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1カ月2万1000円の“こづかい制”でやりくりする作者の悲哀描いた『こづかい万歳』が共感集める 作者に聞いた「小さな幸せ」を見つけるコツ

単行本は7月20日発売予定。せつなくも面白い「こづかい制夫」の姿にSNSで共感が集まっています。

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 1カ月を2万1000円のおこづかいで乗り切る夫を、ドキュメンタリー風に描いたマンガ『定額制夫の「こづかい万歳」 ~月額2万千円の金欠ライフ~』に、読者から絶望や共感の声があがっています。かたや「マジで好き」「いい旦那さんだ」といった声もみられる一方で、「結婚したくなくなってきた」とおこづかい制に悲観する声も……。作者で、作品の主人公でもある吉本浩二さん@yoshimotokoji)は、おこづかい生活をどうとらえているのでしょう? 話を聞いてみました。


(C)吉本浩二/講談社

 『こづかい万歳』は『週刊モーニング』(講談社)で月1ペースの連載中。第1話と一部のエピソードはコミックDAYSで読むこともできます。作者の吉本さんは、これまで『ルーザーズ~日本初の週刊青年漫画誌の誕生~』(双葉社)、『ブラック・ジャック創作秘話』(秋田書店)、『昭和の中坊』(原作:末田 雄一郎/双葉社)など、人間味あふれるキャラクターが登場する作品を生み出してきました。

 吉本さんの現在のおこづかいは月に2万1000円。ちなみに吉本さんと同じ40歳代の会社員のおこづかい平均は3万3938円新生銀行調べ)です。

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 今回のインタビュー取材はオンラインで行ったのですが、モニターに映った吉本さんを見てびっくり。顔、とくに目もとがマンガに登場する吉本さんそのまんまだ!


画面右が吉本浩二さん。リアル定額制夫だ。「時節柄、美容院に行けず、むさ苦しい髪型でスイマセン!」(吉本氏談)

連載開始で「周りの人たちが優しくなった」

―― SNSなどでの読者の反応をどのように見ていますか?

吉本浩二さん(以下、吉本):正直、そんなに暗い気持ちになるとは思っていなくて。もちろんうらやましがられるとも思っていないんですけど、ちょっと苦笑いしてもらえればいいなくらいだったんです。それがなんか、重たい感じの感想があったりするんで、意外でした。自分のことを言いたくなる作品なんだなと。自分はこういう生活をしているとか、自分はこうだって言いやすいマンガだということがわかりました。

―― 実際に周りにいる人たちはどうですか?

吉本:なんか、優しい感じです。特にマンガ関係の同業者がすごく優しいんです(笑) 出版社の集まりに行っても、すごくいい人が多いなっていうか。

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―― 気を遣われている感じになっているのかもしれませんね。「おこづかい制」というのは、結婚するときに決まったんですか?

吉本:そうですね。妻と一緒に暮らし始めたころ「お金のことはどうしようか」という話になって。妻のほうが金銭管理がしっかりしているんで、この人に任せたほうがいいなとなって。結婚当初からおこづかい制です。

―― 抵抗はなかったんですか?

吉本:うちの親がおこづかい制で、それを見て育ったので、あまりなかったですね。悪しき習慣は変えたほうが……とも思いましたけど、そうしたほうが生活と仕事がうまくいくかなと。

―― 金額についても、文句はなかった。

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吉本最初は3万円でした。社会人のおこづかいの平均が3万円代で、僕はほとんど家にいるので、「ランチ代はいらないんじゃないか」ってことでキリよく3万円に。

―― そこからお子さんが増えたので、2万1000円に減額されたんですよね。ちなみに今日(=取材日)は23日です。月初にもらったおこづかいは、現時点でどれくらい残っていますか?

吉本:今月は、あと5000円くらいあると思います。うまく使えた感じがします。もしかしたら余るかも……。


(C)吉本浩二/講談社

―― 貯金はしないんですか?

吉本:それはよく言われるんですけど、なんというか、使いきる喜びもあるんですよね。うまく使えたなというか、楽しい感じがするんです。使いきったからといって家族が生活できなくなるわけでもないので。その上での楽しさだとは思うんですけど。

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―― 作品では、同様に少ないおこづかいで頑張っている人たちが何人も登場します。このマンガを描いているから、そういう出会いが多くなるのでしょうか?

