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「尊い」とは「見えざる関係性」のこと――『どうして私が美術科に!?』×『ステラのまほう』作者が語る、“尊さビリティ”の正体(3/4 ページ)

どうびじゅはいいぞ。

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くろば:この流れで桃音ちゃんトークしてもいいですか? 桃音ちゃんは、自分自身がどうこうというより、他者との関わりの中で自分の立ち位置を確立できるキャラクターだと思うんです。その象徴として、1巻の美術科紹介展で描いた5枚の花びらのイラストがあるわけで。「私の将来」というテーマなのに、自分のことではなく5人の関係性を描いているところがすごく桃音ちゃんらしいなと。

 黄奈子ちゃんとすいにゃん先輩は中学時代からの先輩後輩、蒼ちゃんと紫苑ちゃんは幼なじみだけど、全員でつながる理由は特になかった。桃音ちゃんが間違えて美術科にやって来たことによって、美術X室という関わりの中で初めて5人がつながることができる、それが「どうびじゅ」という作品のキーになっている気がします。だから、桃音ちゃんが最後に生まれたのもある意味では必然だったのかもしれませんね。

相崎:作中で起きるさまざまな問題も、主人公の桃音がいたからこそ良い方向に動くようにしようと思いながら描いています。最終的に解決するのは問題を抱えている本人なんですけど、きっかけを作るのはいつも桃音。

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くろば:だからこそ、すいにゃん先輩がこっそりマンガを描いているのを桃音ちゃんに見つかったり、紫苑ちゃんが蒼ちゃんに嫉妬していることを桃音ちゃんにだけ打ち明けるプロセスが大事だったんじゃないかなと。読者が感情移入しやすくて、作品になくてはならない存在という意味で、桃音ちゃんはマンガの主人公というよりもゲームの主人公という印象があります。

――6人目のキャラクターである鈴木朱花は、最初から登場させる予定だったんでしょうか。

相崎:はい。「どうびじゅ」の最終回がいつになるとしても、最後は桃音が自分の意思で美術科にいることを選ぶラストにするつもりで、その問いを出す人物として朱花はずっと温めていました。でも実際に描いていくうちに、そんな役割ありきで生まれたキャラクターだとかわいそうだな、この子もちゃんと人間にしてあげたいなと思えてきて。そういった経緯で、本当は美術科に行きたかったけど普通科に入ってしまったという、桃音と逆の立場の子になった気がします。


どうして私が普通科に!?

くろば:黄奈子ちゃんは別に美術に興味がなかったけど、美術好きの親の気を引きたい一心で美術科に入った。それに対して朱花ちゃんは美術科に進学したかったけど、普通科に行ってほしいと思っている親の期待を裏切りたくなくて美術の道を諦めた。朱花ちゃんは、桃音ちゃんともそうであるように、黄奈子ちゃんとも対になるキャラクターなんですよ。

 ただ、バックグラウンドの共通性はあるにしても、朱花ちゃんと黄奈子ちゃんって性格はかなり違うじゃないですか。最終回で朱花ちゃんを美術科に誘ったのは黄奈子ちゃんだけど、あの子たちをふたりきりにすると微妙な空気になりそうだなとか、そんな話も読んでみたかったですね。

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相崎:「どうびじゅ」で描きたかったことは大体描けましたけど、細かいエピソードは入れられなかったので、読者の方が想像で補完できるくらいキャラを濃くしたり関係性を分かりやすくしようと思っていました。黄奈子と朱花をふたりにしたらギスギスしそうというのもまさにそれで、ちゃんと伝わっていたんだなと。

――確かに、朱花を美術科に誘ったのは黄奈子でしたね。主人公の桃音が誘うんじゃないのかと意外だったのですが。

相崎:あの役目は黄奈子に任せるつもりでした。くろば先生も仰っていたように同じバックボーンがあって、自分と同じような間違いをしていて。今から学科を替えるのは大変だろうなとか現実的なことを考えるより先に体が動いてしまうとしたら、それは桃音じゃなくて黄奈子だと思ったんです。

