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世にも奇妙な告白「先輩のこと好きにならないよ」の意味 アニメ「やがて君になる」6話(1/2 ページ)

「好きにならない」と言われて喜ぶのはなぜでしょう。

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(C)2018 仲谷 鳰/KADOKAWA/やがて君になる製作委員会

 人を好きになるって、なんだかとっても難しい。「やがて君になる」(原作アニメは、思春期に体験する「止められない恋」と「恋がわからない」気持ちを繊細に描いた作品。しっかり者なのに好きな人に甘えてしまう先輩と、人を好きになれない後輩の、ちょっぴり厄介なガールズラブストーリー。

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今までのあらすじ

 高校一年生の小糸侑(ゆう)と、二年生の七海燈子。クールで優等生な燈子は、侑のことをすっかり大好きになり、デレデレに。

 完璧に見えて実は弱い部分がある燈子。侑はそれを知ってから、特別好きなわけではないものの、燈子を支えようと動き始める。一方燈子の「好き」は暴走しっぱなし。キスを求めたこともある。侑の家に勉強に来た時は有頂天でフワフワしていた。

 侑は恋をして変わっていく燈子を見て、ちょっと複雑になる。燈子は人を好きになってどんどん変わっていった。自分は人を好きになる感覚がわからず、変わっていくことができない。心がざわつく。

あなたのことが心配です

 この作品のもう一人の核になる人物、佐伯沙弥香。一年生の時から燈子といつも一緒にいて、成績も2人でトップ2を飾り続けている才女。そして優等生・燈子の理解者です。

 人前では困った顔を絶対見せない燈子。そんな彼女に唯一寄り添う相手が、沙弥香でした。燈子は彼女に強い信頼を寄せており、コミック1巻で信頼関係について話が出た時「私たちの間に今更そんなの必要?」なんて言っちゃうほど。ずるいよ燈子さんそのセリフは!

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 さて、生徒会演劇をやるやらないでもめている現在。沙弥香と侑の2人の考え方の違いが、もろに出始めます。

仲悪いわけじゃないよ、た、たぶん……(2巻P144)

 侑がとっさに、燈子の弱いところを知っていることや、自分が心配していることを隠そうとした時、沙弥香は切り返します。

 沙弥香「燈子ならいつも通り完璧にこなしてくれるでしょう なんて 私が無邪気に信じてるとでも思った?」

 ぎょっとするシーン。言葉はちょっときついですが、このシーンは別に沙弥香が侑に、嫉妬とかで当たっているわけではない。そりゃずーーーっと横にいて、沙弥香が燈子の不安に気付かないわけがない。燈子に対して、自分と侑の考え方が違うことを明らかにした場面です。

 沙弥香「陰では必死にプレッシャーに耐えてるんでしょう だけどそれは燈子が望んだこと」「なのにあなたはそれを否定して あの子の邪魔をする気なの?」

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漫画だと2人の思考のベクトルが真逆なのを感じさせるコマ割りになっています(2巻P146)

 沙弥香は、心配しても仕方ない、という結論に至っているようで、選択は燈子に任せる、という構え方でいます。劇をやるというのなら、それを成功させるためのサポートをする。弱い燈子を知った上で、常に傍で支えて彼女の望むようにしよう、踏み込まずにいようというのが沙弥香のスタイルです。

 侑はとにかく心配でならない、無理をさせたくない、弱い部分は受け止めると心に決めて、どんどん正直に口に出して言うスタイル。

 二人とも燈子を思いやっているけれども、行動は大きく異なります。どちらが燈子のためになるんだろう?

好きという暴力

 この作品の肝でもある、燈子の過去と「好き」の言葉の意味が、今回明らかになりました。

 彼女のお姉さんは超優等生。なんでもできる子でした。だから彼女が亡くなった後、周りは妹の燈子に言います。「お姉さんの分もしっかり」「お姉ちゃんみたいに」

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親切なんですよみんな(2巻P168)

 みんな優しいんだよ。だから、お姉さんの分まで強く生きてね、という声を周りが掛けてくる。これが彼女の呪いになってしまった。

 お姉ちゃんのように優等生になった。そうしたら、まわりがみんな「好き」って言ってくれた。ということは、みんなが好きなのは「お姉ちゃんを演じている優等生」の自分だ。だったら「好き」といわれる限り、そのままの優等生でいなければいけない。

 周囲の「好き」が「優等生燈子の状態でいてほしい」「そうじゃなくなったら好きではなくなる」という束縛感へと変わってしまった。

 もっとも実際はそんなことはないと思うけども、これは本人の心の傷の問題なので、そう簡単には変えられない。

 だから「人を好きになったことがない」侑を目の前にした時に、周囲の「好き」に拘束されていた状態から解放されます。好きにならないということは、どんな自分でも距離を変えないでそばにいてくれる、ということだと、彼女は感じていたようです。

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この恋は必然だったんだなあ(2巻P171)

 1話で侑を好きになるのが唐突すぎた燈子。実は侑が、抑圧されてきた人生に飛び込んできた救いだったことがここで判明します。自分を好きにならないから、「世界で一番優しく見えた」。心を許すことができた相手に、そばにいてほしいと願うのは、実は寂しがり屋だった彼女にとって必然でした。

 この状態、健康的ではない。何より侑の気持ちを燈子は一切受け止めていないし、侑がそれをよしとしたところで、燈子の「好き」への呪縛は全く解かれていません。

「好きにならないよ」という告白

やっかいなことだよ、燈子さん(2巻P161)

 なんとなく燈子の心中を察知した侑。ここですぐ動いて直接言葉で伝えにいく直球っぷりが、彼女の強いところであり、弱点。沙弥香はこういうことをしません。

 侑「ほんとは寂しいくせに」「弱い自分も完璧な自分も肯定されたくないくせに 誰かと一緒にいたいんだ」「わたしはどっちの先輩のことも好きにならない」

 好かれたいわけじゃないし、肯定して傷つけられるのもいやだ、でも寂しいから誰かといたい。燈子のねじれた“ヤマアラシのジレンマ”を解決してくれるのは、今は侑のような「好きにならない」「けどそばにはいる」という距離感の人間だけ。

漫画界でも類まれなる奇妙な告白シーン(2巻P162)

 侑「先輩のこと好きにならないよ」

 普通だったらがっかりする発言なのに、これで心を一気に開いて甘えるかのような顔になる燈子。

 「そばにいてくれる?」「劇 侑も手伝って」「ほかの人を好きにならないで」「私のこと嫌いにならないで」「手つないで帰っていい?」

 全部「はい」で答える侑。燈子があらゆるものから、救われたかのようなシーンです。

 一見すると素敵な告白シーンに見えますが、実際は猛毒。「好きにならない」と言ってはいるものの、それは侑が燈子に離れられるのがいやで足掻いて言った言葉。侑は「人を好きになる気持ちがわからない」ようだけれども、彼女が変わらないかどうかなんて誰もわからない。そんな無私の思いでずっとそばにいる状況を、侑は保ち続けていいの? 応急処置が、かえって傷をえぐりそう。

 いびつな二人の関係は、治療に向かうかのように見えて、さらにいびつさを増し始めました。今は自分の「好き」に酔いしれて、やたらうれしそうな燈子。侑と沙弥香の2つの視点は、厄介な部分を含め、彼女と自分たちとの関係を見つめ直し始めます。

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