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【ネタバレ】「ドラえもん のび太の新恐竜」のスパルタ教育と根性論 誤った“多様性”の危うさを考察(1/3 ページ)

「ドラえもん のび太の新恐竜」にはモヤモヤしてしまう問題が山積みだった。

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 公開中の「ドラえもん のび太の新恐竜」は、世間的にはおおむね好評を得ている。8月下旬現在、映画.comでは5点満点中3.9点、filmarksでは5点満点中3.8点をマークしており、子どもと一緒に見に来ていた親御さんからも十分に支持されているようだ。

「ドラえもん のび太の新恐竜」予告編

 筆者も、アニメーションとしてのクオリティーが高く、たくさんのワクワクするアイデアや見せ場が用意されており、楽しめた部分も十分にある、という前提で話させていただきたい。

 「のび太の新恐竜」は、とても問題の多い作品だ。「ドラえもん」という作品ではやってほしくなかった、つらいと感じる子どももいるのではないかとも心配する、危うい価値観が提示されていたからだ。以下に、その理由を解説していこう。

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※以下からは、「ドラえもん のび太の新恐竜」のラストを含むネタバレに触れている。鑑賞後にお読みになってほしい。

1:何重にも肯定される、スパルタ教育と根性論

 何よりもショックだったのは、のび太がすでに傷ついている、息子のようにかわいがっていたはずの新恐竜のキューに対して、スパルタ教育をすることだった。それは劇中で批判されることはなく、それどころか何重にも肯定されていく。

 たどり着いた新恐竜の住処で、うまく飛ぶことができなかったキューは、新恐竜のボスにカギ爪で傷つけられる。そこでのび太は「なんで……? キューが飛べないから……? 体がみんなより小さいから……? なら、僕が必ず、キューを飛べるようにしてみせる!」と宣言する。そして、のび太はすでに傷ついているキューを何度も何度も飛ばせようとして、キューは地面に何度もたたきつけられ、すり傷だらけでさらにボロボロになっていく。

画像は予告編より

 この訓練からキューは逃げ出す。しかし、しずかちゃんは自分を卑下するのび太に対して、「のび太さんはキューちゃんの気持ちがちゃんと分かっている。痛みや苦しみも分かっている」と言う……いや待ってほしい、この時に訓練から逃げ出したということは、キューは「もうイヤだ!」と思っていたのではないのか。それで気持ちが分かっていたといえるのだろうか。

 そして、クライマックスではキューは飛ぶことに成功する。それは「あれこそが恐竜から鳥への進化の瞬間だ!」と称賛される。“生物の進化のため”という大義名分まで持ち出して、キューが飛べることは“正しい”ことにされてしまう。

 劇中で「あの無様な飛び方は、鳥たちの羽ばたきの前兆だったということか」と言われているように、キューは他の恐竜の滑空する飛び方とは違う、(後に進化をする)鳥と同様の羽ばたきをしている。しかし、何度も何度も傷つきながら同じことを繰り返した結果として飛べたというのは、スパルタ教育だけでなく、古い根性論を良しとしているかのようにも思えてしまう。キューが「どこかで気付きを得て、工夫をして、みんなとは違う鳥のような飛び方ができた」というのであればまだ納得できるのだが、残念ながらそういう描写はない。

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 根性論やスパルタ教育が一概に否定されるものではないと考えたとしても、“体が小さい”という特徴を持つキューに、「みんなと同じく飛べるように強要する」ということそのものが残酷に感じられる。キューがもともと飛べない変種なのではないか、障害を抱えていないか、といった問いかけもされることはない。

 さらにラストでは、今まで逆上がりができなかったのび太が、逆上がりに成功する。もちろん、本来は努力をすることそのものの尊さを説いているのだろうが、スパルタ教育をさせてキューを飛ばせることに成功したのび太が、やはり工夫なく何度も同じことを繰り返し成功するという流れであるため、根性論およびスパルタ教育が完全に肯定されたように見えるのだ。

 この展開を、親御さんがストレートに受け取り、そして子どもの教育に反映してしまいかねないと、危惧さえしてしまう。「キューちゃんだって飛べたんだから、のび太だって逆上がりができたんだから、あなたもできるでしょ」といった具合に。

 劇中ののび太は、自分の自己否定的な気持ちをキューに押し付けて、それを無理やり克服させようとしている、親のエゴの塊にさえ見える。「できないこと」が努力により「できる」ようになるというのは確かに大切なことかもしれないが、それが当たり前のこととして扱われる、「つらくても頑張ったら報われる」というのは、つらい価値観の押し付けにしか思えないのだ。

2:のび太というキャラクターへの裏切りにさえ見える

 前述したスパルタ教育をするのび太は、今まで知っていたのび太というキャラクターとは、あまりにかけ離れていた。こんなのび太を見たくなかったのだ。

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 のび太は頭が悪くて運動音痴だが、そんな自分のことをわかっているからこそ、誰かの痛みにも寄り添い、誰かが傷つけられるのも見過ごせない、そんな心優しい少年だったはずだ。原作のエピソード「のび太の結婚前夜」での、しずかちゃんのお父さんのセリフ「あの青年は人のしあわせを願い、人の不幸を悲しむことができる人だ。 それがいちばん人間にとってだいじなことなんだからね」に代表されるように、のび太は大人になって忘れがちな、大切な価値観を教えてくれる存在でもあった。

画像は予告編より

 また、のび太は「やりたくない努力はしない怠け者」でもある。その名言(迷言)を軽くあげると、「ことしは計画的になまけていたんだ」「もう少しうまくなってから練習したほうが…」「坂道によわくてねえ。平らな山ならいいんだけど…」など、その屁理屈というか斜め上の考え方に「ダメだなあ」と思いつつも笑って、好きになってしまう、それがのび太だった。

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