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アニサキス症の報道に鮮魚店から悲鳴 「アニサキスは処理してます」訴えた漫画が話題に 研究者の見解は

鮮魚店でのアニサキス症の実態を紹介した漫画が注目を浴びる。国立感染症研究所のアニサキス症研究者にも取材しました。

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 「ここひと月というもの、魚の生食商品の売り上げがガッツリ落ちて大変困っています」――。5月からメディアで取り沙汰されている魚の寄生虫症「アニサキス症」について、ある鮮魚店従業員さんの漫画がTwitterで注目を集めています。

 鮮魚店に勤める方の訴えによれば、アニサキス症の患者数の“急増”は法改正が大きな要因。業界では話題になる前から対処しているため注意すれば刺身も寿司も安全に食べられるのに、売り上げが落ちたまま回復しないので困っている、とのこと。ねとらぼ編集部が国立感染症研究所で同寄生虫症を研究している杉山広さんに取材しながら、アニサキス症の実態を紹介します。

アニサキス症への警戒で売り上げ低迷 鮮魚店の訴え

 アニサキス症とは、線虫「アニサキス」が寄生した魚を生食することで人の胃や腸に虫が入り込んでしまい、激しい腹痛や嘔吐(おうと)に見まわれる病気。1960年にオランダで初めて確認され、日本には160種以上の魚を漁獲し生食する食習慣があることから、世界の中でも圧倒的多数の症例が発生しています。鉗子(かんし)で虫を摘出する治療が一般的で、生食前に加熱や冷凍で処理する予防法も。

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発症すると、のたうち回るほどの痛さなのだとか

 厚労省の統計によると2016年度の患者数は133人。これが2007年度の7人に比べ20倍になるということで、5月に各ニュース番組や記事がアニサキス症の危険性を報じました。他にも渡辺直美さんなど芸能人の体験談もさまざまに紹介され、世間からの関心が一気に高まることに。

 一方、こうした報道が不安を煽る内容ばかりのため、鮮魚店で刺身・柵・寿司の売り上げが落ち込んでいると、Twitterユーザーの泉さん(@syo_izumi)は嘆きます。鮮魚店の立場からアニサキスの実態を漫画にして投稿したところ、11万回以上リツイートされ大きな反響を呼びました。

画像提供:@syo_izumiさん

 泉さんは魚売り場に立ちながら、アニサキスが増えているから魚の生食商品は買わない方がいいと話すお客さんを一日に何度も見かけるそうです。普段なら売れるはずの魚も試食すら動かず、加熱済みでも「生食用」というだけで避ける人も。売り上げの低迷は市場の魚価にまで響く始末。調べたところ、アニサキス症に関する番組や記事のほとんどは「アニサキス被害件数、十年前から二十倍に増加」から始まり、その症状の過激さを強調するものばかり。「お客様は魚避けるわな」と納得します。

 しかし患者数の急増は、2012年に食品衛生法が一部改正されたことが一番の要因だと泉さんは訴えます。この改正は、医療機関にアニサキス症を治療するたび保健所へ報告することを義務付けたもの。厚労省の数字が急増したのは潜在していたアニサキス症患者が報告義務によって表面化したのが大きく、「ここ数年でリスクが飛び抜けて高くなったわけではない」と主張します。

 もともと鮮魚店にとってアニサキスは「会わない日はないくらい」メジャーかつ古くからいる寄生虫で、普段から十分注意して魚を扱っているのだとか。寄生率も魚の種類によってかなり偏りがあるらしく、サバや天然サケといったほぼ確実にいる魚はそもそも生食で出していないそうです。

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 「しめサバなどは大手のスーパーやデパートで扱うものはほぼ間違いなく冷凍処理を行っているので心配なときはお店に確認しましょう」と、最後に消費者が確認するだけでアニサキス被害のリスクは最小限に抑えられると訴えました。

研究者の見解 「統計は氷山の一角、注意すべき」「けど僕は食べてます」

 「アニサキス症患者が10年で20倍」を、研究者はどう見ているのか。国立感染症研究所・寄生動物部の杉山広さんは次のように見解を述べます。

 「確かに2012年に食品衛生法の一部が改正されたのが理由の1つだと思います。保健所に報告された“事件”の数が増えただけであって、“被害者”の数は爆発的には増えてないはずです」

 一方で「患者の数が増えている印象もある」と、その全てが法改正によるものではないとも。

 「近年はコールドチェーンの進歩によって、遠方から鮮度の高い魚が運ばれるようになりました。おかげで東京や大阪でもサラリーマンが入るような居酒屋や回転寿司屋で、これまで生食してこなかった魚を刺身などで食べる機会が増えており、同時にアニサキス症にかかる人も増加しているのでは」

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魚に寄生するアニサキス幼虫の図(左上:スケトウダラの肝臓に寄生、左下:スケトウダラから取り出したアニサキスの幼虫、右上:サバの身に寄生、右下:右上写真の矢印部分から切り出し顕微鏡でのぞいたアニサキス幼虫) 画像提供:国立感染症研究所

 それよりも問題なのは、2016年度の患者数133人という数字は「氷山の一角にすぎない」ところ。厚労省が発表しているのは病院が保健所に報告した数。研究所では病院のレセプトデータから拡大推計した結果、実際のアニサキス症患者は年間7000人ほどいると推測しています。

 これらを踏まえ杉山さんは、厚労省の統計ほどアニサキス症患者は急増してはいないとしても、「そもそももっと多発しているはずのアニサキス症に、世間は引き続き注目していくべき」と訴えます。

 「アニサキスは世界中にいますが、日本は食文化から他国よりも発生しやすいですし、『和食』はユネスコの無形文化財に登録されています。もっと注目を集めて日本で予防策を確立していくべきでしょう。そういう意味で、世間が今アニサキス症に驚いていることはいいきっかけになっているとは思います」

 では、鮮魚店を嘆かせている「アニサキスが危ないから生魚商品はよそう」という、消費者の警戒心はどうなのでしょうか。

 「僕も刺身が好きでしょっちゅう食べますけど、アニサキス症にかかったことはありません。芸能人でも発症した人はいるみたいですが、だからと言って魚を一切食べなくなるほど注意する必要はありません」

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 アニサキスはマイナス18度で24時間以上冷凍すると処理が可能。鮮魚店の訴えの通り、スーパーやデパートの魚売り場では冷凍処理やブラックライトでの検査をするのが一般的なので大丈夫だそうです。それでも不安ならお店に処理しているか尋ねるのがベスト。家庭の冷蔵庫でも、条件を守れば自分で冷凍処理することはできます。

 「一番危ないのは自分で釣って食べる人ですね。夜釣りとかアニサキスが潜んでいるか確認できない状況で食べてしまうとか。釣ってきた魚は内臓を抜いてすぐ捨てるとか、気を付けながら食べるといいでしょう」

 鮮魚店の従業員さんは漫画の最後で、「おいしいものを食べてこその人生。旬の魚を是非お召し上がりください!」とすすめていました。消費者でアニサキス症を認知して注意しながら、これからも刺身や寿司を味わいたいところです、

黒木貴啓

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