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「学校に来ると声が出せなくなる子」にどう寄り添うか 小学校に潜む病や障壁と向き合う『放課後カルテ』で作者が描こうとしたもの(2/3 ページ)

マンガのレビュー連載「虚構新聞・社主UKのウソだと思って読んでみろ!」第94回は6月に完結を迎えた『放課後カルテ』の日生マユ先生にインタビューしました。

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家ではしゃべるのに学校で声が出せない 「場面緘黙」への反響

―― 初めて「ねとらぼ」で紹介した当時は、まだ5巻だったんですが、その後の8、9巻では「場面緘黙症(ばめんかんもくしょう)」の真愛ちゃんを取り上げられましたよね。

家では話せるのに、学校では一切しゃべらなくなる小学1年生・真愛ちゃん

場面緘黙(ばめんかんもく):家庭ではごく普通に話すのに、幼稚園・保育園や学校などの社会的な状況で声を出したり話したりすることができない症状が続く状態。話せない場面はさまざまだが、発話パターンは一定している。場面とは「場所」「(そこにいる)人」「活動内容」の3つの要素で決まる。(参考:かんもくネット

―― あの「緘黙編」が本当に衝撃的で。実は僕が小学生の頃、今思えば場面緘黙だったんじゃないかっていう女の子がクラスにいたんですよ。国語の本読みで順番が回ってくると立つんだけど、ずっと黙ったままだから教室に変な沈黙ができてしまって。「変な子がいたな」という記憶だけが長年残っていたんですが、『カルテ』で知ったのをきっかけに、「彼女がもし場面緘黙だったとしたら、もっと気遣えたかもしれない」と思うようになりました。

 場面緘黙をとりあげたのは、1巻が出たときに見つけたネットの感想がきっかけでした。「場面緘黙を取り上げてくれないかな」っていうつぶやきがあって、「場面緘黙って何だろう」とメモしておいたんです。

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―― 連載初期の頃から扱いたいテーマだと「あとがき」でも書いておられましたね。実際に取材されてみていかがでしたか?

 「かんもくネット」さんが主催しているフォーラムがあって、そこで緘黙を克服された方が登壇してお話されているのを見に行きました。緘黙症の子どもを持つ保護者の方が交流を深めたりしているんです。

―― 不器用な牧野先生が、話せない真愛ちゃんと交換日記で交流しようとするのがほほえましかったですが、ああいう治療法が実際にあるんですか?

牧野が交換日記というハードルの低いところからコミュニケーションを図る

 あるらしいですね。他には「かくれんぼが良い」と本にあったので学校で牧野とかくれんぼするシーンを入れたりとか。でも、「もし誰もいないところで歌っていたのなら、歌いたいはずだ」っていう真愛ちゃんの気持ちは完全に想像で描いたのですが、Twitterで「これだよー!」って共感する声が書かれてて、「合ってた」って胸がすく思いでした。

反響のあった「歌いたいはずだ」

―― 想像で患者さんの気持ちまできっちり推し量れるとは、作品世界への没入度がすごいですね……。

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 緘黙症の方や保護者の方から「ちゃんと描いてくれている」という反響をすごくたくさんいただきました。思った以上に最初から期待してもらえて緊張感があったので、間違えないように、子どもだけじゃなくお母さんの目線とか、周りのあらゆる視点から描かなきゃなとすごく勉強しましたね。


ラストの合唱シーン

―― ラストの音楽会の合唱シーンでは、ずっと歌いたいのに声が出せなかった真愛ちゃんが、「エイヤー!」って身振りのみで表現したのが印象的でした。歌う1年生たちの姿に、低学年ならではのかわいらしさもありましたね。

 歌った「あおいそらに えをかこう」は、真愛ちゃんが歌いたくなるようなテンションの高い曲を選びました。歌詞も良いですし。しかもなんと、この歌を「かんもくネット」の方がフォーラムで歌ってくださったんですよ。

―― いい話だ……!

