よしながふみ原作、西島秀俊、内野聖陽主演のドラマ24「きのう何食べた?」(テレビ東京)が4月5日の深夜からスタートする。連載開始から実に12年、「待望の」というフレーズがこんなに似合う作品もない。ドラマ化が発表されてから、ネットは沸きっぱなしだ。
主人公は弁護士・筧史朗(シロさん)と、美容師・矢吹賢二(ケンジ)の同性カップル。同棲中の2人を取り巻く人間関係の機微をていねいに描く。核にあるのは、タイトルからもわかるように「食事」である。
きちょうめんな筧は、節約のために毎日きっちり手料理をつくる。原作コミック内でも、かなりのページ数が筧の調理シーン(あと、1円でも安い素材を求めるスーパーでの買い物シーン)に費やされている。調理シーンは丁寧に手順が描かれているが、だからといって分量などが細かく記されることもないので、料理の素人にもマネしやすいのが特徴だ。
奇跡なんか起こらない普通の食事
筧がつくるのは、特別な料理じゃない。原作の第1話に出てくるのは、ごぼうとまいたけの炊き込みごはん、豚肉とかぶとかぶの葉のみそ汁、小松菜と厚揚げの煮びたし、卵とたけのこのせんぎりとザーサイの中華風いためもの。ね、全然特別じゃないでしょ?
ある意味、ものすごく地味。味は「あまからすっぱい」のバランスがとれているが、なんとなく茶色い。筆者はいつもすごくおいしそうだと思うので(さっきメニューを書いているだけで腹が鳴った)、たまにマネしてつくってみたりするのだが、ある若い女性に「全然おいしそうじゃないですよね」と言われて驚いたことがある。まぁ、食事の趣味はいろいろだ。
『きのう何食べた?』では、シロさんの手料理を食べて誰かが涙を流して感動したり、何か事件が解決したりするようなことは一切起こらない。奇跡も起こらないし、ロマンや説教めいた能書きが語られることもない。おいしいごはんで、ケンジがちょっと幸せを感じる。それを見て、シロさんがうんうんとうなずく。それぐらいだ。
食事は毎日のこと。家庭の人々の生活を描くホームドラマは、かつて「めし食いドラマ」と呼ばれた。だとすれば、「きのう何食べた?」は同性カップルの家庭生活を描く王道のホームドラマと呼んでいい。
隅から隅まで充実のキャスティング
原作が進むにつれて登場人物は年齢を重ねているので、シロさんはもう52歳、ケンジは50歳になった。発表されるなり「イメージ通り」「そっくり」と大反響を巻き起こした“今、一番エプロンが似合う俳優”西島秀俊は実年齢が47歳、イメージよりちょっとゴツかったけど、すさまじい憑依具合でケンジになりきっている内野聖陽の実年齢は50歳。ちょうど年頃もぴったりだ。
普段は無表情なのに恋人には甘くて右往左往させられる芸能プロマネージャー・小日向さんに山本耕史、彼を翻弄する“ジルベール”に磯村勇斗がキャスティングされている。
ほかにも富永さんに田中美佐子、大先生に高泉淳子、美容室の店長にマキタスポーツ(原作だと見た目はレキシ)など、よしながふみのキャスティングへの強いこだわりに制作サイドが十分応えたのがよくわかる充実ぶり。個人的に楽しみになのが、シロさんの母親役の梶芽衣子。イメージぴったりすぎて笑う。
原作のKindle版がいま1〜2巻無料キャンペーンを行っている。1巻から読み返してみると、2007年の同性愛者に対する社会や人々の認識がものすごく雑だったり、無理解がはびこっていたりして驚く。人の良さそうな人たちが無遠慮な発言をして、それに筧がびくっと反応するが、なんとなくやり過ごすという展開が多い。連載当初は、筧の反応や周囲の人たちとのやりとりで、「ああ、同性愛者の人たちはこういう言葉についてこんな風に感じているのか」とほんのり理解していたような気がする。それぐらい筆者もこういう世界について無知だった。
大ヒットした男同士のラブストーリー「おっさんずラブ」、オネエ言葉を話さない男性カップルが登場した「隣の家族は青く見える」、トランスジェンダーかつレズビアンの主人公が登場した「女子的生活」など、セクシャルマイノリティーを主人公にしたドラマが続出した2018年を経て、いよいよ真打ち登場という感が強い「きのう何食べた?」。今夜4月5日24時12分スタート。
たけだあや
イラスト、粘土。京都府出身。Twitter
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