JAXAさん、何で「野沢菜の漬物を上手に食べる方法(ただし無重力)」が思い付くんです? 宇宙食マンガ「宇宙めし!」作者インタビュー
考えたことなかった。
宇宙へと飛び立った人類が口にしている宇宙食。地球に暮らす一般人にはあまり縁のない食品ですが、国内にもその開発・製造を行う食品メーカーが存在します。
「月刊!スピリッツ」(小学館)で連載中の「宇宙めし!(そらめし!)」は、そんなちょっとマイナーな“宇宙関連業界”をテーマにしたマンガ。第2巻発売(12月12日刊行予定)に合わせて作者・日向なつお先生にインタビューしました。漫画本編も合わせて掲載します。
第1食「宇宙弁当」(後半)
第1食前半は、前回記事「実在の“宇宙食メーカー”に取材した異色のグルメマンガ JAXA協力で実現した『宇宙めし!』」にて掲載しています
JAXAに実在する「宇宙食開発グループ」
――― 「宇宙めし!」を読むまで知らなかったのですが、JAXAは本当に宇宙食開発を行っているんですね
日向先生(以下略):ええ、「宇宙日本食(※)」というレーベルで認証などを行っているのですが、JAXA内部でも全員知っているかというと……ちょっと怪しいかも(笑)。「JAXAといえばロケット!」というイメージが強いですし、少し地味な分野に見えてしまうところもありますよね。
※宇宙日本食:JAXAが宇宙食としての基準を満たしていると評価した食品。食品メーカーが提案し、スペースシャトル、国際宇宙ステーションの長期滞在などで供給される。詳細はJAXAのWebサイトからご確認ください。
米国のNASAも宇宙食開発を行っているのですが、JAXAと違ってイチから食品開発ができる工場を持っていて、内製できるようになっています。ですが、JAXAにはそのような設備がないので、食品メーカーの協力で成り立っています。
――― ということは、JAXAは「こういうのを作りたいです」とメーカーにお願いしているんですか?
いえ、窓口を開いたり、その周知活動をしたりは可能なんですが、メーカーに声を掛けるということはできないんですよ。国の機関だから、特定の企業をひいきするのはダメということで。
だから、企業側から「ウチのこれ、どうですか?」と話がきて、JAXA内で試食などをする形を取っているそうです。
――― 第1食(第1話)に「アメリカやロシアには宇宙食が300種類もあるのに対して、日本は約30種類しかない」という話が出てきます。約10倍も違うんですね。
国際宇宙ステーションにいる宇宙飛行士は滞在期間が長く、栄養バランスの良い献立を作る必要があるのですが、300種類でも約6カ月もいると味に飽きてしまうようです。宇宙日本食はこの組み合わせを増やすことで飽きが来ないようにしているようですが、約30種類の宇宙日本食だけでは栄養バランスを考えた献立を作ることができないのだそうです。
でも、宇宙日本食のカレー、すごくおいしかったですよ。濃厚な味わいのちょっと高級なレトルトカレーみたいな感じで、普通のスーパーに並んでいても違和感はないと思います。
無重力の世界では体液が上がって地上でいう鼻づまり状態になり、味が分かりにくくなってしまうので、宇宙食は味を濃くしたりスパイシーにしたりと工夫されていて。カレーは宇宙飛行士のあいだでもけっこう人気みたいです。
ちなみに、ロシア人宇宙飛行士のあいだでは、サバのみそ煮がウケているそうです。アメリカ人はお肉が好きな一方、ロシアには魚を食べる文化があるとかで。
「宇宙兄弟」の監修も手掛けている“JAXAの何でも屋さん”
――― 「宇宙めし!」では主人公がさまざまな宇宙食を開発。第1食(第1話)にはある宇宙飛行士の地元料理のセットを缶詰にした「宇宙弁当」が出てきます。こういったアイデアはどうやって考えているのですか?
オリジナルで考えている部分が多いです。今の宇宙食では不可能な要素もあるのですが、やっぱりそこには夢があってほしくて。
現実的に考えたら「1つの缶にいろいろな食品が入っているのは宇宙食としてはありえない」「缶詰だと容器がごみになったとき、かさばる」といった問題もあるのですが、JAXAの方に「宇宙弁当」のアイデアを見せたら「面白い」「ふるさとの味って良いよね」と言ってもらえました。
――― “宇宙のロマン”的なところも理解してくれるんですね、JAXAさん
「宇宙めし!」の制作に協力していただいている広報の方が「宇宙兄弟」の監修もされていた“JAXAの何でも屋さん”みたいな人で。頭がすごく柔らかくて、どんな設定でも「できない」と言わずに、真剣に考えてくださるんですよ。
「宇宙弁当」に入っている昆布で縛った野沢菜の漬物は、その方のアイデアです。「無重力空間だと、野沢菜がバラバラに飛んでいって大変なことになります。昆布で縛ってまとめるのはどうですか?」って。
――― 「和食らしい素材で一手間加えて、宇宙空間でのリアリティーを保つ」って発想力が高過ぎません……?
(続く)
本記事は全4本の連載企画です
- 実在の“宇宙食メーカー”に取材した異色のグルメマンガ JAXA協力で実現した「宇宙めし!」
- JAXAさん、何で「野沢菜の漬物を上手に食べる方法(ただし無重力)」が思い付くんです?
- 宇宙ではコショウが使えるのに、ごま塩が使えない理由
- 「宇宙食開発したぞ→お湯で戻す方法がないんだが……」でメーカーが考えたまさかの対応策
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