ゲームの主人公は本当に「絶対的な正義」なのか? 「MOTHER2/3」のポーキーが問う”善悪の彼岸”(3/3 ページ)
最高に意地悪で、最高に優しいRPG。
ポーキーにつきまとう「寂しい」という感情
最後の戦いの手前、ポーキーを模したロボットはこう言う。
◆なかよく しようよ。
◆ぼくが ポーキーです。
◆ほんとうは こんなに すなおな ただの ちいさな しょうねんです。
◆もっと ぼくを かわいがってください。
そして、ついにポーキーのもとまでたどり着いたリュカ(MOTHER3の主人公)に対し、ポーキーは「さみしい」と言う。「これから世界は滅ぶけれど、さみしい」、と。
◆あははは。
ちょっと さみしいけどね。
◆そんなことでもないと ぼくは じぶんの たいくつに
おしつぶされそうなんだよ。
◆いくらこうげきされても ぼくは しなないんだよ。
◆たおれることまでは あっても ぼくは しなない。
◆しらなかったろう?
◆ぼくは なんどもなんども じかんと くうかんを ひっこししてきたから ふつうのにんげんのように ふつうに としをとることができなかった。
◆もしかしたら 1000さい かもしれないし 10000さい なのかもしれない。
◆あたまのなかは こどものときの ままなのにね!
◆ぼくの あそびに こんなに さいごまで つきあってくれて ありがとう。
◆あんがい ぼくって いいやつだろう?
あは あは。
ポーキーは、圧倒的に孤独な人だった。大好きな友達(ネス)に対して素直になれず、両親にも遊んでもらえない、寂しさを抱えた子どもだったのだと思う。時間と空間を移動し、普通に子どもらしく遊ぶことができず、寂しくて、遊びたくて、MOTHER3の世界をめちゃくちゃにした。
「寂しい、寂しい」というメッセージを繰り返した直後、ポーキーは半ばだまされるようにして「ぜったいあんぜんカプセル」というマシンの中に閉じ込められることになる。カプセルの中にいる人があらゆる危険から身を守ることができるだけでなく、カプセルの外にいる人にとっても、中に入った人から今後一切危害を加えられることがなくなる「絶対安全」なカプセル。一度入ると、もう出ることができなくなってしまうのだ。それがポーキーの最後だった。
ポーキーは今でもずっと、カプセルの中で一人だ。寂しい、としきりに言うポーキーにとって、考え得る限り最も”むごい”仕打ちだったはずである。
表裏一体の「善」と「悪」
MOTHER2でもMOTHER3でも、主人公たちからすると、ポーキーはただただ「悪」でしかない。ところがこのゲームは、「悪」の部分だけではない、というのを確信犯的に見せてきて、プレイヤーの気持ちをかき乱す仕掛けにあふれているのだ。
この「視点を変えて見てみると、まったく違って見える」というのはMOTHER2やMOTHER3に通底するテーマなのではないかと思う。MOTHER3でポーキーの部下として悪事を働くヨクバもその一人である。
「ヌヘヘヘヘ」と笑いながら散々主人公たちの邪魔をしてくるヨクバ。倒しては復活し、何度も戦い、ようやく再起不能にした少し後に、ある部屋にたどり着く。そこはどうやら「ロクリア」という人の部屋らしいが、部屋の中にはバナナやラッパといった、ヨクバが愛用していたアイテムが転がっている。
部屋の中にいるのは小さなネズミが一匹だけ。話しかけるとこんなことを言う。
ロクリアさまは もう かえってこないみたい。
ぼく?
ロクリアさまに かわいがられてた ネズミだよ。
ヌヘヘヘヘとか きもちのわるい わらいかたを するから
みんなには かんじのわるい ひとだったかも しれないけど
ぼくには とても やさしいひと だったんだ。
もう かえってこないのかなぁ。
さびしいよ
ヨクバを倒し、帰らぬ人にしたのは、ほかの誰でもないプレイヤー自身だ。プレイヤーにとっては「悪」だったヨクバ。目の前の小さなかわいいネズミにとって、ヨクバは間違いなく「善」だったことがわかる。
RPGにおいて、主人公というのは圧倒的な正義である。どんなにスライムがかわいい見た目をしていようと、モンスターはモンスターであり、倒すと街の人たちに喜ばれる。「ぼく、悪いスライムじゃないよ」と言ってくるスライム以外は、みんな悪いスライムなのだ。魔王も、その手下も、シンプルに「悪」でしかない。
MOTHER2と3は、その絶対的な法則をぶち壊しにいった、最高に意地悪で、最高に優しいRPGなのではないだろうか。そのテーマの中心にいるのは、ほかの誰でもないポーキーだ。だからMOTHER2と3は、ポーキーの物語だと思うのである。
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