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「パシフィック・リム:アップライジング」レビュー 言いたいことはいろいろある。だけどそれが幸せだ

紆余曲折を経て公開されたシリーズ第2段。

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 2013年夏、日本中(のオタク)が1つの映画に震撼した。2004年の「ゴジラ FINAL WARS」以降途絶えていた怪獣映画の系譜を、ハリウッドが本気のチカラで復活させてしまった。ましてや、深海からやってくるその脅威のKAIJUに立ち向かうは人型巨大搭乗ロボット。

 創り手は世界最強のギークであり、アカデミー賞受賞作「シェイプ・オブ・ウォーター」にてその評価を決定的にしたギレルモ・デル・トロ監督。彼のキャリアの中でも屈指の異色作なのが「パシフィック・リム」であり、本作「アップライジング」はその続編にあたる。

 本作の公開には紆余曲折があった。配給会社の変更、レジェンダリー・ピクチャーズの買収、脚本家の度重なる変更……。製作が発表されてから何度もキャンセルの可能性が取り沙汰され、そのたびにデル・トロがTwitter上で状況をファンに伝える、ということが続いていた。

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 結果デル・トロは「シェイプ・オブ・ウォーター」の製作に入るため監督を降板、その後をスティーヴン・S・デナイトに託しプロデューサーとしての役割のみを果たすことに。公開予定は更に繰り返し延期され、一時は「無限延期」とまで報じられた

 脚本家はオリジナル版のトラヴィス・ビーチャム、ギレルモ・デル・トロを含まない合計4人へと膨らみ、結果2018年3月に公開された本作は、必ずしも前作のファン全てに受け入れられたとはいえない。

70年代ロボから00年代ロボへの「進歩」

 本作のイェーガーたちは前作の原発を模した「チェルノ・アルファ」や三本腕の「クリムゾン・タイフーン」といったものと比べ、極めてスタイリッシュかつ現代風なデザインとなっている。

確かにイェーガーはスタイリッシュになった

 これは前作が「鉄人28号」や「マジンガーZ」といった1970年代またはそれ以前の巨大ロボットを想像させたのに対し、「新世紀エヴァンゲリオン」「機動警察パトレイバー」といった2000年代前後のスタイルに似たものを覚える。これは単純に絵面の真新しさをもたらす目的だけではなく、作中世界での10年間といった時間の経過を技術の進歩で表したものだろう。

 だがそれと同時にかれらの軽々としたボディーは、前作のアクションカットにおいて多くの比重を占めていたケレン味、すなわちイェーガーの重量感を消し去ってしまった。

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 前作の白眉であった香港決戦での水をかきわけて進むストライカー・エウレカ、大きく湾曲させた全身から「サンダークラウド・フォーメーション」を放つクリムゾン・タイフーン、日本版トレイラーにて使用された大きく吹き飛ばされたのち、ふんばるジプシー・デンジャー……といったように、巨大なものが動いているという感覚はどうしても失われてしまっている。これは今作の戦闘シーンが日中中心であることも作用しているだろう。確かにCGIレベルの向上は感じさせるものの、そこに真新しさは感じられなかった。

1クールアニメの早回し

 ケレン味という点ではもう1つ残念なことがある。前作では観客を驚かせる仕組みが数多く仕込まれていた。例えばそれはKAIJU・オオタチの翼体変化であり、水中からチェルノ・アルファを襲うレザーバッグ。そして「まだ方法は残ってる!」からのチェイン・ソード起動。海岸で崩折れるジプシー・デンジャー、ハーク・ハンセンの「時計を止めろ!」といった、バカバカしさとカッコよさのギリギリのスキマを突っ走るような造り手側の無邪気さが垣間見える映像だ(そして実際、とんでもなくカッコいいのだ)。

 しかし本作では「ここがスゴい」というシーンは冒頭のオブシディアン・フューリー登場シーン、ならびにラストバトルのメガ・カイジュー変形シーンに集約されてしまっている。新技や特殊装備についてもパイロットらがさも当たり前のように使用するため、どうも拍子抜け感が否めない。

