「なんで女の子なのに女の人の裸を観に行くの?」 不思議な芸能“ストリップ”の魅力を語りつくす『女の子のためのストリップ劇場入門』作者インタビュー(2/2 ページ)
作者・菜央こりんさんにインタビュー。【前編】
誤解されやすいテーマだからこそ、「わかりやすさ」を大切に
――連載が始まってからどうでしたか。
読者の方は「なんか始まったぞ」みたいに、普通に面白がってくれたのではないかと思います。ただ、ストリップファンの人の反応はすごく多かったけれど、一般の人の反応は……口にするのがはばかれるからか、あまりなかったかなって。
――「食レポマンガ」のようなレポートマンガとして受け入れられたのかもしれません。とはいえ、ストリップは誰もが親しんでいるテーマではないわけで……。連載するときに気を付けていたことはありますか?
「わかりやすさ」というのは気をつけていました。ストリップというわかりづらいテーマだからこそ、「人の目を引きつつ、ちゃんと理解してもらう」というところはすごく気を配っています。「わかりやすいけど人の心に刺さるもの」にしたくて。
――具体的にこだわったところはありますか。
まずタイトルですね。コミティアで売ったときの実感なんですけど「女の子のため」と書いてあることで、女の子がちゃんと手に取ってくれる。男女問わず、性的な要素のあるコンテンツを堂々と「買ってます」というのはハードルが高いですよね。でも、女性は、「女の子のため」と書いてることで、「読んでもいいかな」と思ってくれる。あとは、男性も「女の子向けだし、エロというより興味本位で読んでみました」という気持ちになれるから、手に取りやすくなった気がしました。
ほかには、連載の最初の方では業界用語みたいなものを使わないようにしました。ストリップ好きな人は、ダンサーを「踊り子」というけれど、最初はあえて「ストリップ嬢」と言わせて、後から「踊り子」という言葉があることに気づかせるとか。私はあっという間にストリップにはまっていたので、最初に感じたことを忘れないように、積極的に初心者と一緒に劇場に行って感想を聞いたりしました。あとは行ったことのない人の素朴な疑問に答えたりもしました。「ストリップ劇場ってなんで(踊り子さんに)さわれないのに行くの?」とか。
――演目を盛り上げるために、踊り子に向かってリボンを投げるリボンさんとか、アイドルみたいに写真が撮れるとか、そういう定番の情報を入れつつ、解像度が高いところがおもしろいですね。リボンさんにしても、「リボンの中に桜の花を仕込んで花吹雪を演出する」ことや、「リボンの長さを劇場の大きさによって変えている」ことなど、見続けていないと出てこない話があったり。あと、こだわりを感じるのは衣装ですね。
「作画資料!」と思いながらストリップを見てます。「ステージ見ながら書いてるんですか」ってけっこう言われるんですけど、目の前で踊っている踊り子さんに失礼になっちゃうので、もう見て覚えて。あとは会場で売ってる写真を買ったり。でも定番の衣装があるので、気を付けないとマンネリになってきたり、絵に描いてみるとセクシーさが伝わらなかったりして。ぱっと見て「セクシーだ」ということがわかりやすく伝わるチョイスをしています。基本的に「女の人を描くのが楽しい」という気持ちはあるので。
ストリップには自分の身体を受け入れるヒントがある
――連載していく中で変化していったことはありますか?
劇場に行くのが仕事になったので、気持ちが大変でした。緊張感がすごかったですね。誰かに話しかけられるだろうかとか、私がマンガを描いていることはどう思われてるんだろうとか余計に考えちゃったり……。現場の空気を伝えられなくちゃダメだと思って、お客さんのいろんな発言をよく読んだり聞いたりしていました。連載が終わった今は「もう気軽に見られるかな」と思っていたんですが、劇場に行ったらやっぱり「これマンガにできるかな」と考える自分がいます。
それから、連載中は雑誌のカラーもあり、女の人はあまり読んでいなかった印象がありました。単行本が発売されてから、やっと詳しい反応が届くようになって、「思い通りに伝わった!」と感じることも増えました。その一方で、最初の同人誌を出した2017年から比べるとタイトルの「女の子のため」という表現に否定的な気持ちを持つ人が増えた気がします。
――そういえば、ストリップ好きな女性を「スト女」と呼ぶ流れもありましたね。「同じファンなのに性別で分けられたくない」という声によって、下火になっている印象ですが。
「女性ファンを軽くみてるから“女の子”とつけた」わけではないんですが、この2~3年の間に世の中が変わったように思います。
――読んでみると、性別で人をはじくような内容ではないですけどね。「女の子のため」という点で言うと、おそらく多くの女性読者が印象に残ってるのは、菜央こりんさんがステージを観ながら「不細工な身体なんてないんだ!!!/人の身体ってみんな綺麗なんだ!」と感じるところだと思います。これをもう少しくわしく説明していただけますか。
これは見に行かないとピンと来ないかもしれませんが……。最初にお話ししたように、ストリップには身体がガリガリな人もいれば、ぽっちゃりな人もいる。きれいな人でもおっぱいの形が世間のいう理想とは違ったりと、多様な身体を見せている。
だけど、踊り子さんは照れ笑いや恥ずかしさを全く感じさせない。後から、それが踊り子さんにとっての作法というか、矜持みたいなものだとわかるんですけど。
その堂々とした姿に驚きますし、観客の男性がそれを見てとやかく言ったりしない。「身体が世間の言う理想であろうとなかろうと、あなたのファンです」という姿勢がいいなあと。私はそういう男性の姿勢を含めよかったと思うので、それも伝えられたらいいなって。見たことのない人はこの描写を見て「そんなことあるか」って思うかもしれないですけど……。そういうことがあるという事実を描くことが、女の人の力になるかもしれないと思って描きました。
――自分のお腹のぽっちゃりを気にしていたけど、ぽっちゃりした踊り子さんを見て、「むしろこのむっちりがエロくていいな??」と思う場面も話題になっていました。
その場面が意外に女性から受け入れられてよかったです。今読み返すともっときれいな言葉でコーティングしてあげればとも思うんですけど……。「セクシーである」というのは悪いことじゃないというのも伝えたくて。素直な表現だけど、反応を見ていると、これでよかったのかなとも思います。
インタビュー後編
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