スルガ行員からの「融資の見返り要求」LINE入手 第二の“かぼちゃの馬車”「ガヤルド事件」の裏側を元従業員と販売会社が激白:スルガ銀行不正融資事件シリーズ(後編)(2/2 ページ)
後編では、スルガ銀行、ガヤルド元従業員、販売会社を取材しました。
――川崎支店で「ペット支払済資金」なる名目で1000万円を借り入れた顧客がいますが、「ペット支払い済み資金」とはどういった名目なのでしょうか。また実際にはアパートを建設するための費用なのに、違う名目を書いて融資を受けることは問題ではないのでしょうか。
スルガ銀行:個別事案についての回答は控えさせていただいております。
――顧客によると氏名以外は全て記入された状態で行員にサインを促されたと言いますが、こうした書類は銀行側で名目の書き込みを行っていたのでしょうか。
スルガ銀行:当社ではお客さまのご負担軽減のため、ご署名・ご捺印箇所以外の箇所をあらかじめ印字させていただいたご契約書を使用することがございます。
――未完成の物件に対して全額融資しているケースが存在しますが、なぜこのようなことになったのでしょうか。またこの貸付けにスルガ銀行側の過失はないのでしょうか。
スルガ銀行:個別の事案についての回答は控えさせていただいております。
――行員が顧客への営業で地方へ行く際、行員の交通費(経費)はスルガ銀行が出しますか。それとも販売会社が出しますか。
スルガ銀行:当社社員が営業で地方に行く際に交通費等の経費を請求することはございません。なお、お客さまのご希望によりご融資契約を地方で行うときは、社内手続に基づき、お客さまにご請求させていただくことがあります(※)。
(※)編集部補足:顧客側から要望があった場合には案件によって、販売会社ではなく顧客に交通費を請求するということ。なお、その際は行員の個人口座ではなくスルガ銀行の法人口座への支払いになるのが一般的な様子。
――行員から「スルガ銀行のクレジットカードに加入すればローンを通す」という主旨の話をされた販売会社(客)もいるようですが、そのような対価を与える営業方法には問題はないのでしょうか。
スルガ銀行:そのような事実は確認されておりませんが、現在、シェアハウスをはじめとした投資用不動産融資事案について、第三者委員会による調査が行なわれており、情報を提供させていただきます。
――ガヤルドの物件でローンを組んだ被害者はほとんど全員が建物が未完成の状況です。これについて救済措置を講じるなどの予定はありますか。
スルガ銀行:当社は6月26日にシェアハウス案件等に係るお客さまについて、お客さま本位の抜本的な対応策を講じるため、東京本部(中央区日本橋)に「シェアハウス等顧客対応室」を創設しました。当社では、お客さまおひとりおひとりについて、その置かれた個々の状況に応じてきめ細かく対応を行っております。詳しくは、当社公式サイトをご覧ください。
ガヤルド元従業員「ガヤルドが破綻したのはスルガ銀行の締め付けのせい」
一連の取材の中、編集部は独自のルートでガヤルドの元従業員に接触。取材を申し込んだところ、匿名を条件に当時の様子を赤裸々に語ってくれました。
元従業員が床西社長と知り合ったのは10年ほど前。本件に関しては、床西社長から声を掛けられて、2016年1月から8月まで携わっていたと言います。
――ガヤルドではどのような業務を行っていましたか。
ガヤルド元従業員:営業なども含めていろいろやっていました。最初は内部に入れてもらえるのかと思ったのですが、結局ずっと外注の様な感じでしたね。といっても従業員はガヤルドの名刺を持ってはいるものの、各自が個人事業主のような感じでつながりは希薄でした。大体は床西社長が土地を探してきて、設計士に「面積いっぱいいっぱいで図面を書いてくれ」と建物のデザインを頼み、スルガ銀行にアドバイスをもらってパッケージを作っていました。
――ガヤルドはかぼちゃの馬車と違って、シェアハウスではなくミニアパートの物件を多数手掛けていますね。
ガヤルド元従業員:ガヤルドはもともとスマートデイズのマネをして始めた会社なので、当初はシェアハウスの物件をやっていました。しかしスルガ銀行川崎支店から「シェアハウスは賃貸もつかないしまずい(融資できない)」という話があり、ミニアパートのパッケージをメインにすることとなりました。ですから当時、既に契約が決まっていたシェアハウスの顧客にも「工事の費用負担はガヤルドでする」と了承を得た上で、シェアハウスからミニアパートに設計をし直しました。
――資金がショートしてしまったのはなぜでしょうか。
ガヤルド元従業員:2016年の12月ぐらいから、「物件に対する融資額の金額がスルガ銀行から出ない」という話が降りてくるようになりました。当時ガヤルドでは木造アパートをメインにやっていましたが、スルガ銀行から急に「(木造では)融資が厳しい」と言われたので、それまで仕入れていた“木造アパートが建つ見立てで購入した土地”が役に立たなくなってしまったんです。ガヤルドとしては、この用地なら木造で何部屋建てて、賃料がこれぐらい入ってという予測のもとに土地を用意して販売する予定だったのに、急に「木造はもうやらない」という“融資の締め”が発生したことから土地が不良債権となってしまい、計画が狂っていったように思います。
――着手3割、完成7割の予定だった融資金が、3割、3割、4割の分割になったのも、融資渋りのあおりですか。
