皆さんはミュージシャンに憧れたことがありますか?
楽器が弾けなくても、楽譜が読めなくても、「きらびやかなステージでスポットライトを浴びたらさぞかし気持ちよいだろうな〜」と誰しも一度は空想したことがあるはず。
とはいえ、ほんの一握りの人しかプロの世界で生きられないというのも、なんとなくの世間の認識としてあるものです。ただ、実際どれくらい厳しいのか、部外者にはさっぱり分からない。
そこで、サックスプレイヤーとしてプロの世界に身を置き、その後ビジネスマンに転身したGさんに、プロのミュージシャンは食えないってホントかどうか、耳の穴をかっぽじって聞いてきました。
Gさんのプロフィール
活動期間は大学在学時代(4年)+卒業後(3年)の合計7年間。
ジャンルはジャズを中心に、いわゆるスタジオ系の仕事(ポップス等のレコーディングなど)や、その他サポートメンバーとしての活動に加え、民族音楽系の仕事なども数多く経験。「基本的には、ジャンルは選ばず(というか、少しでも仕事がほしかったので“選べず”)、あれこれやってました」(本人談)とのこと。
ミュージシャンは供給過多
G: ぶっちゃけ、食えない世界ですよ。相当に厳しいですよ。
――それが一般認識ですよね。音楽を嗜んだことのない自分でも、なんとなく想像できます。
G: ジャンルに関係なく、音楽で食うのは難しいですが、そもそも昨今は供給過多なんです。
――それは、プレイヤーが多いってことですか?
G: 胸に手を当てて考えてみてください。いわゆる4マス媒体に載るクラス……東京ドームとか武道館とか横浜アリーナとかって箱……ではないライブって最後に行ったのはいつですか? 例えば、渋谷とか下北とか最後に行ったこと、覚えてます?
――まったく記憶にない……。
G: でしょう? プレイヤーはいっぱいいるんですが、聴きに行く機会ってそんなにないですよね。
――小ぢんまりしたライブハウスで演奏しているプロ、あるいはセミプロの活動って、どうやって成立しているんでしょうね。
G: 友達とか知り合いとか、チケットを買ってくれる周囲の人でビジネスが成立しているんです。
――でも、食えているってレベルではないでしょう?
G: もちろん。でも、プロではあります。ミュージシャンって名乗れば、誰でもプロにはなれますからね。資格も不要だし、名刺を作れば誰でもプロです(笑)。あとは、事務所に所属するって方法もありますね。
――供給過多ってことですけど、ミュージシャンの数って昔と比べて増えているんですか?
G: 参加人口でいえば、増えていると思います。楽器や機材の値段は下がっているし、ITも進歩していて、環境は整っています。それに、音の問題がクリアされているのがデカい。
――音の問題? それは、楽器の性能がアップしたって意味ですか?
G: いや、騒音問題のほう。音をたてずに練習できる環境とか消音できる機器が発達して、どこでも練習できるようになったんです。
――集合住宅だと楽器演奏はちょっと厳しいですよね。ご近所迷惑になってしまう。
G: 以前は防音完備のスタジオを利用するとか、人気のない河原で吹くとかしなければならず……って制約があったのが、解消されてますね。僕が学生だった90年台前半にはサイレントブラスってのが登場したんですけど、1000分の1くらいまで音を下げて、アンプでつないでイヤフォンで聴く方法がありました。でもまあ、気苦労は多かったですね。
――タタミ半畳くらいの電話ボックス的な防音ルームって、買えない値段じゃないですもんね。テクノロジーのおかげでプレイヤーは増えているし、上達もしやすい。
競争は激しいが、極めてフェアな世界でもある
G: コラボできる環境も整っていて、昔は音源を作るためには物理的にメンバーが集まるしかなかった。
――スタジオにそろって、せーので演奏する感じ?
G: ええ、あるいは全員の音をミックスして作ることもできないわけじゃない。でも、なんらかの形で集まるのが必須でした。
――はいはい。
G: 今はメンバーの音をネットで送りあって、作れます。ロケーションがバラバラでも大丈夫。なんなら国境だって越えますからね。
――参入障壁は恐ろしく下がっていると。
G: テクノロジーが下げまくりました。よって競争は熾烈(しれつ)。ピラミッドの裾野が広がっているかんじでしょうかね。でも、ある意味では機会は公平に与えられる世界でもあります。
――学生でも未成年でも、熱意さえあれば作って発信できますもんね。
G: あと、優れた才能、ユニークな逸材が見つけられやすくもなりました。PPAPなんてまさにその良い例でしょう。
――アメリカンドリームですよね。日本人だけど(笑)。
G: YouTube発で有名になることもあるし、タレント発掘系の番組や企画もある。夢は追いかけやすくなってます。
――厳しいけどフェアな世界……か。勝っても負けても、納得感が高いのかな。
G: 今でも考えるときありますもん。「しまったなー、もうちょっと続けていれば、壁が壊れる瞬間に立ち会えたかもなー。そこまで続けていたら、音楽人生が変わっていたかなー」って。僕は1993年から2000年くらいまで活動していたんですが、当時はまだYouTubeもなかったし、壁が壊れたのはもうちょっと後でした。
――悔やんでます?
G: それはない。やりきったって感覚がありますから。それに、また再開できますしね。
――それは、会社員を続けながら趣味として演者に戻るって意味で?
G: いえ、プロとして。音楽に年齢は関係ないですから。社員を続けながらプロに挑戦する可能性もあります。家族もいるので、さすがに今すぐ仕事を辞めて再チャレンジするかといわれたらそれは厳しいですけど……。でも、もしも独り身になったらやるかも? あるいは定年を迎えたら、次のキャリアとしてミュージシャンで食うのも悪くないかなと。
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