『娘の友達』萩原あさ美インタビュー 「自分の反省の気持ちと、『わからない相手を知りたい』という欲求が合わさった作品」(2/2 ページ)
自己を抑圧する現代人へ贈る、“ミドルエイジ・ミーツ・ガール”ストーリー。
──毎話のエピソードの組み立て方についても、お話を聞かせて頂けますか?
担当編集:『娘の友達』はネームよりもその前のプロットの打ち合わせを結構厚くやっていますね。萩原先生の中にある言語化できない古都ちゃんの行動原理って、僕自身も曖昧にしか理解できないんですけど、僕や他の人たちの中にもある「人間の本質」に近しい何かがあるような気がしていて……。
打ち合わせでは僕らの様な一般人の中にある感覚と、古都ちゃんの持つ不思議な感覚の共通項を探す作業を主に行っているという感じですね。
その作業が少しずつ進んでいっているので、今読んで下さっている読者の方々には理解できない古都ちゃんの感覚も、最後まで読んで頂くことによって「古都ちゃんって実は一番ピュアで、ぶれずに生きていていたんだ」って思ってもらえるんじゃないかと思っています。
その次段階のネーム作業は、萩原先生がどんどん上手くなっていっているので最近はそんなに時間かかってないですね。
萩原:私は一人で連載をするのは初めてなので、最初のころは担当さんに「教えて下さい」ってお願いして「こうやって組み立てるんやぞ」と沢山指導を頂きました……!
担当編集:いやいや(笑)。でもそうですね、企画段階の時に1巻分のネームを制作して頂いたのに、編集長OKが出ずに描き直しになったことはありましたね。
そのネームは1巻時点で、古都ちゃんのバックグラウンドが大枠明かされていたりとかなり話の展開が速かったので、そこから戦略を変えスピードをかなり落としてゆっくりしたテンポにしたんです。それが今結果的にうまくいってるのかなとは思ってます。
──1巻のネームが先にあったということは、描きたいテーマやエピソードは萩原先生の中に既にあって、毎話の打ち合わせでそれをどれ位出していこうか話し合いながら組み立てている……という感じなのでしょうか?
萩原:どうなんでしょう? そういう感じですか?
担当編集:そういう感じですね。
萩原:そういう感じです!
──ちなみになのですが、萩原先生の中で物語の結末はもう決まっていたりするのですか?
萩原:結末は明確には決めていないですね。描きたいことは決まっていますが……。
──どうなるのか楽しみです……! そうやって今まで描いてきた中で、読者さんの反響が大きかったエピソードなどはありますか?
萩原:私は反響とかはあんまりわからないですね……。皆さんにどういう風に読まれているのかもあまりわかっていないくらいで。ネットの反応はたまにTwitterなんかで見ますけど、読者さんはそう読むんだ……そうなんだぁ……って思うくらいで……(笑)。
担当編集:お風呂で脇を剃っている回や、犬のおしっこの回は反響が大きかったですね。
──確かにどちらも意味深なシーンでしたね。
担当編集:犬のおしっこ回は、萩原先生がある打ち合わせの時に「犬のマーキングの夢を見た」って言い出したことがきっかけで出来上がったエピソードなんです。
萩原:あ~~確かそうでしたね!
担当編集:あの回は「マーキング」をキーワードに組み立てた回で、打ち合わせ中に色々な話をして楽しかったですね。『娘の友達』は、読んでくださった読者さんの間で議論が起きたら成功ですねと話している作品なので、犬のおしっこ回はネット上で議論が起きてて僕はうれしかったです(笑)。
──制作体制についてもお話を聞かせて下さい。何度か最初はネームが苦手だったという話が出ていましたが、一人で週刊連載をするにあたって何か工夫していることなどありますか?
萩原:うーん……。人に迷惑をかけることですかね? つらい! できない! と言ってたくさん人に、主に担当さんに頼ってます(笑)。
あとは、アシスタントさんの体制を変えたことかな? 『バイバイ人類』の時は募集をかけてアシスタント業界の人にその場その場で来てもらってという形だったんですけど、漫画を描きながら雇用の管理をするのがとても難しかったので、今回は連載前から固定のアシスタントさんを固めてしまいました。
そうすることで「この絵のことは任せた!」って言えるくらいの体制が出来上がってとても気持ちが楽になったので、それが工夫ですかね。あとは人に迷惑をかけることです!
担当編集:(笑)。アシスタントさん達は、連載1年前くらいから「萩原スタジオ所属」みたいな形になってもらっていたんですよね。連載が始まる前の時期は、「萩原スタジオ所属」のアシスタントとして他のアシスタント先に行きつつも、萩原先生の絵柄に合わせた練習をして、能力的にすごく優秀なアシスタントさんチームが出来上がっていますよね。
萩原:アシスタントさん達は今度ドラマ化する、『モーニング』で連載していた『テセウスの船』に入らせて頂いたりして、すごく勉強になったみたいです。本当に助かりました。
──長時間お話ありがとうございました! 最後に最近のおすすめの漫画を教えてください。
萩原:答え、ちゃんと考えて来ました!(笑)。『ビッグコミックスピリッツ』で連載されていた山本直樹先生の『ありがとう』という漫画をおすすめしたいです。家族をテーマに描かれているちょっと古い漫画で、エロやグロの描写がすごいんですけどおすすめしたいです!
夫婦2人と娘2人の4人家族の話なんですけど、お父さんは単身赴任して家にいなくて、お母さんはアル中、お姉ちゃんはほわっとしてて、妹はしっかり者なんです。ある時お姉ちゃんが暴走族みたいな悪い連中に上手いことやられて、1話の冒頭で家の中で滅茶苦茶に乱暴されるんです。
そんなお姉ちゃんの隣でお母さんはアル中でぼーっとなっちゃって何もしないで酒飲んでて……。
──と、とんでもない状況ですね。
萩原:そんな中に単身赴任中のお父さんが帰ってきて、「何をやってるんだ! 家が荒れている! 警察なんてアテにならないから俺が何とかする!」って家にいた暴走族を一旦やっつけるんだけど、今度は家の周りを暴走族に囲まれている中で籠城することになり、犬の生首とかを投げ込まれる中「今日はお姉ちゃんの誕生日だから皆でケーキを焼くぞ!」って言って一生懸命ケーキを焼いて……っていう感じで話が進んでいくんですよね。
──情報量の多さ……! 読んだこと無かったので読んでみます……!
萩原:山本直樹先生は私が大好きで尊敬している作家さんで、エロもグロもすごく描くんですけど、その描き方がめちゃくちゃ冷たいんですよ。
キャラクターの誰にも感情移入せず、誰も大切に思っていないかのようなテンションで物語を描いていくのがすごくて……それが私の作品に影響を与えているのかどうかはちょっとわからないんですけど(笑)、大好きなのでおすすめです。中高生の時に読んで、「生きていくのは大変なんだな」って人生の糧になりました(笑)。
──その他におすすめの作品はありますか?
萩原:安田弘之先生の作品も好きです。おすすめは『ちひろ』と今その続編として連載されている『ちひろさん』です。
あとは新田章先生の『あそびあい』も好きですね。とても面白いですよ! ぜひぜひ読んでみてください!
──本日はありがとうございました!
直筆サイン入り色紙を読者プレゼント!
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下記の応募要項をご確認の上、どしどし応募くださいませ!
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(C)萩原あさ美/講談社
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