連載

撮れたら「カ・イ・カ・ン」 誰でも撮れるの!? プロ直伝「サーキット流し撮り」テクニックレースフォトグラファー奥川浩彦の「サーキットへ行こう」(3)(2/2 ページ)

SUPER GT を例に「サーキット流し撮りのはじめの一歩」を超~簡単に説明します。

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「流し撮り」のシャッター速度はどの設定にすればいいの?

 シャッター速度を1/125秒→1/60秒→1/30秒と遅くしていくにつれて、写真のスピード感が増してきます。でも遅くすればするよいのかと言うと、そう単純ではありません。

 失敗写真の代表的なものはピンボケとブレです。ブレ写真を防ぐならば、シャッター速度をとにかく速くすればいい。ブレる速度よりも早くシャッターを切ってしまえばブレません。でも流し撮りはその逆。シャッター速度を遅くして撮ります。シャッタースピードが遅ければスピード感の迫力が増しますが、「難易度」も一緒に上がります。

 流し撮りの成功例である「いい写真」は自動車/カーレース専門誌やクルマ系Webサイトなどなど、探せばたくさん見つかります。そこでここでは、みんなが出したくない「失敗例」をお見せすることにしましょう。

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 最初はシャッター速度=1/250秒で撮った写真の失敗例です。記事に収まるほどに縮小して表示すれば、パッと見では大丈夫です。


シャッター速度=1/250秒で撮った写真の失敗例。ブレていないように見えますが、(写真をクリックして)アップにすると……(撮影:奥川浩彦/提供:Car Watch、以下同)

 しかし拡大すると……。成功例と失敗例を等倍で並べると差が出ます。失敗例はゼッケンや広告の文字などのディテールがシャキっとしていない=わずかですがブレていることが分かります。


シャッター速度=1/250秒 左が成功例、右が失敗例

 続いてもう少し遅いシャッター速度=1/60秒で撮った写真の失敗例です。こちらは背景が流れてスピードを感じられるようになりますが、肝心の被写体も同様にかなりブレてしまいました。


シャッター速度=1/60秒で撮った写真の失敗例

 同じように成功例と失敗例を等倍で並べて見てみましょう。比べるまでもないですが、失敗例はゼッケンナンバーや文字が盛大にブレています。


シャッター速度=1/60秒 左が成功例、右が失敗例

 このようにシャッター速度が1/250秒と速めならば、大きくブレない代わりにスピード感が犠牲になります。1/60秒以下にすれば、写真のスピード感と比例して難易度がグンと上がります。

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 流し撮りは「RPGのレベル上げ」のようなもの……ですね。まずシャッター速度1/250秒くらいから撮り始めて、うまく撮れるようになったら1/125秒、1/60秒、1/30秒とチャレンジしていくとよいでしょう。シャッター速度だけでこれですから……意外と奥が深いでしょう。面白そうでしょう。長く続けられる趣味としてもバッチリお勧めなのです。

「SUPER GT」本戦を撮ってみました

 SUPER GT 第2戦 FUJI GT 500km RACEで撮影したSUPER GTの全写真(約9000枚)を確認すると、シャッター速度が最も遅かったのは1/10秒、速かったのは1/500秒でした。実際に撮った写真を何枚か紹介します。


シャッター速度1/10秒で撮った写真。背景に写る後続車のヘッドライトを流して、幻想的になるように撮影

同じ場所でシャッター速度1/500秒で撮影。こちらは背景まで写っておりサーキットの「広大さ」とか「ドラマ感」を感じられる。レース直前に雨が降り、セーフティーカー先導でレース開始。事実上のオープニングラップとなった3周目の1コーナーの場面

これはボツ写真。流し撮りとしてはいいが、背景に写るマシンが少なく、1枚目と比べてスピード感が乏しいカットなのでボツとした

シャッター速度1/500秒で撮った写真。この写真の主役は富士山。脇役は100Rイン側のテントと観客のまったり感。で、おまけがコースを走るマシン

同じ場所で、シャッター速度1/60秒で撮る。主役はマシンだが、背景の富士山の雄大な景色のもと、観客がたくさんいて楽しんでいることも分かるように撮影した

ストレートエンドでグッドスマイル 初音ミクをシャッター速度1/60秒で撮影。グッドスマイルレーシング初音ミクの4号車は6位入賞だった

同じ場所で、シャッター速度1/30秒で撮影。背景に1コーナースタンドの観客を入れたかったのでシャッター速度を変更したのが設定を変えた理由

シャッター速度1/400秒で撮った。背景にグランドスタンドの大観衆と応援フラッグを入れた。「観衆の声援」が聞こえてくるようだ

同じ場所でシャッター速度を1/15秒に変更。こちらは「うなるエンジン音」が聞こえてくるようだ

100Rからヘアピンに向かって坂を駆け上がるエヴァンゲリオンレーシングのマシンをシャッター速度1/500秒で撮った。雨上がりだったので、背景の雲と山林を意識して撮った

ヘアピンに少し移動して進入するマシンをシャッター速度1/30秒で撮った写真。ヘアピンのイン側のペイントと観客席のテント、樹木がバランス良く構図に入るように意識して撮った

ダンロップコーナーの進入はブレーキローターが赤熱するポイント。特に赤熱しやすいNSXを狙ってシャッター速度1/30秒で撮影

富士山、アウディ看板、アウディ・R8を同じ構図に入れる、というテーマを設定して撮影。シャッター速度を遅くしすぎると看板のアウディの文字がブレて見えなくなってしまうので、シャッター速度は1/80秒にした。ちなみにSUPER GTに参戦する44台のうちアウディは1台のみ。1回で撮れるわけはないので、たった1台が通過するのを毎周ひたすら待って撮影した

アウディを待って撮影しようとしたら、別のGT500のマシンがフレームに入ってきてしまってボツ写真となった1枚。狙った通りにはなかなかいかない。でもそれが楽しい

「流し撮り」が決まるようになると、サーキット撮影が病みつきになる

 サーキットではこのような感じで、撮影したいカットや意図に応じてシャッター速度をはじめ、カメラの設定をアレコレいじりながら撮影をしています。

 今回紹介したはじめの一歩「シャッター速度」を理解して流し撮りが決まるようになると、サーキット撮影は病みつきになります。

 皆さんも「サーキットに行って」、ぜひ流し撮りに挑戦してみてください。

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今回はSUPER GT 第2戦 FUJI GT 500km RACEで撮った写真をボツ写真も含め十数点お見せしました。これ以外に筆者が撮ったSUPER GTの“成功”写真は、フォトギャラリーとして「Car Watch」に掲載しています。こちらも撮影の参考にしていただければうれしいです。

奥川浩彦

 メルコ(現:BUFFALO)の広報担当、イーレッツで「線上のメリークリスマス」などを世に送り出し2006年末に広報コンサルティングを行うiPRを起業。海外ベンダーからスタートアップのローンチまで、さまざまな企業の広報を支援。副業はフォトグラファー兼ライター。

 レース初観戦は1981年。F1日本グランプリは1987年から皆勤賞(継続中)。インプレス・Car WatchでF1撮影記「撮ってみましたF1日本グランプリ」などを連載。レースシーズンは本業の傍らフォトグラファーとして、F1、MotoGP、SUPER GT、スーパーフォーミュラなど各地のサーキットを転戦し、レース写真とともにレースの楽しさを伝えている。

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