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「でも今は逃げられないんです」 現役看護師に聞いた新型コロナ対応の最前線、その苦しい現状

看護師のAさんからお話を聞きました。

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 都市部における緊急事態宣言の発令から、2週間が経過しました。COVID-19(新型コロナウイルス感染症)が猛威を振るう現在、医療の現場では切迫した状況が続いています。日本看護協会の調査によれば、医療従事者に対する差別や、人員確保の困難、さらに4月20日現在全国54の施設において確認されている院内感染の問題など、医療従事者は心身双方において苦しい状況に置かれています。

 ねとらぼ編集部では関東の病院で10年以上勤務する看護師のAさんにコンタクトを取り、新型コロナウイルス対応の最前線についてうかがいました。病棟では何が起きているのか、院内感染はどのように起きるのか、そして看護師が今いちばん伝えたいことについて、緊急インタビューをお届けします。

新型コロナウイルスが生み出す「感染症」はひとつではない(日本赤十字社より)
日本看護協会では看護師向け相談窓口を設けている(日本看護協会より)

看護師が向き合った病棟の現実

――新型コロナウイルス感染症への対応は、いつごろから始まりましたか。

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 3月頭くらいからでした。私が勤めている病院は指定感染症病院ではなく、陽性患者の積極的な受け入れはしない予定でしたので、とりあえずスタッフ個々の出勤制限(37度5分以上で出勤不可、体調不良の場合はすぐに休む、など)が設けられました。

 マスクや消毒剤の制限も同じくして始まりました。3月の2週目を過ぎたころから、マスクは1日1枚になりました。衛生用品のストック管理も厳しくなり、何日に何個どこに出したか、利用状況がリスト化されるようになりました。

――新型コロナへの対応のなかで、「状況が変わった」と感じたタイミングはありますか。

 首都圏の自粛要請後ですね。4月に入り、発熱患者の外来受診が増え、陽性が疑われる患者を入院させるようになったころから、スタッフの心構えも変わりました。念入りな清掃や標準予防策(エプロン、サージカルマスク、手袋)の強化が目に見えて増えました。

――医療用品が不足しているとの報道が出ていますが、Aさんの職場の医療用品に関する状況はいかがでしたか。

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 サージカルマスク、消毒剤は管理されているものの、全く足りないということはありません。

 ただ、ウイルス対応のN95マスクは入荷予定がなく、再使用を余儀なくされています。サイズの小さいものもあり、それでも使用しなければならないので耳が千切れそうに痛んだり、頬に赤く痕がついたりしました。

全国の医療・介護施設ではさまざまな医療用具の不足が報告されている(日本看護協会より)

――病棟ではどのようなことに気を付けていましたか。

 とにかく自分が感染しないこと、そして院内感染を起こさないことを第一に、こまめにアルコールクロスでパソコンや器材、ドアや手すりを拭いたり、手指消毒と手洗い、エプロンやゴーグルなどの適切な使用を心がけました。

 また、休憩時間は通常2分割であるところを、2~3人ずつ/3~4分割に編成し直し、換気のできる個室や患者さんのいない病室などで1人で過ごすようにしました。中国での医療者の感染は、(医療従事者が)休憩時間に共に過ごして発生したと聞いていたので。

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 あとはナースステーションでも必要以上に集まらない、距離を取るなどして、気をつけていました。

 医療従事者はそれぞれ感染防止に努めていますが、知人の勤めている病院では院内感染が出て、病棟が閉鎖になってしまったと聞いています。

――気を付けていても院内感染が起きてしまう場合があるのですね。具体的にはどのように起きるのでしょうか。

 主に経路は2つあります。職員が無症状感染している場合と、面会者や外部の業者が無症状感染している場合です。

 感染力の強いウイルスなので、簡単に広まりますし、入院患者さんは抵抗力が弱まっている人が大半ですから、通常よりも罹患しやすいと言えます。患者さんにはなるべく手洗いを指示していますが、ちゃんと30秒以上しっかり洗ってくれる人はいません。動ける患者さんは院内を歩きます。職員も咳などのない患者さんとはエプロンせずに接するので、どこかのタイミングでウイルスが職員の衣服に付着する場合も考えられます。

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――院内感染が起きた背景にはどのような問題があると思いますか。

 PCR検査の件数が著しく少ないのは問題だと思います。入院する患者に対しては積極的にとってもいいのではないでしょうか?