 ストーリーについてもかなり苦しい。前作は2クールアニメの第1話・13話・最終回といった盛り上がりどころをつなげたような構成だったが、今作は超早回しの1クールアニメといった印象であり、公開時間は前作より20分も短い。

 企画段階では今作の前にアニメ・シリーズの構想があったくらいなので、語るべきことはいくらでもあるはずなのだ。しかし商業的な意味での成功を目指すにはどうしても削らなければいけない部分がある……というのがこの手のビッグバジェット映画の難しいところだ。しかしいくらなんでも、上映時間の111分はあまりにも短すぎた

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 名前と顔を覚える間もなく流れては消えていく訓練生たち、そのバックグラウンド(なぜ彼女は「ヴィクトリア」と呼ばれることを嫌うのか? など)、前作登場キャラクター――特にローリー・ベケット、ハーク・ハンセン。そして前作で失われた機体たち――の現在を知りたいファンは、公式前日譚である"Pacific Rim Uprising: Ascension"(未邦訳)、角川文庫から出ている映画ノベライズ版、そして少ない言葉でのみ語られるアマーラの過去についてはWebコミック"Pacific Rim Amara"。これらを読むことがどうしても必要になるだろう。

 しかし前作も人物描写に対して、決して長い時間を割いていた映画ではない。スタッカー・ペントコストやベケット兄弟の過去(三角関係のシーンは笑いどころだ)については、こちらもコミック「パシフィック・ リム:イヤーゼロ」にのみ収録されている。

 だが前作は、限られたシーンの中でキャラクターを描写することがとにかく巧みなのだ。もちろんそれは国別に仕立てられた衣装、つまりステレオタイプの仕業という面もあるだろう。だが当然それだけではない。そうでなければ、ほとんど会話シーンがないカイダノフスキー夫妻のことをどうしてこんなに覚えているだろう。テンドー・チョイの好物に、タン三兄弟の得意なスポーツ、ニュートの入れ墨。数々の名ぜりふ。かれらは徹頭徹尾、生きて血の通った人間として書かれる。ゆえにドラマは悲壮感に満ち、かれら同士のあつれきはいびつにゆがんでいる。だからこそ、それを乗り越えた後の快哉が胸を打つのだ。

 「シェイプ・オブ・ウォーター」の記事でも触れたように、デル・トロ監督のもつ問題意識は多様性の肯定と、相互理解の重要性だ。互いの記憶をドリフトによって揺らしあい、理解し合ったとき動き出すイェーガーこそが、いがみ合っていた人々をつなげ合わせ、地球の危機を救える唯一の武器である。その点についても、本作にそれより先の視点、物語を見ることは難しかった。

うれしい悲鳴

 振り返ってみれば文句ばかりになってしまったが、勘違いしないでいただきたい。本作の公開は大変喜ばしいことだ。もちろん東京においてのラストバトルのCGIは世界屈指のド迫力映像であり、IMAX環境での視聴体験は是が非でもお勧めしたい。またシドニーでのオブシディアン・フューリー ―― いわゆる「ニセモノヒーロー」の登場(デル・トロのアイデアである)は度肝を抜いた。特に次回作へのつなげ方という点では満点といっていいだろう。

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 しかし求めるものは尽きない。ああしてくれこうしてくれ、ここが気に入らないもっとこうしていれば、と口を出さざるを得ないのは「怪獣とロボットがとにかく見たい」「大スクリーンでとにかく見たい」「俺の求める○○やら××を!」という連中がそれこそ世界中に(自分を含め)いるからだ。

 この手の映画は来月公開のドウェイン・ジョンソン主演の「ランペイジ 巨獣大乱闘」、ワーナー・ブラザーズ、レジェンダリー・ピクチャーズ、東宝の連携する「モンスターバース」シリーズと、2019年以降も続々と控えている。すでに超大予算・巨大モンスター映画はハリウッドのジャンルの1つとして確立されたといっていいだろう。それぞれの作品に対し、不満は確かにある。だが、公開されるそれに不満を述べられる現状が喜ばしい。

 来たるべき続編に備え、機械たちの勇姿を見届けよう。

将来の終わり

(C)Legendary Pictures/Universal Pictures.



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