「スマホの充電器ってどれ選んでも一緒じゃない?」という人に伝えたい「規格」と「認証マーク」の話
実は今USBの世界に大きな革命が起こっています。
スマホやタブレットが広く普及した現在、バッテリー不足の際に役立つモバイルバッテリーやケーブルは多くの人が持ち歩いているかと思います。ではそのバッテリーとケーブル、皆さんはどんな基準で選んでいるでしょうか?
容量、機能、値段、あるいは好きなキャラクターを模した物など選び方はさまざま。中には「使えればどれでもいい」と特にこだわりのない人もいるかもしれません。筆者もそんな「どれを選んでも一緒」と思っている1人でした。
ところが専門家の目から見るとそれらには大きな違いがあるんだとか。今回は独自路線のPC・スマホ周辺機器を手がけるゴッパの九鬼隆則社長に、モバイルバッテリーをはじめとした各種充電器やケーブルの選び方、さらには知られざる業界のディープな話を聞いてきました。知っていて損はない役立つ知識が満載ですので、ぜひご一読ください!
「規格違反」の製品が普通に販売されている現状
――モバイルバッテリーとかケーブルってものすごくたくさん出てるじゃないですか。しかも高い物から安い物までピンキリで、自分のような機械音痴だと一体何を買えばいいのかわからないんですが。
九鬼さん:なるほど。ちなみに今まではどうやって選んでました?
――まあ……なんとなく聞いたことあるメーカーのほうが安心かな、とかそれくらいです。あとは安いのを買って壊れたらまた買えばいいかなと。
九鬼さん:そういう使い捨て感覚で買っていただく需要というのはもちろんあると思います。ただ安心感を求めるならメーカー名などでなんとなく選ぶよりももっと確実な方法がありますよ。
――と言うと?
九鬼さん:「USB-IF認証済み」のマークがついた製品を選ぶんです。
――あいえふ……?
九鬼さん:USBの規格を決めるそういう団体があるんです。そこが「ちゃんと使えますよ」「規格通りできてますよ」って認めた製品ですね。
――規格通り作ってちゃんと使える、ってめちゃめちゃ普通のことのように聞こえるんですが。
九鬼さん:ところが意外とそうでもないんですよ。簡単にチェックできる機械があるので何かケーブル持ってたら調べてみましょうか?
九鬼さん:ピンの数だったり抵抗を入れるか入れないかだったり、物によっていろいろと細かい決まりがあるんです。これはUSB3.1のハイスピードケーブルなので全結線をしないといけないというのがあって……まあ簡単に言うとこのランプが光らないといけない部分がケーブルごとに決まっているんですが、これは本来光るべき場所が2点ほど光っていないですね。つまり厳密に言うと規格違反品ということになります。
――ええっ、結構有名なメーカーのやつなのに2つもダメなところがあるんですか!?
九鬼さん:でも今までこのケーブルを使ってきて特に問題はなかったんですよね? もちろん商品としてリリースするわけですから社内で動作チェックなどもしているはずですし、一概にダメというわけではないんですが、まあ規格通り正確に作られた製品ではないということです。
――まあ確かに「ちゃんと使えてる」という点ではいいのか……。じゃあなんで規格に忠実に作ったり認証を受けたりする必要があるんですか?
九鬼さん:ゴッパはサードパーティメーカーだからです。例えばPCを買うと純正のACアダプタがついてきますよね。それは極端に言えば、そのPC用に作ったアダプタなのでそのPCでさえ使えれば問題ないわけですよ。純正なので他の物には使わないでください、としておけばOK。
だけどうちの製品の場合、PCに使うかもしれないしスマホに使うかもしれないし液晶ディスプレイに使うかもしれない。それもさまざまなメーカーのさまざまな製品につなぐ可能性があるわけです。そうしたときに一番大事なのが互換性、つまり「規格通り作られているからあらゆる製品に安心して使えますよ」という証明だと僕は思ってるんですね。だからゴッパの製品はIFの認証マークをつけることにこだわってるんです。
――なるほど。認証マークがついた製品って世の中にどれくらいあるんですか?
九鬼さん:まだあまり多くないですね。なぜかというとものすごいお金と手間がかかるんです。IFの認証を受けることは現状義務化されているわけではないので、それを避けることでコストを下げて商品を安く提供したりもできます。そこはメーカーごとの考え方なのでお客様がどこにメリットを感じるかということだと思います。
――知らなかった……! そもそもそんな認証マークがあることを知らない消費者も多いんじゃないですか?
九鬼さん:はい。なのでねとらぼさんみたいなメディアに啓蒙活動をしていただきたいというのが今回の記事のテーマでもあります(笑)。
「USB Type-C™」と「PD」が起こした革命
――認証マークがついていない製品が多くあるのはわかったんですが、あまり大きな問題になっているようにも見えませんよね。それはなぜなんでしょうか。
九鬼さん:それにはまずゴッパも主力商品にしている「USB Type-C™」と「USB PD(パワーデリバリー)」の説明をしたほうがよさそうですね。ご存じですか?
――仮にもアイティメディアという会社で働いているのに恐縮ですが、よくわかりません!