吉本:いえ、そうではなくて、やっぱりそれくらいのおこづかいで頑張っているお父さんが現実的に多いみたいで。たぶん、家をローンで買った人たちが今、一生懸命返しているのかなと。(いま暮らしている)埼玉県の郊外には、そういう人たちが増えているのかもしれません。

 埼玉の郊外って日本の縮図みたいな気がするんです。僕は漫画家で、不安定な仕事なので、節約するのはいいんですけど、会社員も昔に比べてあまり羽振りがよくない感じがします。会社員のお父さんたちも頑張ってるんだなっていうのは、すごく分かりますね。

―― でも皆さん、おこづかい制をある意味で楽しんでいるように見えます。

吉本:多分、家族のためにやっているからでしょうね。あと今は30歳を過ぎてから結婚した人が多いと思うんですけど、若いときはわりと自由にやっていて、そのときに発散しているから、今はこれでいいんだってなってるんじゃないでしょうか。

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―― おこづかいが多い人に対してうらやましいと思うことは?

吉本:正直ありますよね(笑)。あるけど、やっぱりその人の甲斐性の問題だと思うので、僕がどうこういうものでもないっていうか。うらやましいはうらやましいですけど、しょうがないというか。どういえばいいんだろう。

―― 私だったら周りの人を見て、つらくなりそうなんですけど……。

吉本:これは自分の経験でしかないんで、すごく断定的な言い方になっちゃうんですけど、僕は東京の都心に住んでたときのほうがストレスがあったかもしれません。いろんなすごい人、裕福な人が多いので、うらやましくなることもあったと思うんです。でも埼玉の郊外にきてみたら、意外と似たような人が多いというか。ローンで買った一戸建てから、都心まで頑張って通勤している人が多くて、そこまで生活環境が変わらないと思うので、そういうストレスがなくなりました。

―― なるほど。飾らない人が多いのかもしれませんね。

吉本:そうですね。埼玉はそこがすごくいいと思います。

「裏で頑張っている人たちを描きたくてたぶんマンガを描いている」

―― おこづかいを使うときに、気をつけていることはありますか?

吉本:高いものは買わなくなりましたね。あと、物を買うときは家計から出るのか、おこづかいから出すのかを必ず妻と交渉する。特に2000円以上のものは、「これは家計じゃないの」と打診してみて、ダメそうだったらそれでも必要かどうか考えて。衝動買いがなくなったかも。

―― できるだけお金を使わないで日々を楽しむ方法があれば教えてください。

吉本なんでも面白がることなんだろうなって最近思うようになりました。僕も独身時代は、わりと無駄遣いが多いほうで、お金を使うことで満たされていた。これはちょっと気持ち悪い言い方になるんですけど、家族がいると、話し相手がいるから、お金を使うことは次の段階になってるというか。

 近所に自転車に乗っているおじいさんがいるんですけど、1日に何回も家の周りをまわってて。今日は何回見たな、とか。あそこのうちの塀の穴から犬が顔を出してたなとか、定住、ある場所に覚悟をして住むと、急に身の周りの風景を楽しめるようになったのかな。

 とはいえ、自分の世界というか、自分の時間も欲しいからそれでおこづかいを使ってると思うんですけどね。なんというか、おこづかいが少なくなってからの方が楽しくなった感じもあります。家族がいなかったとしても、なにか面白いことがあったときにSNSとかで伝える相手がいたら、お金をかけずに楽しめる気がします。


(C)吉本浩二/講談社

――吉本さんの作品は『さんてつ』(新潮社)、『ルーザーズ』をはじめ、陽の当たりにくい場所で、地道に頑張っている人を描いたものが多いように思います。これはなぜですか?

吉本:世代論にしちゃうとあれなんですけど、僕は今年47歳で、同年代の人口がすごく多い世代だと思うんです。そうすると、小学校のときとか少年野球に入ったんですけど、毎日練習してもレギュラーになったことがないですし、公式戦も出たことがない。ずっと補欠で。中学ではサッカー部に入ったんですけど、子どもが多いから部員が多くて、それも補欠で。そういう経験があるからじゃないかなと。10代のころに脚光を浴びたことがなかったから。

――だからそういう人たちに目がいってしまう。

吉本:それはあると思いますね。それで自分自身を元気づけていたのかなぁ。あと、大人になってからテレビのADの仕事を1年間やってるんですよ。それがどう関係しているかうまく言えないんですけど、そこでいっぱい裏方の人たちを見ているから。それじゃないのかなぁ。裏で頑張っている人たちをいっぱい見ているから、そういうのを描きたくてたぶんマンガを描いているんだと思います。


 質問のひとつひとつに時間をかけて答えてくれた吉本さんの話を聞いていると、ほんの少しだけ「おこづかい制も悪くないのかもな……」という気持ちになりました。自分が置かれた状況を受け入れたうえで、それを面白がったり楽しんだりする。そんな、精神的な「余裕」を持つことが重要なのかもしれません。

 『定額制夫の「こづかい万歳」 ~月額2万千円の金欠ライフ~』は、モーニングおよびコミックDAYSなどで読むことが可能。7月20日には単行本も発売予定です。

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