ニュース

勤続半世紀、国立科学博物館の“必殺仕事人”が描いた「世界の鯨」ポスターに秘められた物語(1/3 ページ)

日本で初めて発見されたイリオモテヤマネコの飼育をしていたという驚きのエピソードも。

advertisement
※本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ています

 国立科学博物館(東京・上野 以下、科博)のお土産コーナーで販売している「世界の鯨」ポスター。広げると体が隠れてしまいそうなほど大きなポスターには、地球上で発見された主なクジラ83種(※)が描かれている。

※83種は現在知られているクジラのほとんどを網羅している。

国立科学博物館が監修・販売している「世界の鯨」ポスター

 写真と見紛うほどリアルなクジラの絵は、科博が監修・発行しているだけあって生態に忠実でいて迫力満点。体の模様一つ一つまで色鮮やかに再現されている。1990年の初版から2014年の第4版まで幾度と描き直し、描き加えられてきたクジラの絵。これら全てを描いたのは、外注の絵師でもなければ、専門の職人でもないという。

 なんと、描き上げたのは、科博に半世紀以上勤め、現在は委託で哺乳類の骨の整理や鳥の標本づくりを手伝う女性スタッフだというのだ。その女性スタッフこと渡辺芳美さんはなぜ、クジラを描くことになったのか。ポスター製作に至る理由や完成までの苦労、日本で初めて発見されたイリオモテヤマネコを飼育していたという貴重な話まで、「世界の鯨」ポスターに秘められた物語を渡辺さんに聞いてきた。

advertisement
クジラの絵を描いた渡辺芳美さん(左)と製作を監修してきた山田格先生(右)

科博のスペシャリスト

 渡辺さんが科博で働き始めたのは1967年頃。はじめは動物学者の今泉吉典先生(※)の元でネズミなどの小型哺乳類の飼育や採取、標本作りをしていた。研究所が上野にあった時代から科博で働き、現在も委託という形で哺乳類や鳥類、昆虫類の標本づくりや飼育、骨の整理などに従事している。

※今泉吉典(1914年~2007年)。日本の動物学者で国立科学博物館に約30年従事した。イリオモテヤマネコの発見時は学会発表を行ったことで世界的に知られる。

 「今泉ファミリーにいた頃は、イリオモテヤマネコ(※)の飼育もしていました。全然なつかないので、餌を与えるのが大変でしたよ。他にはケナガネズミやコウモリの飼育をしていました。動物は好きでした」(渡辺さん)

※1965年に沖縄県の西表島で発見されたベンガルヤマネコの亜種。同島のみに生息する国の特別天然記念物。現地では「ヤママヤー」「ヤマピカリャー」などと呼ばれていた。

 世界に初めて発表された当時のイリオモテヤマネコを飼育していた経歴を持つ渡辺さん。取材に同席していた田島先生(動物研究部 研究主幹)や、山田格先生(国立科学博物館 名誉研究員)が「海産無脊椎動物以外のスペシャリスト」とたたえる人物だが、当の本人は「いえいえそんな……」と恥ずかしがる。ちなみに渡辺さんは既に科博を定年退職をしているが、「卓越した技術を持っているから残ってほしい」という現場の要望を受け、現在は“委託”という形で週に数日働いている。

 オールマイティーな渡辺さんは、学生時代に日本画を習っていたこともあり、科博の出版物の挿絵や研究資料で使う生物画を通常業務の合間によく描いていた。無償で引き受けて絵を描いていた渡辺さんを他の先生たちが見かねて、週1日は業務時間内に書けるようにしたというエピソードに、渡辺さんの人柄が伺える。そんな中、ポスターを描くきっかけは思いがけず訪れる。小冊子『鯨の世界』の付録ポスター「日本近海でみられる鯨類」でクジラの絵32種を描いたときだった。

 「確か、これを描いたときに先生が『世界のクジラが描かれているポスターがないから作ってみてもいいね』とおっしゃって、なんとなく流れで描くことになったんです。きっかけというきっかけはなかったし、正直あんまり覚えていないんですけどね(笑)」(渡辺さん)

advertisement
渡辺さんが描いた「日本近海でみられる鯨類」32種
『鯨の世界』 これをきっかけに「世界の鯨」ポスターを作ることに

 専業ではない生物の描画を内職のような形で何年も続けてきた渡辺さん。なんとなく始まったポスター製作だが、「残るものを作れることになってうれしい」と感じたそうだ。その後、1990年の初版から2014年の第4版に渡り、世界中のクジラを描き続けることになった渡辺さんだが、完成までには相当の苦労や思いがあったという。

       | 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

記事ランキング

  1. 猫だと思って保護→2年後…… すっかり“別の生き物”に成長した元ボス猫に「フォルムが本当に可愛い」「抱きしめたい」
  2. 「やはり……」 MVP受賞の大谷翔平、会見中の“仕草”に心配の声も 「真美子さんの視線」「動かしてない」
  3. 「大企業の本気を見た」 明治のアイスにSNSで“改善点”指摘→8カ月後まさかの展開に “神対応”の理由を聞いた
  4. スーパーで売っていた半額のひん死カニを水槽に入れて半年後…… 愛情を感じる結末に「不覚にも泣いてしまいました」
  5. 大きくなったらかっこいいシェパードになると思っていたら…… 予想を上回るビフォーアフターに大反響!→さらに1年半後の今は? 飼い主に聞いた
  6. 「明らかに……」 大谷翔平の妻・真美子さんの“手腕”を米メディアが称賛 「大谷は野球に専念すべき」
  7. 松田翔太、憧れ続けた“希少な英国製スポーツカー”をついに入手「14歳の僕に見せてあげたい」 過去にはフェラーリやマクラーレンも
  8. 「何言ったんだ」 大谷翔平が妻から受けた“まさかの仕打ち”に「世界中で真美子さんだけ」「可愛すぎて草」
  9. 「行きたすぎる」 入場無料の博物館、“宝石展を超えた宝石展”だと40万表示の反響 「寝れなくなっちゃった」【英】
  10. 自動応答だと思って公式LINEに長文を送ったら…… 恥ずかしすぎる内容と公式からの手動返信に爆笑 その後について聞いてみた