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刺激的な出会いや充実した恋愛ができる そう、書店ならね

読書離れに新しい提案を。星井七億の連載「ネットは1日25時間」。

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 先月、伝説のロックバンドHi-STANDARDが16年ぶりのニューシングルを、一切の告知なくゲリラ販売しました。それもこの時代、ネット通販や配信などはなく、ショップでの店頭販売のみ(現在では配信解禁中)。これによって「ショップに足を運ぶ」というスタイルがまた注目を集めることになりそうです。私自身、今となってはCDを買うのにもネットの通販に頼り切りになっていますが、小さい頃を思い返せばCDに限らずゲームや本など、ショップで手に取りレジに運んでいくときの緊張感や、買った物を手に家路をたどるときの高揚感は今でも忘れられないものがあります。

 空前の日本語ラップブームが日本を席巻していますが、ヒップホップ文化に触れていると「digる」(ディグる)という習慣が強く根付いていることに気付きます。自らレコードショップなどに足を運び、大量の音源ソフトの中から自分の感性に引っ掛かりそうなものを発掘する……。そうやって自分を感動させる新しいコンテンツと出会い、またコンテンツを選ぶ目を肥えさせることができます。

 ヒップホップに限らず、古いレコードショップなどに足を運んでいると高確率で、レコードの入った箱から精密機械のようなスピードで商品を品定めする常連客を目にすることができます。

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 これだけCDやレコードの話をしておいてなんですが、今日は主に書店の話をします。

前振りなんだったんだ……

書店には予期せぬ出会いが待っている

 2016年、一冊の文庫本が本読みの間で話題となりました。作品名はおろか、著者名や出版社まで伏せられて「文庫X」と名付けられたその本は、買ってページをめくるまで中身が分からない仕様。

 これはある書店員がどうしても売りたいけれどどうにも売れづらいジャンルのオススメの本を多くの人へ届けるために思い付いたアイデアであり、その本の中身は私も文庫本化する前に読んだことのある本だったのですが、確かに売れづらいとはいえ良書だったので、今回の変化球的な手法で多くの人の手に届いたのは素直にうれしいことです。同時に、書店という存在の持つ可能性を感じるケースでもありました。

 書店員が売りたい本を幅広く宣伝する手法としては現在、もっとも効果が大きく著名なものに「本屋大賞」の存在がありますが、近年はそのノミネート作や受賞作を見ていると既にある程度売れていたり知名度があったりする作品ばかりです。その中において「文庫X」の手法はいささか力技ではあっても、文学賞などといった分かりやすい指針や便利さを追求したネット通販にもできない、実際に書店へ足を運ぶことでしか実現できない「良作との出会い方」を提示してくれました。

 私は書店が好きで一般書店はもちろん、古書店や図書館にも足しげく通っています。頭のなかで既に買う予定の本が決まっていても、並んでいる本の列を眺めているうちに、つい興味をそそられて予定外の出費を重ねることも珍しくありません。中にはこんな本があったのかと驚くような一冊もあり、こういった偶然の出会いがまた、書店に足を運ぶことの醍醐味の1つといえます。

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 ネット通販というものは本当に便利なもので、1つでも何かを買うとその趣味嗜好、興味に合わせた別の商品を推薦してくれます。ほしいジャンルを検索すれば一発で商品を提示してくれますし、至れり尽くせりといった限りですが、自分の普段の観測範囲、受け止めたい情報にばかりとどまり、新鮮味に欠ける部分も出てきます。

 出会いというものは往々にして、突拍子もなく予想外であるほど強烈なものです。また、人間は知識欲が満たされることで喜びを覚える動物ですから、普段は興味のないこと、知識の足りないことほど、知らない分だけ満たしがいがあり、幸福の度合いも大きいといえます。

 書店に行くと度々、お目当ての本が売り切れていた、入荷していないせいで書店をハシゴする、という状況に出くわします。事前に予約しておくといった手段も取れますが、私の場合は予算に余裕があったなら、店内をぐるりと巡って買う予定のなかった、存在すら知らなかった本の購入を検討します。そのほうが「面白い」からです。

 ネット通販の便利さを知ってしまうと書店に足を運ぶことは非効率な部分も目立つなど不便な場面の多いのですが、もともと効率の悪さを肯定する材料など「楽しむ」以外ありませんし、予期せぬ本との出会いは良作でも駄作でも楽しんだもの勝ちです。

「書店デート」で書店数減少を食い止めろ

 ネット通販の煽りを受けてか、いわゆる「読書離れ」と囁かれている現象のせいなのか(私自身は国民の読書離れが進んでいるとはとても思えませんが)、全国の書店数はこの15年ほどで8000~9000件ほど減少しています(参考資料)。

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 こういった状況は書店好きとしてとても寂しい限りですが、先述の「文庫X」のように、手法次第でいくらでも本屋が「面白い」場所なのだとユーザーに指し示すことができます。そもそも書店は自分達のまだ見ぬ知識と刺激が大量に眠っている場所なので、面白くないはずがないのです。この世でもっとも面白い場所だといっても過言ではありません。

 また、書店とは文化の窓です。その国の文化や価値観、流行を知りたければ、その国の書店に並んでいる本を見るだけで事が足りるとも言います。悪辣(あくらつ)な主張を掲げる本を並べていればその国の抱えている病の大きさが理解できますし、他のどこよりも精度の高い時事性が流通する場所なのです。

 知性と有益さと面白さが混在するそんな場所を維持し続けるには、やはり多くの人に「書店は足を運ぶのが楽しい場所だ」と思わせる以外ないのですが、その方法の1つとして私は「書店デート」をブームにすることを提唱したいのです。

 以前は友人達の前で「書店デートはいいぞ」と言うと「辛気臭い」「貧乏臭い」「オタク臭い」と言われたもの(この世には一冊何万もする本もあるのですから貧乏臭いというのは視野が狭すぎる気がしますが)。

 ですが、恋愛関係はどうしても必然的にお互いの価値観をすり合わせることになります。価値観の宝庫である書店に足を運び、相手がどのような本に興味を示すかでお互いの思想信条、主義主張、趣味嗜好を掘り下げて把握することができますし、本を選んだ理由を知ることで、相手の価値観に寄り添う選択も取ったり、新たな知識への扉を開くこともできます。普段は言いづらい、聞きづらい、図りづらい相手の考え方、物事の捉え方などを、相手が選んだ本は自然に教えてくれますし、何よりも雄弁です。

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 また書店デートで買った本を読んで、感想などを次回のデートでのおしゃべりのテーマにすれば、話のネタに困ることもないですし、マンネリも防げるかもしれません。また、読書を嗜んでみたいけれどハードルが高いという人にも、ほら、恋愛って行動力をやたら活発にしますしね。

 この書店デートブームをあおれば書店の減少も少しは抑えられるかもしれませんし、出版不況も救えて一石二鳥。いかがでしょうか。

星井七億

 85年生まれのブロガー。2012年にブログ「ナナオクプリーズ」を開設。おとぎ話などをパロディー化した芸能系のネタや風刺色の強いネタがさまざまなメディアで紹介されて話題となる。

 2015年に初の著書「もしも矢沢永吉が『桃太郎』を朗読したら」を刊行。ライターとしても活動中。

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