こんなにうまいのになぜ関東で見かけない? 関西人はみんな知ってる「ポールウインナー」の謎
関西に引っ越して衝撃だった文化の一つ。
1カ月ほど前のことになるが、東京から神戸に引っ越した。これまでのところおおむね面白く、また普通に生活できている。住む場所が大きく変わったことで衣食住全てに影響があったが、今のところはまあなんとなく、ボンヤリやっていけるかな……といった心持ちである。
ただ、関東から関西への大移動だったので、周囲に見慣れないものは多い。特に食べ物に関しては、細かい驚きの連続である。その中でも衝撃的だったのが、ポールウインナーソーセージだ。最初にこのソーセージと遭遇したのは、妻が朝食として剥き身でそのまま食べているのを目にした時だった。オレンジ色のパッケージと、同じようなオレンジ色のフィルムに包まれたソーセージ……。見た目は関東で普通に売られている魚肉ソーセージとほとんど変わらない。しかしよく見れば、魚肉ソーセージよりもちょっと細い。
1本もらって食べてみて驚いたのが、その味だ。魚肉ソーセージのパンチの弱さとは大きく異なる、肉らしいぎっちりした味わい。原材料一覧の最初に「畜肉(豚肉、マトン、牛肉)」とあるので、間違いなく肉のソーセージだ。そしてその肉っぽさに全く負けていない、あとを引くしょっぱさ。一般的な魚肉ソーセージよりも細いのも、この味付けなら納得。もっと太かったら、多分ちょっと「くどいし濃いな……」という感じになっていたのではないか。とにかくインスタントに「肉の塊を食ってるな!」という気持ちになれるのがうれしい。何もかもが絶妙なバランスで仕上がっている奇跡のソーセージ、それがポールウインナーソーセージなのである。
火を通しても抜群、ビールにも合うポールウインナー
妻いわく関西ではポールウインナーをおやつ代わりに食べる人も多いそうで、確かにそのまま食べてもうまい。特に「別にがっつり食事をしたいわけではなく、ちょっと風呂上がりにビールを飲んだりしたいんだけど、そういう時に少しだけ食べるものがほしい……しかももう風呂出ちゃったから、一刻も早くビールを飲まないと死んじゃう……」というシチュエーションでは頼れるサイドキックとして大活躍してくれる。ビールとポールウインナーはさながらバットマンとロビンのような名コンビ。冷蔵庫から出して即食べられるという手軽さもうれしい。こういうざっかけないつまみで酒を飲むの、おれは大好きである。
しかし、ポールウインナーは火を通しても抜群だ。なんせ魚肉ではなく肉のソーセージなので、軽く焼けば中の脂が溶けてより香ばしい味に。おれのお気に入りは、適当にポールウインナーをちぎって(もう包丁なんか使わず手で適当にちぎるだけ)雑に卵と炒めてちょっとだけ塩コショウをかけて食べる「ポールウインナーと卵の雑炒め」である。ものの3分で完成する料理とすら呼べないような食べ物だが、これが不思議とうまくてご飯が進む。雑な食事を雑に食べる楽しさにぴったり寄り添い、そしてその味をグッと底上げしてくれる存在として、ポールウインナーソーセージはおれの中で不動の地位を得た。
なぜ東京では全然売られていないのか?