ガヤルド元従業員:そうですね。当初の計画では3割の融資金で建物全てを完成させる計画だったのですが、床西社長が見込んでいたような融資がスルガ銀行から出なくなり、建築途中の物件も増えてきたことで着手金の3割だけでは回らなくなっていました。それで下請け会社への支払いも悪くなってきたので、結局建物が完成しないというケースが増えていき、床西社長がスルガ銀行に相談して、3割、3割、4割に組み替えるケースが破綻直前にいくつかありました。
――スルガ銀行特有のローンの組ませ方というのはありましたか。
ガヤルド元従業員:スルガ銀行は、定期預金をしないと融資しない、いわゆる「歩積両建預金」制度(※)を取っていて、「このお客さんだったら200万円積んでください」と具体的に指示してきていました。その定期預金をするための用立てはガヤルドで負担していましたし、加えて土地価格の値引きも厳しかったです。
(※)歩積両建預金……拘束預金とも呼ばれる。融資代金の一部を強制的に預金させるということで、金融機関の取引上の優越した地位の濫用行為にあたるとして、独占禁止法で禁じられている行為。
――土地価格の値引きとは。
ガヤルド元従業員:スルガ銀行は基本的に全体の9割しか融資してくれないので、残る1割はガヤルドが「土地価格から割引」という形で負担していました。
――破綻後はどのような対応を行っていたのでしょうか。
ガヤルド元従業員:スルガ銀行との折衝も行いましたが、顧客とスルガ銀行の融資契約に関しては私たちは第三者扱いなので、あまり介入できませんでした。要望のある顧客に関しては、新しくサブリースしてもらえる会社を探したり、賃貸を請け負ってくれる業者を探したりしました。
――通帳の預金口座書き換えについては販売会社ではなく、ガヤルドで行っていましたか。
ガヤルド元従業員:案件によってまちまちです。私はやり方を知らないのですが、もともとスマートデイズのマネごとから始まった会社ですから、口座書き換えの不正についてもマネをしていたのだと思います。
――ガヤルドから行員に対してキックバックを行っていたということはありますか。
ガヤルド元従業員:それはないですね。食事に行っても「自分の分は払います」とかそういう感じでした。新幹線で移動をしたときに駅弁を渡したらようやく受け取るというぐらいで、そういうお金を受け取る人たちではなかったです。
計画倒産を念頭に置いた詐欺だったのか?
――一部からは「最初から飛ぶ気だったんだ」という話も出ているようですが、その点に関してはどうでしょう。
ガヤルド元従業員:最後はほぼ利益が出ないような状況だったと思いますが、最初から飛ぶ気だったというのはないかと思います。ガヤルドを始めてすぐは、スルガ銀行からの融資も順調でしたし、千葉など東京以外の物件も扱っていました。しかし、スルガ銀行川崎支店から「23区内以外は今月から融資できない」「木造だと厳しい」という話が出始め、土地の確保が大変になっていきました。
――建築会社からは「ガヤルドから代金が全く振り込まれていない」という話も出ているようなのですが。
ガヤルド元従業員:資金に関しては完全に床西社長が管理していたので、実際に支払われていないのかどうか分かりません。ただ1円も振り込まれていないというのはないのではないかと思います。
――もともと計画倒産だった可能性や、床西社長がお金を持って逃げてしまった可能性はありますか。
ガヤルド元従業員:自分は最後まで残らなかったので真偽のほどは分からないです。ただ、もともと全く利益が出ないというパッケージではありませんでしたし、中には完成までいっている物件もあります。当初は登記費用から建物が建つまでの金利負担も全てガヤルドで負担するという計画でしたから、お客さんからすると1円も負担せずに建物が建つという良いプランだったと思います。しかし途中からシェアハウス問題のあおりを受けて、スルガ銀行の融資しぶりが始まったうえ、床西社長の見通しの甘い工事計画も破綻の原因になったと思います。
――見通しの甘さとは。
ガヤルド元従業員:例えば、水道を引くとなると引き込み料など結構なお金がかかるんですが、それを計算に入れていないものがありました。建物によってはメーター1個でOKという物件もあれば、各戸にメーターを付けるようにと水道局から指導されるケースもあるので、そうなるとメーターが1個10万円の場合、10室で100万円です。もともと工事代金で稼ごうというパッケージではないので、ガヤルドに負担がしわ寄せされる格好となりました。
――従業員に対しての未払いなどはありましたか。
ガヤルド元従業員:少なくとも私は全くもらっていません。床西社長とも連絡が取れませんし、「支払えない」と言われれば仕方がないと諦めています……。
前編で取材に協力してくれた3人の被害者を含む被害者団の代理人、池田大介弁護士(東雲総合法律事務所)は、ガヤルド事件について「巨額の詐欺事件」だと指摘。
「スマートデイズのかぼちゃの馬車事件は被害者の数が多いために目立っているが、被害の手口や被害額はガヤルド事件も同じ。スルガ銀行とガヤルドの責任を追求しながら真相究明に努めたい」と、足立格弁護士と共に被害者からの相談(※)を受け付けながら、訴訟を拡大する予定とのことです。
(※)ガヤルド事件の被害相談……村田・若槻法律事務所 足立格弁護士が受付。電話番号は03-3263-0480。
またこれらの訴訟に関しては、スマートデイズの役員らに対する損害賠償請求を行っている加藤博太郎弁護士(わたなべ法律会計事務所)も協力しているとのことで、被害者弁護団同士の連携が重要な鍵となりそうです。
画像の一部はプライバシー保護のため編集部で加工しています。
(Kikka)
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