九鬼さん:ええと、まず「Type-C™」というのはUSBコネクタの新規格です。
――あ、上下どっちでも挿せるUSBですよね。「USBの裏表いつも間違える」っていうあるあるが解消されたことでみんなが喜んだという。
九鬼さん:そうですね。「両面使える」という以外にもさまざまな点で利便性が向上しているんですよ。例えばこれまでのUSBっていろいろな形があったじゃないですか。
――確かに。スマホとゲーム機とデジカメでどれが何のコネクタなんだかわけわかんなくなってました。
九鬼さん:そのたびにそれぞれのケーブルが必要になってすごく不便でしたよね。環境にもよくないし。いいことがひとつもなかったんです。
――そもそもなんであんな細かく変えてたんですか?
九鬼さん:技術の進歩でデバイスがどんどん小型化されていったので必要に駆られて新しいコネクタが出てきたんでしょうね。デバイスが薄くなったからコネクタも薄くしたりとか。そのあたりを1回オールリセットして統一しようというのが今回のType-C™なんです。
――それユーザー的にはめちゃくちゃありがたいですね……!
九鬼さん:だから今後USBは全部Type-C™になると考えて間違いないと思います。ちなみに「USB2.0」とか「USB3.1」っていう数字は通信速度の違いで、「Type-B」「Type-C™」っていうのはコネクタの形のことです。「USB2.0のType-C」とかもあるので、単純にそのケーブルが使えるかどうかが知りたいときはコネクタの形で判断するといいですよ。
――初心者向けの解説ありがとうございます。
九鬼さん:「PD」というのはパワーデリバリーといいます。USB給電の新しい規格なんです。
――いわゆる「急速充電」みたいなことですか?
九鬼さん:そうですね。今までの充電器だとただケーブルを通して一定の電気を流しているだけだったんですが、PDにはマイコンが入っていて流す電力を調整できるんです。例えばスマホにつないだとき、スマホから「お腹が空いてるからたくさん電力をちょうだい」ってリクエストをもらって「このケーブルだとこれだけ電気を流せるからたくさん持っていっていいよ」という調整をしてくれるんです。
――なんかパッケージに「急速充電」って書いてあるから速いんだろうなとしか思ってなかった。そういう仕組みだったのか……。
九鬼さん:PDとType-C™の組み合わせだと充電しながらデータのやりとりもできるんです。例えばPCとモニターを使う場合、これまでは「PCと電源」「モニターと電源」をそれぞれつないで、さらにPCとモニターをHDMIケーブルでつないで「PCの映像をモニターに映す」ということをしてましたよね。それが「電源につないだPCとモニターをUSBでつなぐ」だけで全部使えるようになるとか。
――なるほど、モニターとPCで別に電源をつながなくてもよくなるんですか。
九鬼さん:要するにACアダプタとノートPCさえ持っていけば、あとはそこから液晶ディスプレイでもタブレットでもデジカメでもケーブル1本で使えるよ、充電もできるよ、ということです。
――めちゃくちゃ便利じゃないですか!
九鬼さん:そうなんです。そこで最初の質問に戻るんですが、これらの技術ってまだここ数年に出てきたものでまだあまり広く普及しているというわけではないんですね。PDやUSB3.1に対応したPC自体がそもそもまだ多くないし、スマホもType-C™じゃないものがあったり。だから規格に沿って作られていない製品でもまだ「使えなかった」という事例自体が少なくて問題が表面化していない部分はあるのかなと。
――なるほど。
九鬼さん:そういう意味ではこの業界結構闇が深いというか……。使う皆さんが「今はそんなのが出てるんだ」と思っているのと同様、作り手側もまだそこまでこなれてないので規格通り作れていない部分もあると思います。
逆にUSB2.0みたいに長年使われている物だと工場もメーカーも知識や経験があって「こうしなければいけない」っていうルールもちゃんと把握できている中で製造しているので、問題も起こりにくいですし今では「USB2.0でIFの認証が取れているかどうか」って業界でもほとんど話題にならないんです。
――じゃあType-C™とかPDっていう新しい規格のものがこれから普及していくと、いろいろ気付かなかった問題が出てくることも考えられるんですか。
九鬼さん:その可能性がある、ということでゴッパではできるかぎり規格に忠実に作ることにこだわっているんですよ。もしも半端な物を作ってしまって問題が起こるとType-C™やPDのイメージが悪くなってしまって普及の妨げになりかねない。せっかく素晴らしい技術だと思っているのでうちとしてできることは精一杯やろう、というのが企業理念なんですね。
――バッテリーやケーブルにそんな奥深い世界があったとは……。
九鬼さん:そもそも僕も昔からPC周辺機器のマニアだったので。USB初期の頃なんかはまともに動かないものも多くて、みんな秋葉原に行って「あの外付けCD-ROMにはあのケーブルを組み合わせるのが一番動作が安定するぞ!」「逆にあれとあれは動かなかったから気を付けろ!」とかやってたんですよ。当時はPCがまだマニアの道具って感じだったのである程度そういうことも許されていたんですけど、今のユーザーさんは「買ったら使える」のが当たり前の時代じゃないですか。
――そうだと思います。僕みたいな知識のない人でもとりあえず使えちゃいますし。
九鬼さん:PDやType-C™って数十年のUSBの歴史でも結構な大変革が起こってるんですよ。今まではただ電気が通せればよかったのに、中にマイコンが入るとかになると工場もメーカーも新しいことをやらなければいけないので大変です。ある程度詳しい人にとってもそうなので、皆さんにはとりあえず「認証マークがついているものはより安心なんだ」ということを覚えてもらえればよいのかなと思ってます。
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