「HiGH&LOW」劇場版4作YouTube期間限定無料公開に寄せて――“LDHのファン以外”にハイローのすごさが伝わるまでのROADを振り返る(2/3 ページ)
あのころのざわめき、覚えていますか?
ドラマ版放送当時から淡々とファンアートをアップし続けていたCLAMPのみなさまを除くと、以前からのLDHのファン以外の層に広がったのは、公開からしばらく経過してからのことだった。こと自分の観測範囲の中で言えば、Twitterなどで最初に「なんかEXILEがすごいことを始めたらしい」という話が広がり始めたのは映画オタク、中でもアクション映画を見慣れている人たちからだったように記憶している。
自分のTwitterを漁ってみたところ、少なくとも「HiGH&LOW」という単語について「見に行かないとダメな気がする」と言及しているのは、2016年の6月27日が最古だった。映画の正式な公開は7月16日だが、すでにドラマ版は全話放送されており、その内容がジワジワと話題になりかけていた時期である。このドラマ版の存在を知ったおれは、当時契約していたhuluでまず全話見てから映画を見に行くことにした。
ドラマ版を見ることで感情移入できる、琥珀さんというキャラクター
しかしこのドラマ、話数が多い。2シーズン全20話、おまけにシーズン2では回想パートも長い。さらに言えば、最初の方はストーリーに整理がついておらず、いきなりコブラが鏡を殴っているところを見せられたりノボルがいたようないなかったような感じだったりと、いきなり見ても少々わかりづらい(キャラクターについては本稿ではそこまで詳しく説明しない。そういう名前のキャラがいるんだ、と思ってほしい)。
「アクションに金がかかっているのはわかるけど、これは面白くなるのか……?」」と思って見ていたおれがびっくりしたのは、3話のコブラvs村山戦だった。この2人の殴り合いが、とにかく異次元の動きと派手さだったのである。これに驚いたおれは、本腰を入れてハイローに向き合うことにした。
とは言っても、おれはそもそも話数の多いドラマを見慣れていない。ツイッターを漁ると、2016年の8月9日にようやく「THE MOVIE」を見に行ったとある。20話見るのにそこまで時間がかかったのだ。ずいぶんダラダラ見たものである。しかし、ドラマ版を全話見てから映画を見たことで、思わぬ効果があった。琥珀さん絡みのシーンを、ものすごく真面目に見ることができたのである。
これがこの原稿で一番言いたいことなのだが、ドラマ版を全部見てから順番通りに「THE MOVIE」に進むと、琥珀さんのテンションが完全におかしいことやハイローらしい派手さがものすごく腑に落ちるのである。公開当時、ツイッターなどで「THE MOVIE」のオープニングはよく話題になった。当時は誰も「下町の商店街の横で大爆発が起こり、即座にチンピラの群れが攻めてくる」という映像を見たことがなかったのである。そしてその直後、バイクに乗って出現するイケメンの群れ。今見ても惚れ惚れするようなオープニングだが、いきなり見せられたら「なんだこれ……」となるのもわかる。
しかしあらかじめドラマ版を全話見ておけば、ハイローのルールが頭に入っている状態でこのオープニングを目にすることになる。達磨一家戦などでの派手な乱闘が頭に入っているので、コブラたちがバイクに乗って現れても「よっ! 待ってました!」と比較的平常心で見られるのだ。あ、でも冒頭の爆発からの「山王の商店街と無名街ってあんなに近かったの!?」という驚きはありましたね。ハイロー世界の地理にはいまだに驚かされてばかりである。
同様に琥珀さんについての理解も、ドラマ版を見ておけばスムーズであった。なんせ龍也さんが死んじゃって、自分が作ったチームも潰れて彼にはどこにも行き場がなくなってしまい、MUGENの解散によってSWORD地区はバラバラになってしまった。そんな精神的にも壊れてしまった琥珀さんが、それぞれのチームが群雄割拠するSWORD地区に、かつての後輩たちの敵となって帰ってくる……。ドラマ版を踏まえれば、「THE MOVIE」の内容は劇場版らしい盛り上がりを持ったものだ。
琥珀さんはパンチのあるキャラクターである。むちゃくちゃ打たれ強いし、AKIRAさんの演技にも独特の圧がある。いきなりあれを見せられたら、おれだって困惑するし、「どうしちまったんだってアンタ、そりゃこっちのセリフだよ」と言いたくもなる。しかし、ドラマ版さえ見ておけば、「つらかったよね、琥珀さん……」と、琥珀さん視点からも感情移入できるのだ。「THE MOVIE」は、複雑な背景を持つ悪役として登場したキャラを、感情移入できるフックをちゃんと作りながら、それでもド根性で打倒する物語になっているのである。
その後ハイローは、映画が公開されるたびにどんどん話の規模が大きくなっていった。「RED RAIN」では劇中最強クラスのキャラである雨宮兄弟の過去と死闘が描かれ、「END OF SKY」では悪役である九龍グループの全容が明らかになると同時にアクションもグレードアップし、「FINAL MISSION」ではとうとう国家規模の戦いになってしまった。地元の不良の抗争劇だったのが国を巻き込んだバトルになるエスカレート具合は、製作陣のノリの良さとサービス精神の賜物だと思う。
そんなハイローに関してはよく「とりあえず『THE MOVIE』から見ても大丈夫」という勧め方を見ることが多い。冒頭でこれまでのあらすじと登場する各勢力の説明はしてくれるし、いきなり見ても確かに大丈夫だとは思う。あのオープニングのスピード感はドラマ版を見ていようがどうだろうが文句なく面白いし、その後のアクションシーンは日本映画のひとつの到達点と言えるものである。だから、今回のYouTubeでの無料公開で、いきなり「THE MOVIE」にいくのは大いにアリである。事前に「ROAD TO HiGH&LOW」を見ておくという手もある。
しかし、ドラマ版の内容を踏まえれば、なぜ「THE MOVIE」があの内容になったのかという点がよりくっきりと見えてくるのも事実だ。またハイローは「作りながら考える」スタイルで制作されているため、今となっては抜け落ちてしまった要素やノリもドラマ版には数多く含まれている。「THE MOVIE」公開前後のいまいち整理がついたようなついてないような感じを味わうためにも、今回のYouTubeでの無料公開で初めてハイローに触れた人には、ぜひともドラマ版も押さえていただきたい。2020年の今になっても、ハイロー公開前後のざわめきを味わうことができるはずだ。
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