「大家さんは思春期!」の里中チエちゃんを、公式はこう称しています。
「ぐうかわ」
「ぐうの音も出ないほどかわいい」という意味。
ネットで叫ばれる「ぐうかわ」な存在って、いくつか条件があると思っています。「幼さを感じさせる」「笑顔や照れなど、ポジティブな感情がこもっている」「色味が柔らかく、目と心に優しい」。
その全てを兼ね備えると、理屈では返せないかわいさが誕生します。
制服に着られているその姿
里中チエちゃんは、ちょっとした事情で大家さんになった中学1年生の女の子。いつも前向きで、がんばり屋。作中のみんなに愛される子です。
単行本1巻が出た時(ていうか連載しはじめてからすぐ)、彼女のあまりのかわいさに、マンガファンは一瞬でねじ伏せられました。
中学生といっても、1年生。まだまだ小学生みたいな雰囲気を醸(かも)しているのは、黒目がとても大きいのと、制服がちょっとダボダボだからです。
ぼくのようなロリコンはもとより、そうでない人の心もわしづかみにしました。1巻の表紙を見てください。チエちゃんは「こちら」に語りかけている。実際は引っ越してきた居住人の前田さんに話しかけているはず。でもバーチャル大家さんとして、笑顔でぼくに話しかけ、しかもぼくの布団を干し、ぼくの布団をたたこうとしてくれている。ぼくの目の前にあるのは、彼女の笑顔と、幼い足の裏だ。かわいい。
「ぐうかわ」の条件、「幼さ」「ポジティブさ」を叩きだした、すごい1枚です。
無防備で無邪気で無自覚なチエちゃんは純白
チエちゃんは、大家としてはきっちりしているし、学校でもそつなく自分の仕事をこなします(苦手も多いけどそこがいい)。料理がとてもうまく、気遣いができる。良妻賢母感はんぱない。
ただし、彼女あまりにも世間知らず。知っている生き方が新しくないので、むしろおばあちゃんっぽい。
加えて、恋愛などに無知極まりない。根っこが基本的に子供。
かくして優等生で周りの子より大人びている、ただし流行りのことを全く知らない純粋無垢な少女という爆弾になりました。何がヤバイって、無自覚に周りの人の心に入り込んで、ドキドキな内容を想起させること。
不審者が出て怖がっていたチエちゃんを守るため、前田さんが部屋に泊めることになったシーンは象徴的。前田さんはどっちかというと、隣の部屋のホステス白井麗子さんが好きっぽいので、全く性的なイメージは抱いていません(ポイント1)。
チエちゃんは、小学2年生くらいの心理だと考えるといいと思います。一緒に泊まるなんてワクワクする! 相手が男性だからとか一切考えません(ポイント2)。
怖がりなチエちゃん。「夜1人だとずっと怖かったから」と、前田さんに手を握ってほしいとせがみます。顔を赤らめて。前田さんは子供として彼女の手を握って寝ます(ポイント3)。
朝起きると、彼女は大家さんスキルを発揮し、朝食を作り、ブレザーアイロンがけ。男子の夢をナチュラルにかなえます(ポイント4)。
彼女が去り際に言った一言は「誰かが傍に居てくれるって すごく安心できていいですね」(ポイント5)。
ポイント1から3。徹底して「ここには性的な意味はありません」という完璧すぎる防御網を張っています。しかしポイント4・5のように、こちらの想像をふくらませる、網をはみ出しそうになるほどのネタもぶっこんでくる。思春期の気持ちになるのはこっちの方だよ。
作者の水瀬るるうさんは、「健全」を描くことに長けまくっています。ただ単に清く正しい、という意味ではありません。かなりキワキワなシチュエーションを用意し、キャラクターたちの間にも様々な心理的葛藤があるのを明確にした上で、人物達の純粋さを浮き立たせる。
同作者の短編集「はじめてのお泊り」。表題作は「飲みに行ったあと女の子に声をかけたら、家に連れて行くことになってしまった」という、もう朝チュン待ったなしのようなマンガ。
しかし、登場人物の心理にフォーカスを当て続けると、キャラは意外と当たり前に「健全」を選択します。シチュエーションがキャラを動かすことをしません。
「大家さんは思春期!」でも数多くの、見ているこっちがドキドキする状況が連発します。けれども「幼い中学生なら」の軸が非常にしっかりしているので、彼女がシチュエーションを振り回すようになります。
もっとも、読者・視聴者側の妄想のトリガーはがんがん引かれます。
コミックもアニメも、彼女の一挙一動を「見守る」うちに、彼女がこっちを「見つめて」くる。ああもうかわいいかわいい。登場人物全員、住人、商店街の人たち、クラスメイトでさえ、彼女を甘やかしたくなる気持ち、わかります。しかたありません。チエちゃんをもっと見たい。何時間でも見ていたい。見ているだけでいいですから!
(たまごまご)
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