「e5489」「仮乗降場」「側面よし」――奥深すぎる“テツ語”満載『テツ語辞典』はいかにして作られたか テツな著者2人に聞いた(2/2 ページ)
『カレチ』作者でも知られる池田邦彦さんと鉄道フォトライターの栗原景さんに裏話を聞きました。
「ドレミファインバーター」……アレは、実は??
解説文を担当した栗原景さんは、旅と鉄道、韓国を主なテーマに、多くの雑誌や書籍、Webメディアで活躍しています。主な著書に『東海道新幹線の車窓は、こんなに面白い!』(東洋経済新報社)、『最後の国鉄電車ガイドブック』(誠文堂新光社/共著)があります。「テツ語辞典」では、「要所で登場する、ニヤッと笑える解説」が読みどころです。
―― 900語もどうやって選んだのですか?
池田さんとそれぞれ候補を自由に出し合って、すりあわせました。かなり重複するだろうと思ったのですが、池田さんと僕では、同じ鉄道ファンでも興味の対象が大きく異なっていたので、意外なほど重複しませんでした。
例えば僕は、列車に乗って旅を楽しむ「乗り鉄」なので、きっぷのルールや路線、昭和50年(1975年)以降の国鉄用語が多く、歴史や模型好きの池田さんは、鉄道史上の人物や海外の機関車についての用語が多かったですね。少なくとも1200個はピックアップしたと思います。
用語の選択には悩みました。また、本当に全ての用語を掲載するならば、それこそ広辞苑のように、それこそ数万語を網羅しなくてはなりません。この本は、調べるための辞典ではなく「読んで楽しんでもらう辞典型の読み物」です。鉄道の言葉を網羅するのではなく、「僕と池田さんが紹介したい、面白い用語を載せる」という方針にしました。
ですので、知識のあるレールファンの方からすると、「あの言葉がない!」「どうしてこの言葉が選ばれたの?」という意見はあるかもしれません。しかし、「これを取り上げるとは面白い」などの新しい発見もあるはずです。池田さんと僕流の「用語セレクトのツボ」を含めて楽しんでもらえればと思います。
―― 執筆にはどれくらい時間がかかりましたか?
用語選定を2017年3月ごろにはじめて、7月から11月末ごろまで執筆していたので……およそ9カ月かかりました。その後も、校了ギリギリまで差し替えや追加作業をしましたね。
―― 残念ながらボツにした用語には、どんなものが?
実はあまり記憶に残っていなかったり、後から復活した用語が多かったりするのですが……例えば「赤と黄」。池田さん提案の用語です。
昭和40年代後半、どこからか「国鉄は赤と黄色に悩まされ」という川柳が一部で流行しました。赤は「赤字」で、黄は「当時の垂れ流しトイレ」のこと。いささか不快な話題だったことと、僕自身が全く知らなかったのでカットしました。このほか、「島式便所」もカットしましたね。トイレ関係はこの他にもいくつか削ったと思います(笑)。
あとは、「えきねっと/エクスプレス予約」は単なるサービス紹介にしかならなかったのでカットしました。その一方で、JR西日本の「e5489」は残しました。このサービス前身である電話予約サービス(5489サービス)のオペレーターさんは「すごい熟練者揃い」でして、指定券確保の裏技だったことに触れたかったためです。
そのほかには……「界磁添加励磁制御」「チョッパ制御」のようなちょっと難しい技術解説や、「五能線」「勝田線」といった路線名など、普通の解説になってしまったものは、もったいないのですがボツにしました。
―― では、気に入っている用語は?
京浜急行電鉄新1000形・2100形の「ドレミファインバーター」です。
発車時にインバーターが音階を奏でるのはレールファンに限らずよく知られています。しかし僕は常々「あれはドレミファじゃなくて、ファソラシインバーターだ」と思っていたのですよ。実際の音階のことを書けて、本当にすっきりしました(笑)。また、「E電」「仮乗降場」「日本特急旅行ゲーム」「側面よし」など、自分の記憶を解説に盛り込めた項目も気に入っています。どんな内容かは、ぜひ本書でお楽しみください!
国鉄再建法によるローカル線廃止第1号となった「白糠線」の項目もお気に入りです。運行最終日の10両編成の「さよなら列車」には、当時小学生だった僕も乗車していました。池田さんが描いてくれたイラストを見て、自分もそこにいたんだなぁと感慨深くなりましたね。
―― この企画の依頼を受けた時にどう感じましたか?
最初は、果てしない、終わりのない仕事になると思いました。とても1冊では語り尽くせそうもなく、自分の知識だけでは大変だぞと。しかし、網羅ではなく「面白いことをやりたいようにやる」と方針を決め、また、池田さんのほのぼのなサンプルイラストを見てからスッと気持ちが楽になりました。
―― 今回のタッグで、栗原さんから見た池田さんのすごかったところを教えてください
どんな素材でも、優しいタッチで、しかも詳しくない人にも分かるように絵にされること。そしてなんといっても、ほのぼのタッチなのに、機関車などの描写が極めて正確であることに驚きました。
あと、明らかなオヤジギャグでも、おしゃれにまとめてしまうのもさすがです。
―― あえて付けるならば、栗原さんは「**鉄」と自称していますか?
自称はしていませんが、分類するなら「乗り鉄」ということになります。小学3年生の時に1人で山手線を1周したのを皮切りに、少年時代は国鉄全線完乗を目指して各地を乗り歩きました。中学卒業時に国鉄がJRに変わりましたが、その瞬間を函館駅の青函連絡船乗り場で見届けるなど、国鉄時代の末期を自分の目で見られた経験は本書にも生かされていると思います。
―― その「乗り鉄」の方に、「これからも続けていく/楽しんでいく」ためのひとことアドバイスをください!
「楽しみ方は人それぞれ」ですから、自由に鉄道の旅を楽しんでいただければと思います。
鉄道が好きで乗っていると、あの車窓を見なくちゃ、有名な駅弁買わなくちゃとついつい忙しくなるのですが、「また来よう」とのんびり構えると、より長く楽しめるような気がします。
(高橋ホイコ)
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