「色覚検査の攻略本」「本当は効かない色弱治療」はなぜ存在したのか 進学・就職制限を受けてきた「色弱」の歴史とこれから(3/3 ページ)
カラーバリアフリーの取り組みを行う団体・CUDOに話を伺いました。
―― 効かないはずのものが効いた、と
これには、ちゃんと理由があります。
石原表は大正5(1916)年に開発されたのですが、その翌年には、答えを丸暗記するための資料が闇で出回っています。いくつか収集しているのですが、図の模様の一部と答えるべき数字の組み合わせを覚えるコツが書かれていたり。つまり、数字が見えなくても、“正常”と判断される解答ができるようになっているんです。
まあ、色弱の場合でも目を凝らすと正しい数字が見えてしまうことがあるのですが、仮に全ての検査表を暗記するとして、全部で38パターン。覚えきれない数ではありません。色弱者に対する入学、就職制限が強かった時代には、そうやって検査を突破する人がいたのです。
先の“治療”の話に戻りましょう。頭の電極はさておいて、たっぷり時間をかけて石原表を見ることになりますから、それで暗記できたようです。
―― 「色覚は変わらないけど、色覚検査の結果は良くなる」というわけですか
色覚検査にはいくつも種類があるのですが、ほとんどの場合は「まず石原表で調べる → 異常と判断された場合は、別の検査を行う」という流れで行われます。また、問題なしとされた人物が繰り返し検査されることは、あまりありません。
要は「石原表を一度クリアしてしまえば、差別的に扱われない。そうすれば、やりたい仕事や勉強ができる」という社会の仕組みがあったので、本当は効かない“治療”にも需要があったんです。
だから、「あの“治療”で色弱が治った」という人に「本当に治ったのか確かめさせてください」というと断られますね。もう色弱ではないということにして、自分の人生を構築してしまうのでしょう。
人間がデザインに合わせるべきか、デザインを人間に合わせるべきか
―― 現在でも色弱だと就けない職業などはあるのでしょうか
進学、就職制限は減っていますが、以下のような仕事では制限を受けることがあります。
- 航空機のパイロット
- 鉄道の運転手
- 自衛官
- 警察官
- 消防士
※職種、組織などによって制限を受けない場合も
それぞれに「一般的な色覚がなければならない」とする理由があるわけですが、私は「どこまで本当なのか」と疑問視しているところがあります。
警察官の場合、「色弱だと、犯人の服装の色が覚えられない」といわれることがあります。でも、色の見え方は、光の当たり方のような外的要因によっても変わるものです。以前、「人によって違う色に見えるドレス」なんてのが話題になりましたよね。
色彩研究をされている先生に尋ねたことがあるのですが、一般色覚者でも服の色を正確に覚えるのは難しい、ということでした。「目に見える」という言葉は「確実な事柄」の代名詞のように使われることがありますが、目は案外いい加減なものだと思います。
航空機のパイロットなどでは「複数の色を使った信号が見分けられない」とされることがあります。でも、海外では身体要件が違って色弱でもライセンスが取得できたりするんですよね。
また、同じように信号を使う乗り物として自動車がありますが、こちらの免許は色弱でもほとんどの場合、取得できます。自動車用信号機では、「青」に色弱者でも見分けやすいシグナルグリーンを使うなどの工夫がされているんですよね。
「色弱だから○○できない」という主張は、「石原表を使って検査すると、色覚は正常/異常に二分される」「世の中にあるデザインを変えるのは難しい」といった前提に基づいたもの。実際には、色の見え方は人それぞれですし、カラーユニバーサルデザインの普及により、現在では色弱があっても見分けやすいデザインが広まっています。
「人間をデザインに合わせる」のではなく、「デザインを人間に合わせて、より多くの人が利用できるようにする」ことができないのか、という問いかけを忘れないでほしいと思っています。
※「色弱者」と同じ意味を持つ表現として「色覚異常者」「色覚障害者」などが用いられる場合もありますが、本記事では「『色弱者』の方が差別感を感じる人が少ない」というCUDOのアンケート調査結果に即して、「色弱者」を使用しました。
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いまだに納得いってない。