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ここに一人の変態が誕生した! 江戸川乱歩『人間椅子』を大胆“百合”アレンジした怪作、佐藤まさき 『パラフィリア〜人間椅子奇譚〜』

そう、椅子になればいいのだ!

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 人間椅子といえば?

 青森出身で和洋折衷の怪奇派ロックが長年高い評価を受けているバンドの……ではなく、その名の由来となった江戸川乱歩の短編小説である。

 ブサイクでモテない椅子職人の男が女性作家に送りつけた一通の手紙。大型の椅子の内部にすっぽり潜り込み、自分に腰かける女性の感触を味わうというゆがんだ趣味に関する告白文。それを読んだ女性作家は愛用している椅子がまさか!? と気づいて部屋から逃げ出し……という内容で、最後に軽く脱力させるオチがつくところまで含めて完成度の高い有名作だ。

 さて、そんなふうに男の身勝手な猟奇的嗜好をあつかった原典を、女の子が女の子に暗くも熱い執着をくすぶらせる百合マンガへ大胆に翻案したのが、小学館「やわらかスピリッツ」で2016〜17年に連載された『パラフィリア〜人間椅子奇譚〜』である。


パラフィリア レビューパラフィリア レビュー 『パラフィリア〜人間椅子奇譚〜』1、2巻

 150年の歴史を誇る女子学校に入学した主人公、亜間宮瞳子(あまみや とうこ)は、他人と目を合わせることができない体質で孤立している内向的な少女。

 瞳子は優秀で美しい生徒会長・神楽木マリにちょっとした親切を受けたのをきっかけに熱烈な片思いを燃やしている。そんなある時、初めて出会った日に借りたハンカチを返そうと生徒会室へ忍び込んだ瞳子は、一人用ソファに深く身をあずけてすやすや眠り込む神楽木先輩を目の当たりにする。

 自分はどれだけ恋焦がれても先輩に指一本さわることさえ出来ない。

 なのに、この椅子は先輩の全身とこんなに密着している。うらやましい、椅子がうらやましい。いっそ自分がこの椅子になれたらいいのに。

 そう、椅子になればいいのだ!

 芽生えた悪魔的発想は、早速実行に移された。ソファの内容物をくりぬき、長時間の待機にそなえて飲食物を入れるスペースまで確保する用意周到ぶりで、みごと瞳子が中に入るための“人間椅子”が誕生する。

 休みが明け、生徒会室で役員たちが業務をはじめると、改造ソファに潜り込んだ瞳子に歓喜の時が訪れる。

 感触を最大に味わうため全裸になった瞳子inソファと先輩の間は、薄い革一枚を挟んだだけの超至近距離。ああ、先輩が自分の上に乗っている。先輩の重みを実感する。ぬくもりが伝わってくる。いい匂いが漂ってくる。先輩がごそごそ身動きするたび、素肌がこすれて淫らな気分が盛り上がってくる!

 一日に数十分、椅子としてのよろこびを堪能する瞳子だったが──2週間もたったころ、事態は大きく転回する。マリが生徒会室で既婚の男性教師と不倫をはたらく現場を目撃してしまったのだ。

 男を翻弄(ほんろう)して慣れた様子でセックスに戯れる神楽木先輩。先輩にこんな一面があるなんて知らなかった。ほかの誰も知らないだろう。誰も知らない、私だけが知っている真実の先輩!

 瞳子はショックを受けつつも、人と目を合わせることすらできなかった自分が他人の深い秘密を見せてもらえる人間椅子の利点に、むしろ激しい興奮を抱くことになる。

無人になった校舎で、うれしさにまかせて全裸のまま満面の笑顔で駆け出す瞳子。

 祝福せよ、ここに一人の変態が誕生した!!

 ……という具合に、猟奇度はそのままに一人の少女の視点に置き換えたことで、原典に対して「同じなのに新しい」地平を示した快作である。

 第1話と最終回で、全裸の瞳子がソファの背面からずるりと抜け出す艶めかしい姿がリフレインしているところに注目してほしい。それらはおそらくサナギの殻から羽化する蝶のありさまをなぞった図で、エロいのはエロいのだが、彼女なりに積極的に生きる力を手に入れた解放感としてのエロスといえるだろう。

 「人間椅子」の変態性を温存しながらほろ苦い青春物語にもするというのは相当にアクロバティックだが、本作はそれをちゃんと成立させている。

 また、中盤からは神楽木先輩の関わる殺人事件が起こったのを機に瞳子の潜むステージが天井裏に移行して「屋根裏の散歩者」など他の江戸川乱歩作品の要素がカクテルされており、サスペンス物としても見どころが多い。

 現在はWeb連載全14回のうちほとんどがクローズドになっているので、関心をもたれた向きは単行本(全2巻)でチェックしていただきたい。




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