こわい話に潜む「女性への抑圧」とは? “こわい話”を解剖する(2/2 ページ)
なぜ、そのこわい話は「こわい」のか?
女性を抑圧するこわい話
パターナリズムに限った話ではありませんが、ある「規範」が内面化された社会においては、そこから外れた人を非難し、あるいは笑うことで共同体の連帯を確かめ合う、一種の同調圧力が往々にして発生します。
言ってしまえば「いじめ」の構造そのもので、お昼の番組の「料理ができない若い女を笑う」コーナーなどは、まさにその典型でしょう。
女性を主人公・体験者としたいくつかの「こわい話」が、そういった圧力の一端を担ってきた歴史があるように思われます。
「口裂け女」以外にも、例えば「ピアスの白い糸」の都市伝説――自分でピアスの穴を開けた少女が、穴から白い細い糸が出ていることに気づいて引っ張った。実はそれは視神経で、彼女は失明してしまった……というファンタジックな(人体は、眼球からいったん耳たぶを経由して脳に視神経をつなぐほど無駄な構造にはなっていない)物語――には、同じく「親からもらった体を」論を背景にした「ピアスなんか開けるな」という教訓が間違いなく含まれています。
もう勘のいい読者の方ならおわかりでしょうが、冒頭の大ウソも、こうした「女性への抑圧」を、「ファッションへの保守的な態度」「母親への脅迫」の2要素として織り込みでっち上げたものです。
流行を繰り返す「女児暴行」伝説
「口裂け女」や「ピアスの白い糸」はそろそろ古くなってきましたが、今もなお「女性への抑圧」を含んだこわい話は浮かび上がり、人々の間で広がっています。
今年も、3月ごろに「母親が幼い女児を公園に連れて行き、一人でトイレに行かせた。女児はトイレで性的暴行を受け、子宮を全摘することになった」というツイートが数万リツイートされ、事の真偽を巡る論争も含め、大きな話題になりました。
「母親が目を離した間に女児がトイレで暴行されて重傷を負い、子宮を摘出した」というエピソードはデマであり、実際にそのようなケースの発生は確認されていません(BuzzFeed Newsの記事にこのデマについては詳しくまとまっています)。数年に一度は具体的な「犯行現場」(ショッピングモールやディスカウントストアなど)の情報とともに流行しているようです。
物語の中の「被害者」と同じ「小さな子を持つ保護者」の間で、防犯情報として共有・拡散される傾向があり、受容者の属性ゆえに個別のケースがデマと断定されても、数年のスパンでそれを知らない新たな世代の間で流行するということを繰り返しているのでしょう。
この物語で語られるのは「母親は子供から目を離すな」というシンプルな教訓ですが、注目すべきは被害者の女児が、単に「重傷を負った」でなく「子宮を摘出した」と語られることが多い点です。
「子供を産めない体になる」ことが「最も恐ろしいペナルティー」というアピールになり、拡散に拍車をかけるのは、この物語が小さな子を持つ保護者たちという、「子供を産み、育てることは尊い」という価値観を内面化したコミュニティーに向けて発せられるからこそです。私はここに、この話型のオリジンをつくった人物の周到さを感じます。
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