 「緘黙症をわかりやすいマンガにしてくれたことがうれしい」っていう感想はすごく見ました。緘黙のことを説明するために『カルテ』を学校の先生に読ませるっていう声も聞きましたね。緘黙のことを説明するために『カルテ』を学校の先生に読ませるっていう声も聞きましたね。マンガのようにすぐに回復の兆しが出るものではないですが、少しでも理解を深めるきっかけになれればうれしいです。

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―― 自分の反省からも、場面緘黙はもっと知られるべき話だと思うので、この場を借りて「『放課後カルテ』は全先生必読!」って書いておきます(笑)

ADHDの子は「チャンスを逃している」 個性を抑え込まないことの大切さ

―― 『カルテ』で場面緘黙とならんで印象的だったのはADHD(注意多動性障害)の楓太くんの話でした(11、12巻収録)。

人の気持ちを考えずに行動してしまう、小学4年生・泉楓太

ADHD(注意欠陥/多動性障害):脳の一部の機能不全が原因と言われる発達障害の一つ。「不注意(集中力が続かない)」「多動性(じっとしていられない)」「衝動性(結果を考えずに行動に出る)」3つの特徴的な症状が絡み合い、問題行動として現れる(参考:『放課後カルテ』11巻)

―― これも個人的な話で恐縮なんですが、普段子どもに勉強を教える仕事もやっていて、昔ADHDの子を受け持ったことがあったんです。それが、ちょうど楓太くんの話が載っていた時期と重なっていて、どうやって接していけばいいかとか、すごく参考になりました。

 まず私がやりたいなって思ったのは、1話目では楓太の心の声を入れないで、「嫌な子だな」「暴力的だな」「何やってるんだろう」みたいな、周りからの印象だけを描くこと。そして2話目で「バスケ!?」「オレもやりたい!」みたいな楓太本人の心の声を入れるんです。

暴力を振るってしまうまでの楓太の心情を描写した

 こうして種明かしすることで、周りには不可解だった楓太が実はどんな子で、何が好きで、こんなことを考えているからこうしていたんだっていう、ADHDという特性が読者に分かるようにしました。

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 そんな中、楓太は暴れちゃったから「みんなと遊ぶチャンス」を逃してしまう。ここにADHDを勉強したときのノートがあるんですけど、どういう薬を使うかとか、小児科の先生に取材したんです。それで、その先生は、「チャンスを逃している」ということを強調されていたんですね。

―― チャンスを逃している……。

 良いものを持っているのだけどチャンスを逃している。例えば、サッカーがすごく好きで上手なのに、ルールが守れないから失格になってしまうことで、サッカーの才能というチャンスを逃す、とか。

 本人には自覚がなくて、注意されてようやく気付き、とっても恥ずかしい思いをするとか。この「とっても恥ずかしい」の部分が私はすごく良いなと思って、二重線を引いているんですけど。

 例えばそういう子が高学年になって暴力を奮ってしまう。暴力は孤立を招くから絶対に抑えることが必要です。でもあらゆる場面で我慢だけを教えていると、チャンスをつかんだりみんなと仲良くする以前に、そもそもその子が持っていた良いものを失ってしまう。それもあまりよくないなって

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―― 担任の先生も楓太くんに我慢の仕方を教えるんですが、暗い表情で「…うん」って答えますね。

楓太の表情から明るさが消えたのを察知する担任の先生

 絶対にここで笑顔で「うん」とは言わないだろうって。先生も「泉くんの表情 いつのまにか暗くなった気がする」と考え込む。

 本にも「状況に応じた言葉の使い方を学ぶ」とか「我慢するためのキーワード」とかいろんな方法が書かれています。もちろん生きるために必要なことだけど、『カルテ』で描くのはそこじゃないなって。「我慢することがその子にとって本当に人生で大事なテーマなのか」というと絶対違う

 その子がどんな才能を持って生まれてきて、何に出会ったら良いのかもその子次第。ケンカだってその子にとってプラスだったら、そこから学んでいきます。その子の良さを抑えるんじゃなく、自分らしく生きることの方が大事だと思ったんです。

―― 個性を抑え込まないで、尊重する。

 最後の3話目では、納得してない花本さんっていう女の子が楓太とガチンコでケンカするんですけど、やっぱり周りの子の不満も描かないといけないと思いました。発達障害に限らず、クラスで先生から目をかけられてる子って目立つ子ばかりじゃないですか。だからそれに対して「嫌だな」って思ってる子も絶対いるんです。そういう人間関係と、それぞれの子の個性も大切だと思って描きました。

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