しかしなんでこんなにうまいのに、東京では全然売っていなかったのか。「まあ地方の名産つっても、だいたい東京で食べれるもんね」と、けっこうみんな軽く口にしていたじゃないか……。
ポールウインナーソーセージを作っているのは、ポークビッツやアルトバイエルンの製造元として知られる伊藤ハム。本社があるのは兵庫の西宮なので、れっきとした関西の企業である。同社のWebサイトによれば、ポールウインナーが誕生したのは1934年。製造に資本をさほど必要としない独創的な商品として、羊の腸などの天然ケーシングではなく、取り扱いが楽で衛生的なセロハンで包んだソーセージを創業社長が考案した。これがロングセラーとなり、今でも売られているのがポールウインナーなのである。そんなに歴史があるのか、このソーセージ……。
他にも気になることがあったので、伊藤ハム米久ホールディングスの広報さんに直接お聞きしてみた。まず、なんでこんなにうまいのに関東ではあんまり見かけないのか、という疑問である。これには、やはり巨大なライバルである魚肉ソーセージが深く関わっていた。
伊藤ハムによれば、1934年に誕生したポールウインナーが関西で大きく売り上げを伸ばしたのは1950年代だという。しかし当時は関西以外での販売網が整っておらず、ようやく関東へ本格進出したのは1959年のことだった。しかしそこに立ちはだかったのが、それ以前から関西以外で販売されていた魚肉ソーセージ。CMの放送や姉妹品の販売など手を尽くしてきたものの、やはり圧倒的に普及している上に畜肉のソーセージよりも安価な魚肉ソーセージの壁は厚く、60年以上経過しても関東への進出はいまだに成功していない。本格的な箱根越えは伊藤ハムの悲願なのだ。
では逆に、なぜ関西では世代を超えたベストセラーとなっているのかというと、これには学校給食が大きく関わっている。ポールウインナーは1965年に関西で学校給食に採用され、それによって多くの子どもたちが幼少のころからポールウインナーの味に親しむことになったのだ。原体験として子どものときに食べたことがあるんだから、大人になってからも食べたくなるのはよく分かる。関西育ちで関西以外に住んでいる人に向けて、伊藤ハムは自社Webサイトに「ポールウインナーみーつけた!」というポールウインナーの目撃情報をまとめたページを作成。関西人のソウルフードであるポールウインナーを非関西エリアでも楽しめるよう、全力のサービスを提供している(実際「関西以外で売ってないんですか?」という関西人からの問い合わせもよく届くという)。ていうかこれを見る限りだと、案外関東でも買えそうだな……。
もう一つに気になったのが、原材料一覧にあった「マトン」の表記。豚肉・牛肉は分かるけど、マトンって一体……。さらによく見ると「魚肉(たら)」という気になる記述も。伊藤ハムによれば、このあたりの原材料については発売以来ほとんど変わっていないという。「マトンや魚肉を入れたらうまくなったから途中から入れた」ということではなく、ポールウインナーはスタート時点からこの材料と味で完成されており、以降現在に至るまでほとんど材料の比率や味付けを変更していないのだ。もはやこれは食べる文化遺産、どれだけ最初からポールウインナーは完成されていたのかという話である。
伊藤ハムオススメの食べ方は?
そんなポールウインナーの伊藤ハムおすすめの食べ方は、カレー風味の千切りキャベツとポールウインナーを一緒にパンに挟んだ「大阪ドッグ」。聞くだにうまそうである。また、ポールウインナーは手を汚さずにそのまま食べられる手軽さが大きな特徴だが、電子レンジで10秒ほど温めると脂が溶けておいしくなるとのこと。「加熱するとうまいな~」とおれも思っていたけど、これは伊藤ハムも認める食べ方だったのだ。
その他のおすすめが、ポールウインナーを芯にした卵焼き。ポールウインナーにしっかり味がついているので、卵の方には特に何も加えなくてもおいしく食べられるんだとか。ってこれ、おれが一人で昼飯食べるときに作ってたポールウインナーと卵の雑炒めからあと半歩のレシピじゃないですか! どうやら、おれは知らないうちに伊藤ハムおすすめの食べ方にたどり着いていたようである。
というわけで、箱根から東ではまだまだレアなポールウインナーソーセージ。あくまで気取らない日常的なおいしさが売りの食べ物なので、「どうしても関西に行って食べて欲しい名物」というほどでもないのだけど、しかしすでにおれはこのソーセージが手放せなくなっている。例えば関西では新幹線が止まる駅の売店で短いタイプの小袋が売っていたりするので、なにかのついでにホイと買って、ビールと一緒に食べてみてほしい。魚肉ソーセージにはない、「肉食ってんな!」という満足感は保証する。
※価格は記事掲載時点のものとなっています
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