コラム

「色覚検査の攻略本」「本当は効かない色弱治療」はなぜ存在したのか 進学・就職制限を受けてきた「色弱」の歴史とこれから(2/3 ページ)

カラーバリアフリーの取り組みを行う団体・CUDOに話を伺いました。

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 例えば、白色と黒色とは対照的な色で、色の距離的に言うと「遠い色」ということになります。反対に、赤色とオレンジ色は似ているので「近い色」といえます。

 では、赤色と黒色はどうでしょうか。一般的には遠い色とされていますが、色の感じ方には個人差があります。つまり、色の距離は誰にとっても同じというわけではありません。例えば、「赤色が見えない」という人の場合、「黒色・赤色」の距離が「黒色・こげ茶色」くらいになっていて、近い色に見えたりするんですね

―― 「見えない」というよりは、「他の色と似て見える」という感じでしょうか

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 そうですね。ただし、識別しにくい色やその識別しにくさは人によって違うので、先の「赤色・黒色」はあくまでも一例です。CUDOでは、色弱を「P型(強/弱)」「D型(強/弱)」「T型」「A型」と分類しているのですが、タイプが異なる人同士では色の見え方がかなり違いますよ。

“色覚検査攻略マニュアル”が存在した理由

―― 色弱という視覚の特性は、これまでどのように捉えられてきたのでしょうか

 「色の見え方が他の人と違う」という事例が論文化されたのは、今から約200年前。18世紀末に、英国のジョン・ダルトンという色弱の科学者が、自身の体験談などを発表しています。

 そして、約150年前、ある鉄道事故がきっかけの1つになり、色弱が社会的な問題として扱われる流れが生まれました。

 かつてヨーロッパには「白色・赤色」を使った鉄道の信号機がありました。照明自体は白色で、そこに、赤いガラスを入れたり外したりして切り替える仕組みです。ですが、この手法だとガラスが割れたとき、白色しか出せなくなるんですね。

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 これは危険だということで、「赤色・緑色(ガラスが割れると白色が出る)」の組み合わせが使われるようになりました。その信号機を使った線路で鉄道事故が発生したとき、「運転手が色弱だと信号機の色が見分けられない。運転させてはいけない」という風潮になり、検査の結果、色弱と判断された運転手たちが解雇されたそうです。

―― 「色弱でも見やすいように、信号の色を変える」という方向には向かわなかったのでしょうか

 「『色弱者には見にくい色の組み合わせなのではないか』という指摘はあったが、受け止められなかった」とか「技術的な問題から、色変更が難しかった」とか諸説聞いたことがありますが、確かなことは分かりません。とにもかくにも信号機ではなく、運転手という集団に手を加える形で事故防止を図ったわけです。

 近年の資料を見ても、色弱が「先天性の病気」とされていることがあります。例えば、1998年ごろまで日本には“色弱の治療”を行うグループがあったんですよ。

―― どんな“治療”を行うのでしょうか

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 頭に電極をつないだ状態で、「石原色覚検査表(略称:石原表)」を数時間かけて見せたりするんですね。すると、色弱では分からないように描かれている数字が見えるようになる……とうたっていました。

 このグループを担ぎ上げて本を出す新聞社、製品を作るメーカーなんかもあって。子どもの色弱を治そうと、高額な費用を支払う親御さんも多かったようです。

「色を見分ける力を訓練して向上させる」「専門医師の指導のもとに安心して訓練できます」とうたう機械の広告

―― 頭に電極をつないでも、網膜の視細胞には影響しなさそうですが……

 ええ、まがい治療だったと結論が出ています。でも、不思議なことに「これで治った」という人もいるんですよ。

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