インタビュー

昭和すごかった “やり過ぎ”上等「スーパーカー自転車」はいかに少年の心をつかんだのか(2/4 ページ)

昭和少年を熱狂させたゴテゴテフル装備とダブルフロントライト。スーパーカー自転車ブームを支えた「レジェンド開発者」に聞きました。(画像80枚)

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「ラジアル」のホワイトレター、「ポルシェ928オマージュのライト」実は……!?

 「全く手を抜けなかった」──。当時の想像し難い過熱ぶりから、開発現場の怒号が飛び交うような様子を想像できます。例えば、自動車が生活必需品として大衆化する「モータリゼーション」が起こり、しばらくした1960年代のアメリカ車も、商品としての鮮度を保ち、新規ユーザーを獲得し続けるために、毎年大掛かりなモデルチェンジを繰り返していました。あれと同じような状況がスーパーカー自転車にもあったのです。しかしそれでも、単に変えてあればいいというほど単純ではありません。

 「何より、ユーザーに喜んでもらいたい。少年漫画や雑誌を毎日買いこんで、少年にウケるデザイン、喜ぶ仕様は何かを常に考えていました。実は、チェーンリングやフレームのグラフィックなどにも毎年アイデアを凝らしていました」(森田さん)

 「そういえばタイヤには、目立つように“RADIAL(ラジアル)ナントカ”とホワイトレターを入れたモデルがあります。あれは当時のクルマからヒントを得たアイデアですね」(森田さん)

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“RADIAL SPORTS”の文字とホワイトレターが入ったタイヤ。カッコイイ

 あれれ。今も昔もほとんどの自転車のタイヤはラジアル構造ではありません。本当のラジアルタイヤではなかったのですね。でも“ラジアルタイヤ”とは言っていませんし、そんなことよりもホワイトレター入りのタイヤは「カッコイイ」。それでよかったのです。

 さまざまなアイデアやデザインが盛り込まれて、どんどん過激になっていったスーパーカー自転車。「ダブルフロントライト」と「リトラクタブルライト」もその象徴となるものでした。

 「これで売りたい! と信念を持って毎回企画会議に挑んでましたから、大抵のものは半ば無理やりにでも企画を通してもらっていました(笑)。あ、でも“ポルシェ928をモデルにしたポップアップ式の丸形ライト”は失敗作だったな……。こりゃダメだとすぐ判断して、翌年には普通のタイプのリトラクタブルライトを開発して、こちらは売れました。フェラーリのような角形のライトだから良かったのかな。そういえば、なぜだったのかはとっくに忘れてしまいました(笑)」(森田さん)


ポルシェ928のライトを参考に開発された「クリックFFビームアップ」。丸形ライトがパカッと起き上がる

18灯ものライトを切り替えて点灯できる「スーパーソニック」。これもよーく考えるとスゲぇ装備

 このポルシェ928型ライト「クリックFFビームアップ」搭載車。森田さんは失敗作だったと言いますが、筆者には「アレがほしい!」と思った記憶が強く残っています。


なんと愛嬌のある顔つきでしょう

「カラー風液晶パネル」や「油圧ディスクブレーキ」などまで搭載、装備競争が白熱

 スーパーカー自転車には豪華な電装品も備わります。子どもの使い方から、そして当時の舗装状況も想像すると、不整地をガンガン走ることもあったでしょう。振動や衝撃などの対策は十分だったのでしょうか。

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 「うちは松下電器なだけに、電装系の品質には絶対の自信がありました。耐久試験も恐らく他社より厳しかったと思います。開発時にちょっとでも問題が見つかったならば、設計変更することもよくありました」(森田さん)

 カタログやポスターを見ると、当時からLED、液晶パネルなど、現代も通用する、それだけに当時としては高額そうな部材も次々に採用していました。これを少年用の自転車に使うのか、やり過ぎじゃないのかといった戸惑いや反対の声もあったのでは……。

 「そりゃもう企画時点でいろいろと(笑)。でも私は、それを抑え込んで、苦労して説得して、開発して採用したからこそあのブームを支えられたと今でも信じています。電装にLEDを採用したのは、消費電力を抑えてダイナモの抵抗を軽くし、またバッテリーの搭載量を減らして軽量化する目的からです。でも……ま、価格もどんどん上がっていってしまいまして。最終的には8万円くらいになってしまったんじゃないかな。あはは(笑)」(森田さん)。

 スーパーカー自転車には、なんと「油圧式ディスクブレーキ」も備えたモデルもありました。仕組みはクルマやオートバイのそれと一緒です。自転車のブレーキはワイヤを使ったハンドブレーキとサーボブレーキがほとんどで、油圧式ディスクブレーキなんて2018年現在もマウンテンバイクやレーサータイプなどの上位志向の車両にしか搭載されていません。でも、憧れのスーパーカーと同じ機構。ブレーキとしての性能や効果のほどはどうあれ、これは極めてハッタリが利くメカでした。何せ当時の少年としては「どうだ。俺のマシンこそがすごいのだ!」と自慢できることがステータスであり、快感のポイントだったのですから。


油圧式ディスクブレーキを搭載していた

ハンドル回りのメカメカしさと「OIL DISC」の刻印は自慢のポイント

 「あの油圧式ブレーキシステムはシマノさんと共同開発しました。外注部品といっても、ウチ専用で必要だったから開発を依頼した部品もかなり多かったですね。なお、油圧式ブレーキは“エア抜き”などの高度な整備も必要な部品ですが、厳密にネジ止めして、整備は正しく、自転車整備店へ依頼してほしい、としていました」(北山さん)

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 液晶パネルやLED、油圧ディスクブレーキといった装備は、けっこうな時間を経て、その後の自転車や工業製品に普通に採用されています。そういった意味では先進性はもちろんのこと、実用化や普及に貢献した部分も少なくはないのですね。

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