、怒りも起きる。彼女自身が気持ちを切り替えない限り、どんなに映画友達に恵まれようと、永遠に「1人」だ。

 もっともそれはそれで彼女楽しそう。なぜなら若いころこんなことして後悔したのを、今も繰り返しているから。

わ、分かるーオブ・ザ・デッド(1巻107ページ) (C)アサイ/白泉社(ヤングアニマル)

 片っ端からゾンビ映画を借りて見る。嗚呼、B級。いやZ級。地雷!地雷!また地雷! マゾヒスティックなゾンビ映画めぐり。多分サメ映画でも同じことやってるんじゃないかな。

 けれどもこの「宝探しのはずが掘っても掘ってもゴミばかり」人生、絶対楽しんでるよ。

いい体してるんですよねえ

 正直面倒くさいし、失礼な偏見ばかりの、子供っぽい木根さん。ですが、気取らずに好きなモノは好きだとざっくり言うのを見せられると、キュンとくるもの。一緒に住んでいる佐藤との、映画を巡ってのかみ合わない仲の良さは大変キュート、だとぼくは思う。特にクリスマスを描いた「8本目」のニヤニヤ度はすごいです。なお2巻には、彼女が(なんとなく)見たことがないジブリ映画の話も収録。あかんこれ血の雨が降るやつだ。

たまごまご

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