くろば:あそこで朱花ちゃんを美術科に誘えたのは、数話前のエピソードで黄奈子ちゃんが親と和解できていたこともフラグになってますよね。

相崎:ですね。そして、和解できたのもあの場所に桃音がいたからなので、やっぱり桃音が全てをつないでくれている。

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くろば:黄奈子ちゃんも完全に美術を好きになれたわけじゃないけれど、ずっとすれ違っていた親とも話ができて、美術の道も悪くないと思えるようになっていたことが、最終回の展開にカタルシスを与えているのだと思います。……どうびじゅ限界オタクみたいなトークばかりしてて申し訳ないんですけど。

どうして『ステラのまほう』『どうして私が美術科に!?』というタイトルに!?

――今回は事前に、お互いの先生への質問をそれぞれ考えてきてもらいました。まず、相崎先生からくろば先生への質問ですが、「ここまで『ステラのまほう』を描いてきて一番楽しかったエピソードは何ですか?」

くろば:一番を決めるのは難しいですが。描いていて楽しいという意味だと、キャラクター同士が感情をむきだしにしてぶつかりあっているシーンを描いているときは「こいつら青春してるなあ」って思えて好きですね。

相崎:読んでてもすごい伝わってきます。くろば先生、ここ描くの楽しかったんだろうなって。

くろば:単行本の描き下ろしなんかもう、脳汁出しながら描いてますよ(笑)。7巻の描き下ろしの、村上母娘のやりとりも楽しかった。バツイチの在宅プログラマーという環境の中で娘を育てていこうと決意する母親の感情と、その大変さを分かってはいるけど勢いできついことを言ってしまう椎奈の未熟な感情のぶつかりあい。そういう場面を描いているとき、自分、今くろば・Uのマンガ描いてるなあって実感します。

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娘に「コミュ力で困らないような家庭で育ちたかった」といわれるバツイチの母親

――相崎先生が『ステラのまほう』で好きなシーンはどこですか?

相崎:2巻で夏服に衣替えした回の、照先輩を見かけた藤川先輩の顔に影がかかるシーンが好きです。藤川先輩の普段は飄々(ひょうひょう)としているところが好きなんですけど、そういう人の素がたぶんここで初めて出たと思うんですよ。だから印象に残ってますね。

くろば:昔のSNS部はただの仲良し集団じゃなくて、ある程度の禍根を残しながら照先輩が卒業していったという流れをあのコマで表現しました。狙い通りに読んでいただけてうれしいです。

相崎:まんまとはまりました(笑)。

――続いての質問、「『ステラのまほう』以外のタイトル案はありましたか?」

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くろば:最初の案はラノベのタイトルっぽく、「締め切りいつだと思ってる?」みたいなものだった気がします。同人ゲームを作る作品だから「ツクール」って名前を入れる案もあったんですけど、人様のツールに乗っかるのはどうなんだろうと思いボツにしました。最終的に、担当さんといくつか案を出し合った中から、部員それぞれがバランスを取り合ってという1巻のオチも意識して『ステラのまほう』というタイトルになりました。


自然な(?)タイトル回収

相崎:単純に「ステラのまほう」という響きがすごくきれいですし、ゲームを題材にしたマンガだと分かる名前にすることもできたと思うのに、どうしてこのタイトルになったのか気になっていました。今回、理由が聞けてよかったです。

――『どうして私が美術科に!?』のタイトルはどのように決まりましたか?

相崎:あれは担当さんに考えてもらったものです。連載を始める前、最初に「間違えて美術科に入った女の子の話を描きたいんです」とメールで相談したら、「まさに『どうして私が美術科に!?』ですね」ってすぐに返信が来て。ほかにいい案も思い付かなかったので、それがそのままタイトルに。

担当:タイトル案のつもりで言ったわけではなく、相崎先生から話を聞いた瞬間にこのフレーズが思い付きました。ぶっちゃけ、某学習塾の「なんで、私が東大に!?」というキャッチコピーのオマージュなんですが。

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