インタビュー

好物を聞くとイメージが変わるマリー・アントワネット 彼女が愛した素朴な郷土料理「クグロフ」とは(1/3 ページ)

パンがなければケーキを食べれば……なんて言ってないらしい。

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 「パンがなければ、ケーキを食べればいいじゃない」との発言で有名なマリー・アントワネット。こんな発言をする人は、いったい何を食べていたのでしょう。想像を絶するほどぜいたくできらびやかな料理かと思いきや、意外にも素朴な味を好んでいたようです。

 どんな食事をしていたのか、世界各国の歴史料理を再現するプロジェクト“音食紀行”を主宰する遠藤雅司さんに聞きました。

遠藤雅司さん

歴史料理研究家。世界各国の歴史料理を再現するプロジェクト「音食紀行」主宰。著書に『歴メシ! 世界の歴史料理をおいしく食べる』(柏書房)、『英雄たちの食卓』(宝島社)、『宮廷楽長サリエーリのお菓子な食卓』(春秋社)。『Fate/Grand Order 英霊食聞録』にて監修担当。

マリー・アントワネットは何を食べていたのだろう(エリザベート=ルイーズ・ヴィジェ=ルブラン [Public domain]

マリー・アントワネットが愛した素朴な郷土料理「クグロフ」とは

――マリー・アントワネットは、どんな食事をしていたのか教えてください

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 そもそも大食漢ではないこともあって、食事に関する記述が非常に少ないんです。肉をガッツリ食べるような人ではない一方、無類のお菓子好きです。お気に入りの一品として知られるのがクグロフです。

――クグロフとは、どんな食べ物なのでしょうか?

 当時の資料を元に再現しましたが、素朴な焼き菓子といったところです。レーズンやアーモンドが生地に入っていて、焼き上げたあとに粉砂糖で化粧をします。面白いのは、ビールを使っていることです。少しほろ苦い風味がします。

お気に入りだったという焼き菓子「クグロフ」(画像提供:遠藤雅司さん)

――これはフランスの焼き菓子ですか?

 もともとはフランスのアルザス地方の郷土料理です。マリー・アントワネットはウィーンのハプスブルク家の生まれですが、お父さんがアルザス地方の人ということもあって、子どもの頃から食べていました。

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 フランス王室に嫁いだあとも、毎週欠かさず食べたと言われています。国同士の国際結婚の場合、宮廷付きの料理人も一緒に連れて行きます。そういった料理人を使って、ヴェルサイユの人たちにウィーンの名物をもてなします。

 もともとフランスのお菓子だったクグロフがウィーンに行き、彼女によってフランスに戻ってきたんですね。

ビールが使われているというクグロフ。素朴な味がする(画像提供:遠藤雅司さん)

――「パンがなければ、ケーキを食べればいいじゃない」なんて発言するくらいの人なので、こんな素朴なケーキを好んでいたとは意外です。

 あの発言は、実際には言っていなくて、ゴシップ紙によるデマだということが分かっています。逆に、母親であるマリア・テレジアに宛てた手紙に「パンが値上がって庶民が大層苦しんでいるので、祝典はささやかなものにします」といった趣旨のことを書いているくらいです。

 「パンがなければ……」の発言は、フランスの哲学者ジャン=ジャック・ルソーによる自伝『告白』に出てきます。そこでは、とある大王妃の言葉とあり、マリー・アントワネットが言ったとは書いていません。そもそもこの『告白』は1765年頃の刊行で、当時、彼女はまだ10歳になるかならないかでした。年代が全く合わないのです。

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 フランス宮廷は、ルイ14世以降、財政赤字が続いていました。それなのに貴族はぜいたくな暮らしを続けていました。もともと、庶民からひんしゅくを買っていた状態で、外国から世間知らずな王妃を宮廷が迎え入れた形になり、庶民の不満がそこに向かってしまいました。

 いろんな逸話に尾ひれがついたことで、マリー・アントワネットが言っていないのに言ったように受け取られてしまいました。ですので、実際の彼女の実像とイメージのギャップが大きくなってしまったところがあります。

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