 また、資材の枯渇や人員不足による多忙から、手洗いや手指消毒がおろそかになることも問題です。1月に中国で感染が発覚してから、国や地方行政が現場に対して何もできていなかったのが最大の問題でしょう。結局、指定感染症病院ではない一般病院は対応しきれず、院内感染の発生や、職員罹患による外来閉鎖に陥ってしまいます。

 また、ニュースの中には陽性が疑われる患者の受け入れ先が見つからない状況を「たらい回し」と報道するものがありますが、これは誤りです。

 (指定感染症病院ではない)一般病院は、院内感染予防のためにも、新型コロナウイルスへの対策が取れるまでは陽性が疑われる患者を受け入れることができません。診療ができる病院は限られていますし、対策をせずに診療すれば院内感染の危険性が高まります。適材適所の搬送を確認しているだけで、決して「たらい回し」をしているわけではないんです。

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院内感染に関する統計(日本看護協会より)

「今は逃げられない」――看護師を追い詰める現場の苦しさ

――新型コロナへの対応は看護師さんの生活にどのような影響をもたらしましたか。

 自粛要請があるのでそもそも出かけないのですが、実家にはもう帰れないですね。

 休みに関しては、始めの頃は良かったのですが、スタッフが発熱して休むケースが日に日に増えました。看護師は1日の業務をその日のスタッフで分割するため、日常業務が圧迫されたり、急遽夜勤を代わったりしなければならなくなりました。

 あと、夢見が悪くなりました。常にコロナの夢を見ます。

新型コロナウイルスの対応にあたる人はさまざまなストレスにさらされる(日本赤十字社より)

――新型コロナの影響で離職を余儀なくされる方はいましたか。

 この春、育休明けで復帰する予定だったスタッフが、復職しないことになりました。小さな子どもがいる中の復職は難しいです。万が一罹患した場合、子どもの世話ができなくなってしまうので。

――病棟で特に困っていたことを教えてください。

 PCR検査ができないことでした。レントゲンやCTで両側肺炎ですり硝子様陰影が出ていても熱が出ても、1日で続かなかった場合は検査を行う基準になっていないと判断されています。

 あとは病院にとっても、今回は未曽有の事態だったということですね。SARSよりも感染力が強く、潜伏する「見えない敵」である新型コロナウイルスとどう戦うのか、ノウハウがありませんでした。上層部に対応を確認しても、はっきりしないことばかりで、現場としては今決めなければ遅いということも全然決めてもらえず、後手後手の対応に振り回されていました。

――Aさん個人がいま不安に思っていることや、心配していることがありましたら教えてください。

 終わりがないこと、そしてこれから更に拡大されることを考えると、精神がもつか心配です。そうでなくともストレス発散できない状況なので……。いつ友人や家族に会えるのかも見通しが立たず、孤独です。

 きっと新型コロナウイルス感染症は、インフルエンザのように今後も付き合わなければならない疾患だと思います。アビガン(インフルエンザ治療薬の一種)が効くとされていますが、今後治療薬ができても、感染力の強い新型コロナウイルスを院内感染させないように行動していくのは、なかなか困難だと思います。2度3度感染している例を見ても、ワクチンがどこまで対応できるのかわかりませんし……。今現在のことも心配ですが、この先の未来もとても心配です。

 また、業務に疲弊して離職者が増えるのではないかという部分も不安です。私も正直辞めたいです……。でも子どものいる同僚や今まで何年も一緒に苦楽を共にしてきた同僚を考えると、逃げるわけにはいきません。もはや使命感だけで働いてます。もちろん危険手当てもありません。

 万が一自分が新型コロナウイルスで死ぬようなことが起きたら、ものすごく後悔すると思います。でも今は逃げられないのです。この身動きのとれない状況もストレスになっています。

不安、孤独感、見通しの立たなさが医療従事者のメンタルヘルスとして挙げられる(日本赤十字社より)
中国で行われた医療従事者へのアンケートによると、全体の半数にうつ症状が見られた(日本看護協会より)

 ――他に読者の方に伝えたいことはありますか。

 感染した人を責めないこと、感染を広げないことを心がけて生活してほしいです。土日の通勤時やSNSで、不要不急の外出を見かけるたびにため息が出ます。

 新型コロナウイルス感染症に罹患した患者さんは、日に日に呼吸状態が悪くなり、ご飯もろくに食べられず、3日前まで歩いてトイレに行っていた人でもすぐに息苦しさで動けなくなってしまうこともあります。そのような様子を見ると、看護をしている私も心苦しいです。患者さんは当然家族にも会えず、「もう年だし、こんなに辛いなら死んでもいい」なんておっしゃるんです。それを必死に支えて、ケアして、最前線で全力で働いていても、「ちょっとくらいいいよね?」なんて軽い気持ちで出掛けた人が感染拡大させるのかなと考えたら、心が折れそうです。

 また、新型コロナウイルスに感染したためにひどい差別を受けた人もいると知りました。人としてあってはならないことですし、そのような例があると、差別を恐れた人は感染を隠すようになります。それがまた感染拡大の要因ともなります。ベッドが足りないこと、資材が足りないことだけが医療崩壊ではありません。感染症を理由にした差別が広まるのも、医療崩壊です。

医療従事者に対する差別・偏見も問題視されている(日本赤十字社より)
医療従事者のためにできること(日本赤十字社より)

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