レビュー

シリーズ屈指の感動「きのう何食べた?」8話 原作エピソードの巧みな組み合わせを解説(2/2 ページ)

最後はやっぱり内野聖陽が全部かっさらっていったよ。

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感情があふれてしまう菅原大吉の演技

 8話は、物語の中盤にどっかりと料理シーンが据えられている。メニューは鮭と卵ときゅうりのおすし、筑前煮、なすとパプリカのいため煮、ブロッコリーの梅わさマヨネーズ。かぶの海老しいたけあんかけ。タンパク質が少ないことを気に病んでいたシロさんだが、40代、50代男性の会食にはぴったりだと思う(ちょっと味が濃すぎるような気さえする)。

 それまで鬱屈としていたシロさんだが、料理が進むにつれて自然に笑顔がこぼれていく。「じゃ、すしにとりかかるか!」と心の声がするときの勇ましさ、充実感はどうだ。料理をすることが精神の安定につながっていることがよくわかるシーンだ。帰ってきたケンジに「いいから、座ってろ」と言うときも、後ろめたさのない、頼もしく、優しい笑顔になっている。筆者も料理をすることが(たまに)あるのだが、悩みがあっても何も考えずに充実感を得られるのが本当にいい。

 食事も終わりになり、鉄さんがしずしずと用件を切り出す。一代で財産を成した鉄さんだが、それを全てヨシくんに相続させたいというのだ。歯を食いしばって貯めた金を、田舎の両親にはビタ一文渡したくない――。

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 鉄さん役の菅原大吉は、懸命に抑えつつも、感情がこぼれてしまうような演技を見せている。両親の同性愛への無理解と冷たさ、息子と両親とのこじれた関係、しかし、年老いた両親を見捨てるような発言をしてしまっていいのかどうかという逡巡。原作での鉄さんは、いたってクールに「ビタ一文渡したくない」と語って、それが両親とのこじれを際立たせていたのだが、ドラマの鉄さんは、人としての温かさとその背後に横たわっている問題の難しさをよく表していた。ちなみにいつもながら脇役の原作の再現度は非常に高く、菅原大吉は頭髪の有無、正名僕蔵はヒゲの有無の差こそあれ、あとは原作そのまんまだった。

 鉄さんとヨシくんは相続について弁護士のシロさんに相談したかったのだが、直接事務所に行くとカムアウトしていないシロさんに迷惑がかかると思って会食をお願いしていた。ケンジはそのことを知っていたが、両者が自然に話せるように場をセッティングしていた。

 佳代子さんも、ヨシくんと鉄さんも、ケンジも、みんな優しさと慎み深さを持っている。ピリついていたシロさんは、みんなの優しさと料理をすることによって、心が徐々にほぐれていったようだ。

最後を全部かっさらっていく内野聖陽

 それでも、うまく仲直りができないシロさんとケンジ。ゴミを捨てにいくケンジの後ろ姿を見て、自分の小ささを内省するモノローグが挿入される。原作ではレストランでの食事の帰り道で語られていたが、原作にはないこのシーンに挿入することでグッとドラマティックになっている。ケンジが外へ出ていく姿を、立ち尽くして見送るシロさんのロングショットが彼の心細さを表している。

 「このまま帰ってこないということも、なくはないんだよな」とつぶやくシロさん。これは、佳代子さんとの会話にあった「そういう努力をしないと簡単に切れる関係」を受けている。実際、ケンジは恋人がタバコを買いに行ってそのまま帰ってこなかった過去がある。

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 翌朝、ケンジはシロさんにハンバーグをリクエストする。これがケンジらしい仲直りの方法なのだ。それを心の底からの笑顔で快諾するシロさん。あらためてケンジの優しさ、人としての大きさを想うシロさんであった。

 「シロさんが俺のために……。俺、すっごく愛されてる」

 ラストシーンは、桃を食べながら目を細めてうっとりするケンジの姿だった。シロさんを見送るときのメガネのズレ具合も含めて、いつも通り内野聖陽が全部かっさらっていった感がある8話でした。

 9話は今夜0時12分から。久しぶりに2人に会えるよ!

佳代子がステキだった。陽気でおしゃべりで優しい人 イラスト/たけだあや

これまでの「きのう何食べた?」

大山くまお

ライター。「文春野球ペナントレース2019」中日ドラゴンズ監督。企画・執筆した『ドアラドリル』シリーズ発売中。

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たけだあや

イラスト、粘土。京都府出身。

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