「ミュージシャンは食えない」ってホント? 元プロサックス奏者にあれこれ聞いてみた(前編)(2/3 ページ)
憧れだけじゃメシは食えない。
「個性とか出さなくていいから!」
――メジャーデビューすれば安泰なんですか?
G: デビューしただけでは食えません。何も約束がされた状態ではないですから。あくまで事務所に所属したってだけのこと。
――そうなんだ……「メジャーデビュー=成功へのパスポート」だと思い込んでいた。
G: 何年以内にアルバム何枚、シングル何枚リリースするって契約を交わして、制作費とかプロモーション費用とか一切合切渡されて、それで作ることになります。別に月給が振り込まれることはないです。
――「契約=大金が転がり込んで来る」わけじゃないんですね。
G: ある程度のまとまったお金は手にするかもしれませんが、それを自由に使えるわけじゃありません。だからバイトするのも自由。ただ、事務所に所属すると、音楽関係の仕事が回ってきやすくはなります。
――おお、それをこなしていけば、それなりに食えるのでは?
G: 他のアーティストの楽曲のために仮歌を入れる仕事とかですけどね。つまり、他のプロのお手伝い。「個性とか出さなくていいから!」って念押しされます。それを仕事と割り切ってこなせればいいけど、忸怩(じくじ)たる思いでやっている人もいるでしょうね。
――自分は表舞台に立てないのか……。バッティングピッチャーみたいな役割ですね。
G: あるいはマラソンのペースメーカーというか……まあ、そういうニュアンスです。できあがった音源を与えられ、メロディだけ淡々と入れる仕事とか。決して自分の仕事だって呼べないし、世に名前が出ることもない。
――でも、業界にいるおかげで、そういう仕事にはありつけると。
G: 小さい仕事はわりと転がっていますからね。しかも、こういう仕事のチャンスすらないミュージシャンがほとんどです。クローズドな世界で成り立つ仕事ですね。
――聞いてて思ったんですけど、プロのミュージシャンとして成功するのって、何段階もの壁を壊さなくてはいけないのでは?
G: 10年に1人くらい、全ての壁を飛び越えて行く逸材が現れますが、まあレアケースです。壁は何枚にも重なっているんですよ。
――よく、東大に合格するより、Jリーガーになるほうが確率的には大変って表現をするんですが、ミュージシャンもJリーガー並みの狭き門なんじゃ?
G: 感覚的な回答になりますが、音楽もJリーガー並みに厳しい世界じゃないかな。プロになるまでも大変ですが、第一線で活躍し続けるのはもっと大変。Jリーガーだって、プロの門をくぐっても、2年間鳴かず飛ばずで戦力外通告……ってこと、普通にあるじゃないですか。音楽も同じ。トップであり続けるのが難しい。
――プロミュージシャンもアスリートの世界さながらですね。
辞めどきを見失いやすい音楽の世界
――音楽って、辞めどきを失ってズルズルいってしまうパターンが多い気がするんですけど、実際どうなんでしょう。
G: 完全な“ミュージシャンあるある”ですね。プロスポーツの世界は体力の限界って1つの区切りがありますけど、音楽にはそれがない。
――はいはい。
G: しかも、プロ野球やJリーグの場合、契約してくれるチームがなければ自動的に舞台を失いますよね。ところが音楽は……
――……できてしまう。
G: そう。いくらでも続けられてしまう。それがクセ者。メジャーに上がれなくても、インディーで続けることだって可能。「メジャーになって事務所の言いなりになるのは嫌だ」って人もいますしね。ただ、「君とはもう契約しません」って言いわたす人が音楽の世界にはいないので、辞めどきを失ってしまうアーティストが後を絶たない。
――ついこの間、「かつてプロを目指していたけど夢破れ、サラリーマンになった人の手記」を読んでいたんですが、「25歳が見切りをつけるための上限年齢」って書いてあったんです。それについてはどう思います?
G: むっちゃ正しい。同意しまくりです。その人とはお友達になれる気がします。僕は25歳で悩み始めて、26歳になってすぐに辞める決断を下しました。個人的には26歳がリミットだと思ってます。
――それはなぜ?
G: 全然別の世界に入り直して、一人前になるのに3年はかかるって考えていたからです。会社員でも、料理人でも、職人でもいいんですが、なんでも3年の経験は必要になるなと。26歳からリスタートを切れば、3年後でも29歳。ギリ20代なんです。
――つまり、20代のうちに一人前になっておかないとまずいってことですよね。
G: そう。30歳までに一人前になって、ある程度仕事できるようになっていないと、その世界で生きていくのが辛くなってしまう。
――逆算しての26歳リミット説ってことか。
G: 25、26歳って第二新卒とほぼほぼ同年齢。未経験でもガッツがあれば、雇用主も「ポテンシャル枠で採用すっか」って大目に見て雇ってくれやすい。
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