「魔法の国イケア」と、ていねいに暮らしたい(2/2 ページ)
【エッセイ】イケアの観葉植物、すごいエネルギーを感じる。
広大なフロアを巡り終える頃にはすっかり精根尽き果て、イケアはもしかして客のエネルギーを吸い取ってこんなに大きく成長したんじゃないかと本気で思う。そのくらいすでにめちゃくちゃ疲れているが、しかしまだ(闘いは)終わっていない。一階にはこれまた広大なスペースにキッチン用具やファブリック、ゴミ箱やランプなどの雑貨がわんさと並んでおり、そこを通過してやっと巨大倉庫へ辿りつくことができるのだ。まだ先は長い。
気を取り直して1階へ降り、お玉や皿、カトラリーなど細々とした台所用品や、クッションやサイドテーブルのランプなどを物色する。スーパーで買ったものが家にあるのに、ついイケアのロゴ入りのジップロックなどを嬉々としてひょいひょいカートに入れてしまう。大きな買い物がなくても、1階で雑貨を見て回るだけで十分楽しめそうだ。ポプリ安いね、花瓶もいいねと言い合って大きなカートに入れながら行ったり来たり立ち止まったり。
ほぼ全ての商品を見終えた最後に、観葉植物のコーナーがある。巨大倉庫はもうすぐそこ。夫はもはや疲れ果てて文句を言う元気もない。私は最後の力を振り絞って、というかもはや勢いで新居にふさわしい植物をふたつ、ええいと選んだ。手のひらを大きくひらいたみたいに明るいモンステラと、枝の曲がり具合が素敵なウンベラ―タ。ちゃんと水やるから! と言ってなかば強引に決めた。鉢植えカバーも抜かりなくカートへ滑り込ませる。
あかねさすIKEAへゆこうふたりして家具を棺のように運ぼう 岡野大嗣
こんな短歌がある。確かに、買った組み立て式本棚の段ボール(かなり重い)をせっせと駐車場まで運ぶ自分たちの姿は、そんな風に見えなくもない。私たちは黙々と家具を運ぶ。ときどき目が合って、疲れてふたりとも変な顔になる。あかねさすIKEA。着いた頃はまだ朝のやわらかな陽が差していたのに、すっかり日は暮れて、夕焼けをバックに青と黄色のロゴが一層、目立っている。
イケアで勢い任せに買ったモンステラとウンベラータは、その後も枯れずに存命である。しかもモンステラときたらその成長は目覚ましく、四方八方に根や葉や茎が伸びるので、植え替えをし、添え木を立ててやったほどだ。これは奇跡的なことで、すっかり気をよくした私はその後もイケアに行くと新しい植物を買っては増やしている。
今なら、中学のころに枯らしてしまったあのワイルドストロベリーもいけるかもしれない。しかし、イケアの植物だから育つのだと思わなくもない。「晴れ男/晴れ女」も「血液型占い」も信じないクセにどんなとんだ迷信だろうと自分でも苦笑するが、現に旅先で買ったオリーブの苗木はすぐに枯れてしまったのだ。枯れたオリーブの鉢を尻目にイケアで買った植物だけが、今もぐんぐん成長しつづけている。やっぱり、イケアの植物も来た客のエネルギーを吸い取ってこんなにたくましいのかもしれない。
イケアのよさは、ばかでかさ。行ったことはないがコストコもこんな感じなのかもしれない。けれどコストコ以上に魅力的なのは、そこに生活の例示があることだ。本棚を増やそうよ、テレビ台を新しくしようか、4月からのひとり暮らしに向けて、兄弟のためのはじめての二段ベッドを見に、いつかふたりで暮らすためのシミュレーションのために――。ここは、それぞれが生活をめざして真っすぐやってくる場所だから。みんなの生活へのエネルギーを吸い取って、今日もイケアはばかでかい。
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