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「エンジンを使って女の子が楽できるなら」 50年前の“やりすぎな耕運機”が、今プラモデルでよみがえる理由(後編)(6/6 ページ)

「ホンダは二輪メーカーなんかじゃない! エンジンメーカーだ!」

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高久:このエンジン付き自転車なんかも、最初は自転車を他から買ってきてたんですよね?

中島:ちょっと違って、最初はエンジンだけ売ってたんですよ。自転車用の加工は自転車屋さんでやってます。もともとは軍の無線機用エンジンが敗戦によって捨ててあって、宗一郎さんが奥さんのために自転車の動力用エンジンを作ってあげたと。

 そしたらそれが近所に広まって「私にも作ってくれ」っていう人がたくさん出てきたから、それで無線機用エンジンを全部買い取って、最初の500ロットはそれを使ったんです。当時は悪路が多かったので、それをなんとか楽にしてあげようということだったようですけど。

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――今でいう電動アシスト自転車みたいな感じですか。

中島:そうですそうです。ほぼオートバイですけどね。当時のオートバイは高いし、量も出てないですから。当時はバイクというと陸王みたいな国産車はまだなくて、バイクに乗る人は海外から取り寄せて乗ってた。今でいえばベンツみたいなもんです。

――しかし、エンジンを単品で売っていたんですね。今ではちょっと考えにくいです……。

中島:もともとはホンダ=エンジンだったんです。で、その後にホンダのエンジンを積んだ二輪ができて、農機具もできた。まずはじめにエンジンありきです。

 ホンダってバイクを作るときもエンジン担当、足まわり担当、フレーム担当って分かれてるんですけど、一番意見が強いのはエンジン担当なんですよ。エンジンメーカーなんで。だからどんなにいいフレームができても、エンジンがダメだと「この車ダメだな」っていわれちゃう。エンジンを搭載する場所として二輪グループがあり、汎用グループがある。

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――最上位にエンジンがあって、そこから並列に枝分かれしてバイクや農機具があるっていう感じですね。

中島:そうです。私が最初に配属されたのは二輪部門なんですけど、「ホンダは二輪メーカー」って言っちゃったことがあって、そしたら先輩に叱られるんです。「ホンダは二輪メーカーなんかじゃない! ホンダはエンジンメーカーだ!」っていう。

――で、そのエンジンを使って世の中の役に立とうという話なんですね。

中島:そこには宗一郎さんの強いこだわりがあったみたいですね。宗一郎さんってすごく面白い人で、自分のこだわりに対して妥協を許さないという面と、世の中の人が困っていると見捨てておけないという面があるんです。

 耕運機でいえば、最初に作った当時は戦後復興の最中で、食料自給率の問題に着目していて。で、誰が実際に農家で米作ってんだと聞いたら、男手がみんな戦争で死んじゃっていないと。その自給率を上げるためには、3ちゃん農業で頑張っている人を応援するものをわれわれも提供しないとということで、耕運機を作ったらしいんですよ。

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耕運機を試運転する本田宗一郎。こちらは広告用のイメージ写真ではなく、「多分試作車ができて喜んでるとこでしょうね」と中島さん

――普通のエンジン屋さんだったら「食料自給率をなんとかしよう」とは考えないですよね……。

中島:当時、既にほかのメーカーからも耕運機は売ってたんです。でもそれらは、既に十分大きいF90の、さらに1.5倍くらい大きかったんです。だから小型の耕運機を出したのはホンダが最初です。高くて大きくて扱いにくいというのをなんとかしたかった。

 スーパーカブも全く同じ発想からできてるんですよね。宗一郎さんが町で岡持ちを持って自転車に乗ったそば屋さんを見て、フラフラしてて乗りにくそうだったからなんとかしたいと。「3ちゃん農業でも使える耕運機を作れ!」という指示と、「岡持ちを持ったそば屋が運転できるように作れ!」っていう指示は同じ発想なんですよ。

――エンジンのパワーで暮らしをよくしようということなんですね、全部。

中島:その通りです! そういう理念に関していえば、エンジンそのものを売っているのはすごく大事なんですよ。

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 ホンダの歴史を振り返ると、最初に売ったのはカブA型っていう自転車の補助エンジンでした。で、パワープロダクツ部門は現在エンジン自体を販売している部門です。だから、パワープロダクツはホンダの元祖だと勝手に考えています(笑)。

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